脳内ライブラリアン

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内科医が知っておきたい精神科のエッセンス『状況別に学ぶ内科医・外科医のための精神疾患の診かた』

ちょっと前に楽天お買い物マラソンで買い漁った積読本を読み進めてます。

 

医学書なので臨床医向けですが、おすすめです。

 

頻度から考えると普通の内科・外科でも十分精神疾患の方に出会うと思うのですが、脳神経内科をやっていると特に多く出会うと思います。そして、その中でも難しいのが、いわゆる心因性の反応による麻痺・痺れなどですね。

 

本当に心因性なのかどうかを見極めるのも難しい時がありますが(世の中本当に不思議かつマイナーな神経疾患もある)、加えて心因性だと判断した時にどうしたら良いのか迷うこともあります。

 

また、神経の難病においては抑うつ傾向になることも多く、そんな方達にどのように接していけば良いのか悩ましい時もあります。

 

そんなわけで今回はこの本を買ってみました。

 

内容をざっと紹介してみます。

 

章ごとの本の概要

第1章では内科医が出逢いがちな精神疾患の患者のシチュエーションごとに解決策が提示されます。例えば、「外来で気分が落ち込み気味で体重減少している患者さん」とか「自殺未遂で救急搬送される患者さん」とかですね。具体例から入るアプローチで、個々の疾患などの詳しい話は後の章で説明されていきます。

 

第2章は診察、診断、治療薬、疾患など精神科の基礎知識が説明されます。

 

まずは精神科の面接について。精神科における診察と診断について説明されます。伝統的診断と操作的診断の話は実はよく知りませんでした。

 

疾患名がICDとDSMと色々ありすぎて、どの疾患がどういう概念か分からなくなり、精神科の先生からの紹介状に書いてる疾患が正直なんなのかよく分からなくなりがちですが、これを見て多少スッキリしたように思います。この辺は後の各疾患を説明した章でさらに補足されます。例えば、身体表現性障害、身体症状症、変換症、転換性障害とか皆さん違いが整理できていますか?私はできていません(汗

 

続いては、向精神薬の使い方。エビデンスに基づく話もちらほらありますが、基本的にはエキスパートオピニオンとしての使い心地の記載です。

 

実際問題として特に定量評価のできない精神科領域の話だと、エビデンスと言っても限界があるので、こうした具体的な話が書いてあるのは有難いと思います(もちろん多少の意見の偏りはあるでしょうが)。使わなければいけない時に目安になるものがないのはちょっと臨床医としては困るところなので、実臨床で使うにはこうした意見が重宝します。

 

最後に各疾患の基礎知識。神経内科は幻覚妄想のある脳炎認知症患者などを普段相手にいますが、そうなると時折鑑別が必要になるのは統合失調症。基本的な知識は知っておきたいところです。書いてある内容は「そういえば、国家試験の時にやったなあ」という内容も多いですが、改めて経験を踏まえてみると、より理解はしやすくなっています。

 

うつ病、身体表現性障害は神経内科の臨床でも出会う頻度がある程度高いです。特に身体表現性障害の患者さんはどう接したら良いのか。そして変換症、作為症、詐病の違いは何か。こういった具体的な話をもってきているので非常に役に立ちます。

 

ちなみに、患者さんへの接し方は以下のように述べられています

 

・身体症状に対する苦痛があることを認め、患者のおかれている状況を理解する

・「異常は何もない」よりも「すぐに治療を要する重篤な病気はない」という趣旨の説明をする

・考えうる病態モデルについて説明する

・焦って結果を出そうとしない。ゆっくりペースでよい

・自身の陰性感情を自覚して、それが出ないように心掛ける

・安易な処方はしない。薬を出す場合には単剤で標的症状を明確にしておく

・経過中、本当に身体因の可能性がないかどうかという意識を常に持っておく

(堀川直史 身体表現性自律神経機能不全 こころの科学2013;167:33-5)

 

考えてみると、「結構自分もやってるなあ」ということでしたが、より意識してやっていこうかと思います。

 

第3章では精神科との連携ということで、どのような精神科のある病院に繋いでいったら良いかが語られます。

 

最後の第4章は精神疾患へのよく問われるQ&Aの内容となっています。

 

エビデンスだけでない臨床的なリアリティのある一冊

この本のコラムに「精神科医って近寄りがたい?」という項目がありますが、確かに結構そういう人が一定数いる印象はあり、自分が働く病院の精神科の先生も一部の方は、そもそもあまり前向きにこちらの相談にのってくれない側面もあったりします。ただ、内科疾患の併存疾患として精神疾患を抱える人は多く、需要は大変大きいので、積極的に関わって欲しい場面は非常に多いです。

 

筆者は総合病院の精神科医という経験を生かして本書を書いており、内科医の視点から見たときに臨床的にリアリティのある内容が多く、類書にはなかなかない特徴となっています。

 

臨床で精神疾患との鑑別や精神疾患の合併も多い神経内科医は、ぜひ一度読むことをお勧めします。