J.S.ミルと自由について①
ただの素人が書く哲学者シリーズ。
前回書いたとおりジョン・スチュアート・ミルについて今回は調べてみました。
J.S.ミルというとどんなイメージでしょうか。とりあえず知っているのは「自由論」を書いていて何だか自由について重要性を主張していたこと、くらいでした。
また、経済学者・功利主義者として有名で、今でも残る数々の名言を残しています。
「満足した豚であるより不満足な人間である方がよい。満足した愚者であるより不満足なソクラテスである方がよい。そして愚者や豚の意見がこれと違っていても、それは彼らがこの問題を自分の立場からしか見ていないからである」(ミル『功利主義』より)
これはまたおしゃれな言葉ですね。他にも、「他人に危害を与えない限り、個人の自由は干渉されるべきではない」という他者危害原則、「思想・言論・出版の自由」もミルが強く主張した内容です。これらは私たちにもなじみ深く感じるのは、日本国憲法第13条(幸福追求権)、第21条にも同様の内容があるからかなと思います。
第十三条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第二十一条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
実際こうした自由の主張自体は当時として目新しいものではなかったようですが、その根底にある考えと主張の力強さが今も顧みられる理由のひとつです。そこで、ミルがなぜ個人の自由をここまで特別だと考えたのか、解釈してみようと思います。
J.S.ミルが生まれた時代は?
1806年に生まれ、1873年に亡くなっています。この頃のイギリスはヴィクトリア女王の時代で、インド・中国といった植民地をもち、黄金時代を迎えていきます。以前書いたアダム・スミスのころに工業化が進んでいますが、その後労働者階級への選挙権拡大を求めるチャーティスト運動(1837-1858年頃)や輸入規制の法律撤廃など自由主義運動が活発化してきており、さらに2大政党政治もなされています。自由主義運動の名がつく通り、ここにもミルは大きく関連してきます。
J.S.ミルはどんな人か
カントの人生はこれと言って書くことがないほどに、真面目~な人生でしたが、ミルについては色々逸話が多くあります。
ミルは1806年ロンドンに長男として生まれました。必ず触れられるのは父親であるジェームズ・ミル(1773-1836)です。現代人もビックリの教育パパです。
ジェームズ・ミルもJSミルと同様に学者であり、道徳哲学や経済学を学んでいました。以前に触れたアダム・スミスとも関連が少しあります。
アダム・スミスの弟子であるD・スチュアートから道徳哲学について学んでいるため、アダム・スミスの孫弟子であると言えます。ミルはさらにその父から教育を受けているのでひ孫弟子にあたるのでしょうか。
また、功利主義の祖である(功利主義については次回書きます)ジェレミ・ベンサムの盟友と言われており、これも子ミルに影響を大きく与えています。
さて、その父親の教育たるや凄まじいものがあります。学校には行かせず、父親の個人教授はなんと3歳から始まります。3歳でギリシャ語学習から始まり、8歳でラテン語、その後15歳になるまでにフランス語を習得し、数学、歴史、自然科学、経済学、倫理学の理論を叩き込まれます。
やばい、、、同じレベルでやろうと思ったら、うちの子は来年ギリシャ語教えないといけない、、、。
よくもこんなに教育受けて無事成長できたなあと思うのですが、実際父親に対しては思うところがあったようです。自叙伝の草稿にこのようなことを書いています。
「父は不釣り合いな結婚と烈しい性格のために、優しさと愛情の雰囲気を家庭内につくり出すことができなかった。私の少年時代に作用した道徳的な力のなかでもっとも好ましくなかったことは、愛の教育ではなくて、恐怖の教育であったことである。……私は教育はその一要素としての恐怖なしですませるとは思わないが、恐怖が主要な要素であってはならないと確信している。」(杉原四郎『J.S.ミルと現代』より引用)
まあ、そうだよね、、、。教育がなかなかに辛かったことをうかがわせます。
その後のミルは、17歳で当時インドの支配に強い力を持っていた東インド会社に就職します。これも父が東インド会社で働いていたためです。
自叙伝によれば、おそらくは父親からの重圧のため、20歳で「精神的な危機」に陥ったようです。そこでミルはフランスの作家マルモンテルの書いた回想録『父親の覚え書き』を読んで、涙を流し感動、精神的な危機から脱しました。なんというかすごく人間的に共感できるエピソードです。
そしてその後24歳で運命の女性であるハリエット・テーラー(人妻)と出会います。思った以上に長くなったので次回に分けます。
参考文献:
それぞれ簡単に紹介します。
杉原四郎著『J.S.ミルと現代』
少し古い本ですが、ミルの詳細な人生・活動と同時代に生きたマルクスとの比較、当時の日本との関連性など示しています。ミルは経済学、哲学に精通しており、その活動もかなり多彩であったため、今回テーマとしている”自由”だけでなく、環境活動や女性・労働者の権利、経済についてどのような考えをしていたかがよくわかります。
ピーター・シンガー、カタジナ・デ・ラザリ=ラデク著『功利主義とは何か』
現代を代表する功利主義者であるピーター・シンガーが書いた功利主義についての本です。様々な種類に分かれる功利主義についてや反論・疑問点をひとつずつ説明しています。功利主義というと「最大多数の最大幸福」という点で理解しやすく単純な思想のようですが、深めて考えるとどういうことになるのか、実によくわかる本です。この本自体が面白かったのでまた別でまとめる予定です。
児玉聡著『功利主義入門』
かなり前に買った本ですが、いまだに時折読み返します。哲学・倫理学について考える入門書としても分かりやすく、のめりこめます。
中村隆之著『はじめての経済思想史』
以前の記事でも紹介しました。読みやすいです。