脳内ライブラリアン

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手の筋肉と支配神経を覚えてみる

引き続いて神経内科専門医試験に出がちな手の筋肉と神経支配について、できるだけ簡単に覚えてみようと思います。

 

ある程度知っていると上肢の脱力をきたす疾患において原因となる部位が末梢神経なのか脊髄なのか、あるいはどの神経・レベルなのかをよりうまく当たりがつけられるようになります。

 

目次:

 

事前知識

まず各神経の大まかなイメージとして感覚神経の支配域を覚えてみます。

 

手掌側はこんな感じです。

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青色が正中神経、黄色が尺骨神経の支配域を示します。

 

環視は半分にわかれましてring finger splittingと言われています。ここで感覚の障害の有無がわかれる場合、尺骨神経あるいは正中神経の障害が疑われます。

 

続いて、手背側です。

f:id:medibook:20211207052857j:plain

ちょっと現代アートみたいな色使いになってしまいましたが、、、。

こちらは最も広い赤色が橈骨神経、青色は同様に正中神経、黄色が尺骨神経となっています。

 

それぞれの神経のなんとなくのイメージとして

正中神経→掌側広め

尺骨神経→第4-5指

橈骨神経→背側広め

という感じですが、これを活かして筋肉の支配も考えていきます。

 

原則

原則として覚えておくのは先程のイメージを使ってこんな感じです。

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正中神経(青色)が第1−3指の屈曲(母指のみ対立も)

尺骨神経(黄色)が第4−5指の屈曲(小指のみ対立も)

橈骨神経(赤色)が全ての指の伸展

という感じです。

 

またもう一つの原則として

第2−5指の外転内転は全て尺骨神経

と覚えておきます。

 

すると一部の例外を除いてこの原則に当てはまっていきます。

 

正中神経支配の筋肉

まずは正中神経から見ていきましょう。

 

第1指の屈曲・対立に関連するものとして

・長母指屈筋

・短母指屈筋

・母指対立筋

これらは全て正中神経支配です。

 

なお、母指には二つ例外があります。

・短母指外転筋

は手掌に対して垂直方向に母指をあげるのに働く筋肉で、正中神経支配です。Th1レベルで支配されていることから頸椎症と正中神経の障害の鑑別に役立ちます。

 

また

・母指内転筋

は名前の通り母指を内転させる筋肉で、イメージに沿えば正中っぽいですが尺骨神経支配です。尺骨神経麻痺で出てくるフロマン徴候で有名なので必ずおさえておかないといけません。

 

また、第2−3指の屈曲として

・浅指屈筋

・深指屈筋(1,2)

・虫様筋(1,2)

も正中神経支配です。

 

ここで例外として浅指屈筋は2−3指の関連のみならず全体に正中神経が関連します。

 

尺骨神経支配の筋肉

原則に沿えば、第4−5指の屈曲と第2−5指の外転内転に関連します。

 

よって、第4−5指の屈曲として

・深指屈筋(3,4)

・虫様筋(3,4)

が挙げられます。

 

また第5指の屈曲・対立に関わる

・小指屈筋

・小指対立筋

・小指外転筋

も尺骨神経支配です。

 

先程述べたように浅指屈筋は例外で、全て正中神経でした。

 

 

また第2−5指の内転外転に関わる

・掌側骨間筋

・背側骨間筋

はいずれも尺骨神経支配になります。

 

先ほど述べたように、あとは例外として短母指内転筋が尺骨神経支配でした。

 

後骨間神経支配の筋肉

ざっくりいえば伸筋の類は全て橈骨神経系の支配となります。なお、手の筋肉に関しては、橈骨神経が分枝した後の後骨間神経の支配となります。

 

第2−5指に関わるものとして

・示指伸筋

・小指伸筋

・指伸筋

があります。

 

第1指に関わるものとしては

・長母指外転筋

・長母指伸筋

・短母指伸筋

があります。

 

なお、髄節についてはまだ諸説あるものが多いので細かいところは議論の的のようですが、今回参考にした園生先生の書籍*1をみると大まかには正中神経支配の手の筋肉はTh1主体、尺骨神経、橈骨神経支配はC8主体ということになるようです。前腕の筋肉を加えるともう少し話は変わってきます。

 

まとめ

手の筋肉においては

正中神経が第1−3指の屈曲(母指のみ対立も)

尺骨神経が第4−5指の屈曲(小指のみ対立も)

橈骨神経が全ての指の伸展

さらに尺骨神経は第2−5指の外転・内転

を担う。

 

例外は浅指屈筋(正中神経)と母指内転筋(尺骨神経)となります。

 

参考文献:

*1『MMT・筋電図ガイドブック』

全ての筋肉のMMTおよび筋電図の取り方が載っています。各筋に対する臨床的な重要事項も詳細に書かれていますのでオススメです。

*2『イラストでわかる神経症候』

ちょっと古い翻訳書ですが、イラストが明快で、よく臨床的にも問われる神経症候が綺麗にまとめてあります。