【生きる目的が分からなくなってしまった人へ】フリードリヒ・ニーチェの思想④
前回はニーチェの思想の根本はルサンチマンという解釈から始まり、その結果がニヒリズムに至ることを説明しました。ここからそれを打破するための永遠回帰の思想について説明していきます。
前回までの記事はこちら
【生きる目的が分からなくなってしまった人へ】フリードリヒ・ニーチェの思想③ - 脳内ライブラリアン
【生きる目的が分からなくなってしまった人へ】フリードリヒ・ニーチェの思想② - 脳内ライブラリアン
【生きる目的が分からなくなってしまった人へ】フリードリヒ・ニーチェの思想① - 脳内ライブラリアン
目次:
ニヒリズムを徹底した結果の”永遠回帰”
真の世界なんてなく、生きることの意味や目的を喪失した「ニヒリズム」。この中でも生きる意味を見出すにはどうすればいいか。それを模索するための考え方が”永遠回帰”の思想です。
永遠回帰は要するに「来世なんてものはなく、自分の人生は今後も全く同じように何度も何度も繰り返し続ける」という考え方です。いわゆる無限ループですね。
イメージがつかみにくいのですが、竹田青嗣先生の本がここでも凄く分かりやすい例を出してくれています。
この世界観の最も単純なモデルとして、たとえばまったく抵抗のないビリヤード台の上でたくさんの球が、摩擦によって力を失うことなく永遠にぶつかり合って動き回っている、という状態をイメージしてみるとよい。時間は無限にあるから、一定の空間の中で一定のエネルギーがその力を減じることなく運動していると、いつかある時点で、以前のどこかの時点で存在したとまったく同じ物質の配置、配列が戻ってくる可能性があるはずだ。(竹田青嗣著『ニーチェ入門』より引用)
図にしてみるとこんな感じでしょうか。
結構厳しい考え方で
「善行を積んで来世に期待するぞ!」→「来世なんてなくて永久に繰り返すだけだよ」
「真の世界をみつけだすぞ!」→「そんなものなくて永久に同じだよ」
とまあ、こうなるわけなので、厳しすぎて人から嫌われそうです(笑)
ニーチェ自身は冒頭で述べた失恋事件のあとで、この思想が脳内にいきなり降りてきたことを述べており、失意の最中でふと思い浮かんだようです。
当時の最新物理学で明らかになってきたエネルギー保存の法則の影響を受けたものと思われるのですが(ニーチェも実は物理学をやろうかとしていた時期もあるようで)、思いついた契機と同様に、いきなり出てきた感じが否めません。ただ、ニヒリズムを徹底した結果がこの思想のように、「何も意味はなく繰り返すだけだよ」となるようです。
ただ実際のところ、ニーチェはこの考え方が正しい、と言ったわけではなく、あくまでこれは「ニヒリズムに耐えて新しい思想を打ち立てうるか否かの決定的な”試金石”である。(ニーチェ著『権力への意志』より)」としています。
カントで出てきた、「~せよ」という定言命法が、道徳的に正しいことを見抜くためのリトマス試験紙だった、という話と似ていますね。”永遠回帰”するとしても、なおそのことに喜びを見出せるかどうかが大事であるとしているわけです。
永遠回帰にどう立ち向かうか
無意味に繰り返される繰り返しをどう捉えたら、前向きに生きられるのか。今まではキリスト教批判から始まるちょっと大きな視点で書いてきましたが、個人の人生に目を向けてみます。そこでもルサンチマンを避けることが、良い方法の一つになります。
過去にあった出来事は変えられません。それに対して「なんであんなことしたんだろう」と否定をすることでルサンチマンが生まれます。そこで「本当の自分はこんな風じゃないんだ」と「別の真の世界」を求め、ニヒリズムにつながります。これはニーチェの考えによれば、意味のないことです。なぜなら、「本当の自分」や「真の世界」なんてものはなく、過去にあったことも永遠に繰り返すだけですから。
自分がやってきたことで良かったことも間違ったことも肯定することで、初めて永遠回帰を受け入れることができるだろうとニーチェは語っています。『ツァラトゥストラかく語りき』は聖書を模した物語のような体で、ニーチェの思想を語った本ですが、その中ではこのように述べられています。
苦痛はまた一つの歓びであり、呪いはまた一つの祝福であり、夜はまた一つの太陽だ―学ぶ気がないなら去れ。一人の賢者はまた一人の阿呆であると。一つの歓びに、然りと言ったことがあるか。おお、わが友よ。ならばすべての苦痛に然りを言ったことになる。万物は鎖でつながれ、糸でつながれ、愛でつながれている、―かつて一度あったことを二度欲したことがあるか。かつて「気に入った。幸福よ、刹那よ、瞬間よ」と言ったことがあるなら、万物の回帰を欲したことになる。(ニーチェ著/佐々木中訳『ツァラトゥストラかく語りき』)
永遠に繰り返したとしても、自分が肯定できる、そんな人生を歩もうという力強い言葉です。
ニーチェの答えは「力への意志」
ただ、この永遠回帰の思想に耐えうる新しい価値観というのはいったいどうすればよいのかが、難題です。合理主義や実証主義のように真理を仮定するわけにもいかず、なんでも疑ってかかる懐疑主義でも解決できません。
前回紹介した現象学も真理を仮定をいったん保留として(エポケー)、より真理に近いものを探るという点で、こうした批判を乗り越えることができる考えのひとつでした。
では、ニーチェが出した答えは何か。それは「力への意志」という思想でした。
続きはまた次回書きます。
参考文献:
紹介記事はこちらです。
初めてニーチェを読む人にお勧めの本紹介 - 脳内ライブラリアン