自炊用の裁断機としてデューロデックス200DXを買ってみた
ついに自炊用の裁断機を買ってしまいました。
デューロデックス200DXという大型裁断機です。
非常に便利でサクサク切れます。
意外と使用感を書いたページとか見つからなかったので、せっかくだから紹介しておきます。
目次:
なぜ本を自炊するのか
自分の場合は、まず自宅の本の置き場所が非常に少ないんですね。子どもに荒らされてしまうこともあり、奥まった部屋にある上、本棚も小さいものしかないのですぐにいっぱいになってしまいます。
加えて、普段本を読むのが主に通勤中で、毎回重い本を複数冊持つのも厳しい。特に何かの分野をまとまって勉強しようとするときに、ふと別の本に書いてあったことを思い出してチェックしたくなると、たくさん本がiPadに入っていた方がいいんですね。
そして自炊した書籍に対するiPad airの使いやすさも大きいです。以前記事に書きましたけど、「なんでも書き込める」「ノートの切り貼りも自由自在」「検索も可」とpdf化した方が使いやすい要素がてんこ盛りです。そんなわけで自炊が思わず進んでしまうわけです。
もともと自炊の際の裁断機は職場にある共有の裁断機を使っていたのですが、刃を変えてないため切れ味が悪くなってきていたり、切る場所の目安になるポインタもないので使いにくい、、、。
また、異動になったら使えなくなりますし、本をいちいち職場と家で運ぶのも面倒くさい。そこで、調べて裁断機を買うことにした、というわけです。
裁断機にはどんなタイプがあるか
大まかには「ディスクカッター」「ペーパーカッター」と呼ばれるものと「大型裁断機」の2種類があるようですね。
ディスクカッターはこんな感じのやつです。利点と欠点を簡単に書くとこんな感じです。
利点・・・比較的小さくて軽量、安い
欠点・・・厚みのある本は切りにくい、不安定
分厚い本もたくさん裁断したい(むしろそういった本の方がpdf化したときに検索機能が活きる)ので、個人的には困ります。
そこで大型裁断機です。
本体の重みがあって(5kg〜10kg以上)ハンドルを押し下げて切るものが多いですね。
利点・・・厚みがあっても切れる、安定している
欠点・・・高い、刃の交換がやや大変、場所を取る
厚い本が切りたいということがメインだったため、今回は大型裁断機タイプを購入しました。
デューロデックス200DXの感想
で、買ったのはこちらです。
A4サイズまでしっかり対応しており、18mmの厚みまでカット可能です。
文庫本なんかであれば一発で裁断できるものもありますね。
ここまでで個人的に最低限必要な要件は満たしていますが、さらにこれを選んでよかった理由として
①ハンドルを下げて縦置き収納が可能であること
②裁断の目安のライトがあること
③ハンドルロック機能がしっかりしていること
がありますね。
まず、横置きにするとこういった大型裁断機は場所を取りますが、これは縦置きにすると省スペースで収納できます。子どもが触りうることを考えると無闇に机の上などに置いておきたくないので、これがまず一つ気に入っている点です。他の裁断機は見たところ、このような縦置きができると書いてあるものは、調べた範囲でありませんでした。(単純にこう置くだけなら他のもできそうな気もしますが)
次に裁断時に目安となるライトがあること。
こんな感じで、裁断される場所の目安が赤いレーザーで表示されます。
本がたわんでいると、押し切るときに多少ずれてしまうこともありますが、概ねこのポイント通りで上手に切れます。これがないと切れ目を薄く入れながら微調整がいるので面倒です。
そして、最後にハンドルロック機能ですね。収納した状態から使用するにはハンドルをちょっと押し下げながら解除のロックの金具を外すというふた手間動作があるので、3歳と1歳の子どもがいますが、やり方を見せなければひとまず良いかと思ってます。いずれにしても触れるところに置くつもりはないですが、、、。使っていなければロックが基本的にかかるので比較的安心できる設計です。
早速裁断しまくってみましたが、使いごごちは良好。
この調子でガンガン自炊して快適読書ライフしていきたいところですね。
刃替えが面倒とのレビューが散見されるので、またその時が来たら追記でもしようかと思います。
不偏分散の期待値と分散【統計検定1級対策】
2014年、2018年の統計数理でいずれも出題されており、重要なポイントではあると思われる不偏分散の期待値と分散の導出などを書きます。
目次:
不偏分散の期待値
まず前提として平均、分散の分布をもつ確率変数Xから得られたn個のデータをとして標本平均をとします。
不偏分散(あるいは標本分散とも)はと表されます。
では最初に不偏分散の期待値が母分散に一致することを確かめます。
この期待値内の[ ]の変形はよく使われるので覚えておいた方が良いかもしれません。展開してみると一致することが分かります。
続いて変形していくと
さてここで
(標本平均の分散を表すため)
となりますので、それぞれ代入して
となりました。
不偏分散の分散
さて、続いて不偏分散の分散を求めてみます。
直接求めるのはなかなか大変なので、既に確立された定理などを用います。
例えば不偏分散と母分散の関係はカイ二乗分布で表されることに着目してみます。
でした。
この点については過去に一度記事を書きました。
よって自由度n-1のカイ二乗分布の分散は2(n-1)なので
となります。
コクランの定理の考えに沿って、不偏分散がカイ二乗分布に従うことを示す方法もあります。
http://wwwa.pikara.ne.jp/yoshifumi/Statistics/Statistics-6.pdf
この辺が参考になります。どちらも例としてこの不偏分散の話が使われています。
期待値のところでもあったように
と変形できますが、コクランの定理によれば
が成立します。
あとは上述した方法と同じですね。
不偏分散の一致性
こちらも以前出題されていたので、不偏分散が母分散に対して一致性を持つことをみてみようと思います。
確率収束についてみるにはチェビシェフの不等式を使うのがよくある方法です。
チェビシェフの不等式の導出はこちらで記事にしました。
実際、不偏分散についてチェビシェフの不等式に当てはめてみると、任意のk>0に対して
となります。
n→∞のとき右辺は0となるため、不偏分散は母分散に一致性を持ちます。
不偏分散の性質はこのようにちょっと工夫が必要で他の定理が絡む点が多く、問題が作りやすいのかもしれませんね。
ミシェル・フーコーの『臨床医学の誕生』を読んでみた①
久々に哲学者の本を読みつつ紹介してみます。
今回はもともと医師であったという点で何となく親近感の沸きやすい(?)ミシェル・フーコーを取り上げてみたいと思います。
以前に書いたニーチェと同様に「既存の価値観に疑ってかかる」ちょっとひねた感じのお話になるので、そういうのがむしろ好きな人はぜひどうぞ。
目次:
『臨床医学の誕生』はどんな本か
今回読んでみる『臨床医学の誕生』は名前の通り、近代の臨床医学がどのようにして誕生したかを描いた本です。
さて、ここで医学というのはどのように発展してきたと想定するでしょう?
素朴なイメージとしては、人体についての知識が科学技術が発展するに伴って少しずつ増えてきて、そうすることで新たな検査や治療が生み出されて、人はより健康を維持できるようになってきた、というものではないでしょうか。
このように医学が健康という一定の目標に向けて、ずっと一直線に過去から現在に向けて進んできた、という考え方を否定するのがミシェル・フーコーという哲学者です。
近代の学問の成立条件を問う哲学者
ミシェル・フーコーはフランスで1926年に生まれ、1984年に亡くなった哲学者です。
特に初期〜中期の著作においてミシェル・フーコーは医学、心理学、経済学、生物学、言語学といった近代の学問がどのようにして成立してきたかを考え、展開しています。『狂気の歴史』『監獄の誕生』『言葉と物』といった著作が特に有名です。タイトルからも歴史、誕生など、学問の成立条件に焦点を当てたことが分かります。
ミシェル・フーコーが問いを立てた近代の学問たちは、どれも「人間」を対象とした学問であることが特徴です。それ以前の17世紀半ば〜19世紀初頭にかけての時代に準備され、その後急激に登場してきたことを指摘し、なぜそのようなことが成立したかの条件について考察しています。
具体的でないと、分かりづらいので『狂気の歴史』を例にとってみてみます。
『狂気の歴史』で描かれる精神疾患の誕生
ミシェル・フーコーはもともと父親も医者であり、自身も精神科医として働いていたことがありました。25歳ごろ、パリのサンタンヌ病院で働いていた臨床経験が一つこの著作に影響を与えているとされています。余談ですが、ゲイであったり、そのことで悩んで何度も自殺をしようとしていたり、こういった自身のアイデンティティも著作に影響は多くあるようです。
特に象徴的なエピソードが、当時フーコーが担当し、親しくなった22歳の患者にロボトミー手術が施されたことであるとされています。
その患者は普段は物分かりが良いが、病気の症状が出ると手がつけられないほど荒れてしまい、薬の効き目はなく、自殺するような危険がある。そのためこの患者にロボトミー手術がなされたわけですが、結果として自己の意志を失ってしまいます。(なお、このような副作用のためロボトミー手術は現代では行われなくなっています)
これを目の当たりにして、ミシェル・フーコーは精神科医になるのを辞めたそうですが、同時に精神医学・心理学の科学性について問題を感じ始めます。
こうした流れから出てくるのが『狂気の歴史』という著作です。
現代で「狂気」あるいは「狂った人」について考えてみると、こうした人はどういう扱いになるでしょうか。身の回りに「狂人」がいたら、とりあえず精神科か脳神経内科に来ると思います。実際に外来をしていると「急に様子がおかしくなったんです」といって来られる人はいます(時に脳炎であったり、2次性の認知症だったりするわけですが)。
狂人=精神疾患or脳の疾患、という式は現代なら誰もが暗黙のうちに持っている物だと思われますが、これはいつから立てられた式なのか。それを考察するのが『狂気の歴史』です。
フーコーによれば、かつては狂人も普通の人たちと同じように生活していたと言います。例えば、プラトンによると狂人は「神がかった」ようなもので、神が人間の意識を訪れた徴候という解釈がされていたり、その後のルネサンスの時代までは、普通の人たちと生活空間まで区別されることはなかったとしています。
これがどこから変化したかということに関して、フーコーは1656年に設立された一般施療院に着目します。これは当時の西欧で増加していた貧者を皆まとめて入れておくような監禁施設でした。まともに労働することができない者たちの一部として狂人もここに収容されます。
外では労働力とならないものを管理して労働させ、かつ暴動などに結びつかないように抑えておくという政治経済的な理由と、労働は神聖なものであるというマックス・ウェーバーが示したような宗教的理由によって、これらの人々は施設に収容されることで「非理性」のカテゴリにまとめられるようになります。
この頃の収容されたような人々は正気を失っているもので治療の対象ではなく、動物を飼い慣らすが如く、調教されるものとして扱われました。実際にパリ市民の見世物となっていたというから驚きです。
さらに、その後18世紀半ばから徐々に資本主義的な社会が発展すると、こうした人々も国にとって富を構成する要素の一つとなり、解放されることとなりました。その中で狂人だけが家族や社会にとって危険性があるということで取り残されていくことになります。
こうして狂人だけを収容する施設が出来上がることで、「正常」「狂気」の線引きがなされ、狂気は客体的な対象物として認識されるようになります。そこで初めて狂気が治療の対象となり、その人の主体性とは切り離された“モノ“として扱われるようになっていきます。一連の流れを図でまとめるとこんな感じでしょうか。
こうした社会的・経済的要因や狂気を客体と捉え直すことが変化の原因である、と捉えるフーコーの考え方に対し、一般的な理論は異なっていました。
その代表例となるのが、監禁されるだけの存在であった狂気が、精神疾患として治療の対象となる様を描いているフィリップ・ピネル(1745-1826)の逸話です。フランスのビセートルにあった監禁施設においてピネルは狂人たちを患者として、理性的な人間として扱ったことで知られています。具体的には以下のようなエピソードです。
クートンが立ち去った後に最初にピネルが解放したのは、「給仕人を殴り殺した」ことのある「凶暴な」イギリス人中尉であった。ピネルはこの中尉に、理性的にふるまうことを約束するなら、鎖を解き、中庭を歩く自由を与えると申し出る。この注意はこの条件を受け入れ、中庭を「走ったり、階段を上り降りしながら、絶えず<何と美しい!>と叫んでいた」。彼はその後二年間ビセートルにとどまったが、「もう発作的に暴力的になることはなかった。彼はこの施設に有益な人物となり、狂人たちに一種の権威をふるうようになった。自分なりに狂者たちを支配して、いわば番人となった」という。(『フーコー入門』中山元著より引用)
「理性的に扱うことで、人間性の解放をうたい、臨床医学・心理学の科学的発展によって治療すべき精神疾患が見出された」というのはフーコーによれば現代の視点から見た“神話“に過ぎないとされます。そうではなく、「社会が狂気=精神疾患とした」と考えられるわけです。
なんとなく現代にはこうしたフーコーと同様の考え方が染み渡っているためか(自分の性格かもしれませんが)上述したような“神話“を聞くと、個人的には胡散臭いと思ってしまいますけどね。
このように科学的で当然のように思える近代的な学問も、歴史的な様々な経緯が地層のように積み重なってできていることを探究する方法をフーコーは「考古学」と呼び、様々な学問の探究に応用していきます。代表的な著作である『言葉と物(1966)』『知の考古学(1969)』はまさにその理論を深めていったものと言えます。
意味の経緯を辿るという意味では、ニーチェの『道徳の系譜学』の影響を強く受けているとされています。ニーチェは善悪の概念がキリスト教の存在によっていつの間にやらひっくり返ってしまった、ということを説明していましたが、これも同じように“道徳“には歴史的な経緯が積み重なっていることを明らかにしたものでした。前にも記事を書きました。
【生きる目的が分からなくなってしまった人へ】フリードリヒ・ニーチェの思想③ - 脳内ライブラリアン
考古学の手法を使って近代の臨床医学がどのように誕生したかを調べたものが、今回題材としたい『臨床医学の誕生(1963)』です。
さて、次回から『臨床医学の誕生』の中身を見ていきたいと思います。
参考文献:
それぞれの紹介はまた別記事で作ろうかと思います。下記の中では『フーコー入門』(中山元)が一番読みやすかったです。各著作の流れが順を追って説明されており、どういった考えと時代背景のもとに書かれていたかがざっと分かります。もっとカジュアルに読むなら構造主義全体を俯瞰する『寝ながら学べる構造主義』がおすすめです。
周辺確率関数・条件付き確率関数・条件付き期待値・条件付き分散・全分散の公式【統計検定1級対策】
過去問を解いていて2回くらい概念がごちゃごちゃしたので、周辺確率密度関数と条件付き確率密度関数から条件付き期待値、条件付き分散をざっと定義まとめます。
周辺確率関数
まずは周辺確率関数から。X、Yを2つの確率変数の組として考えます。
同時確率関数は
で表されます。
このときyの周辺確率関数は
離散型確率変数の場合
連続型確率変数の場合
となります。
条件付き確率関数
条件付き確率関数は以下の式で定義されます。先ほどと同様の例においてであるという条件のもとで
となります。
条件付き期待値
条件付き期待値は条件付き確率関数に対して、そのまま期待値計算をすれば良いです。
離散型の場合
となります。
連続型では
となります。
条件付き期待値であることを明示するときは
という書き方もするようです。
なお、よく用いられる変換として
というものがあります。
実際中身を見てみますと
ここでシグマを交換すれば
となります。
連続型の場合も同様に積分の順序を交換できれば成立することがわかります。
条件付き分散
続いて条件付き分散です。
定義としてはの条件の時
となっています。
また全分散の公式というものがあり
という等式が成り立ちます。
どうしてこうなるのか右辺を分解してみてみます。
第1項は
第2項は
となり、足し合わせると左辺に等しくなることがわかります。
全部の確率や期待値、分散がわからないケースではこうした条件付き期待値や分散から求めることができるので、重宝されます。
参考文献:
シグマ計算を機械的に行うための3つの公式 | 高校数学の美しい物語
意外に難しい条件付き”分散” - ChunPom’s diary
【統計応用・医薬生物学】ロジスティック回帰分析の数式とAIC・カルバックライブラー推定量【統計検定1級対策】
2018年の統計応用・医薬生物学にロジスティック回帰の式とモデル選択について問題が出ていたので基本的な概観を書いてみます。
基本さえ押さえていれば計算が煩雑でないので、知っていれば結構簡単な問題だったと思うのですが、逆に数理的な背景を知らないとさっぱりです。統計応用はそのパターンが多いですね・・・。
目次:
- 一般線形モデル(general linear model)
- 一般化線形モデル(generalized linear model)とリンク関数
- ロジスティック回帰分析と調整オッズ比
- 赤池情報規準(AIC)
- カルバックライブラー情報量
一般線形モデル(general linear model)
ロジスティック回帰分析は一般化線形モデルと呼ばれるものの一種です。まずそもそも一般化線形モデルってなんやねんと思うわけですが、その前に一般線形モデル(general linear model)を見てみましょう。
知りたい数値である結果変数yとそれに影響を及ぼす説明変数x()として
のような関係で見たモデルを一般線形モデルと言います。βはパラメータと呼ばれ、それぞれのxの影響の大きさに関連します。は誤差項ですね。また右辺をまとめて線形予測子と呼ばれています。
この式に基づいて分析していくのは、いわゆる重回帰分析と呼ばれる方法になります。最小二乗法と呼ばれる方法でβを求めていきます。この辺は以前にも記事を書きました。
一般化線形モデル(generalized linear model)とリンク関数
これに対してロジスティック回帰分析は一般化線形モデルと呼ばれるモデルの一種です。ロジスティック回分析では結果変数と説明変数が次のような関係になります。
左辺がロジット関数と呼ばれる関数の形になっています。左辺の関数の形をリンク関数と呼びます。これが先ほどの一般線形モデルのように、そのままyではないものが一般化線形モデルです。
このような結果変数・説明変数の式関係をもとに分析をするのがロジスティック回帰分析です。
結果変数・説明変数の関係性を線形予測子・リンク関数を用いてモデリングしますが、そのやり方によってモデルが変わるわけですね。
ロジスティック回帰分析と調整オッズ比
先ほどの線形予測子とリンク関数の式を色々と変形してみると、とても便利な形になっていることがわかります。まず結果変数yを左辺に持ってくるようにしますと
となります。この式から0<y<1であることがわかりますので、結果変数は確率を示すのに適していることがわかります。
よくあるのは2値データの起こる確率をロジスティック回帰で予測するというものですね。
結果変数をθとして治療で何らかの反応を示す確率としてみます。つまり、先ほどのyをθで置き換えて
とします。
得られたデータに関して反応があったときにy=1、ないときにy=0とすると
P(Y=1)=θ
P(Y=0)=1-θ
となります。
そうするとYは確率θのベルヌーイ分布に従う確率変数であることがわかります。
このとき、パラメータβの値が各説明変数のオッズ比の対数を取ったもの(対数オッズ比)を示しています。過去問でも出されていたので、それを確認してみます。
まず上述の条件の時、対数オッズは
となります。
さて、ここで疾患の反応確率に関わるある因子を持つ患者を、因子を持たない患者をとしてみると対数オッズ比は
となります。
よってが対数オッズ比となることが分かりました。
ここから説明変数が1増えるとオッズ比がどう変動するかがわかります。この時のオッズ比は他の説明変数を固定したときの変化を示しているため、調整オッズ比(adjusted odds ratio)と言われます。
赤池情報規準(AIC)
これも問題に出ていたので触れておきます。
説明変数を選択する際に「データへの当てはまりの良さ」を優先すると当然ながら説明変数を増やせば増やすほど精度は良くなります。
ただ、説明変数があまりに増えると煩雑であったり、また次に得られたデータを予測する際には役に立たない可能性も十分あります。
そこで、「予測の良さ」に焦点を当てたときに、どの説明変数のモデルであれば良いのかを評価する規準の一つが赤池情報規準です。
以前その意味と導出に関しては記事を書きました。
式としては
AIC=-2log対数尤度+2×最尤推定を行なったパラメータ数
となります。
先ほどの例で考えますと、対数尤度はYがベルヌーイ分布を取ることを利用して導出できます。得られたデータがn個あるとして、それぞれについて
が成り立ちます。(i=1,2,3,...,n)
まず尤度関数は
となります。
ここで
であり
なので、対数尤度は
となります。
となります。
カルバックライブラー情報量
さて、これもまた問題に出ていたので触れてみますが、AICはカルバックライブラー情報量が小さくなるようにしてモデルの良さを評価する方法です。
カルバックライブラー情報量とは真の分布があると仮定したとき、モデルとなっている分布と真の分布の違いの大きさを数値化したものです。真の分布との“距離“とは厳密には違うようです(真の分布からモデルとなる分布を見るか、モデルとなる分布から真の分布を見るかで数値が変わるため)。
式としては真の分布をq(x), モデルとなる分布をf(x)としたとき、真の分布による期待値をとって
と表されます。
具体例として今回のようなベルヌーイ分布の場合を見てみます。
真の分布を確率θのベルヌーイ分布q(x)として、モデルとなる分布を確率πのベルヌーイ分布f(x)としてみると
となります。
これだけわかっていれば過去問も簡単に解けるのですが、範囲が広い分対処する自信が無くなりますね、、、。各分野のあんまり細かいところは出ない気がするのでそれなりに幅広く基本を理解しておく必要があるのかなと思ってます。
参考文献:
いつも参考にしてます。
REGN-COV2069試験(抗体カクテル療法の予防投与)とREGN-COV2067試験(治療)について調べてみた
昨日のニュースでcasirivimabとimdevimabの抗体カクテル療法の承認申請が出ていました。今の時点では出ていない情報が多いところですが、興味深かったのでひとまず調べたところを書いてみます。
COVID-19の外来患者に投与した際の入院・死亡リスクを検討した第1-3相試験(REGN-COV2067試験)で結果が出たことで申請が出ているようです。
ただ、これについてはどうやら論文化はされていないようなので、詳細は調べても分かりませんでした。あとでわかる範囲を記載してみます。
(2021.07.31 追記:プレプリントで論文化されていましたので別で記事にしましたREGN-COV2067試験(抗体カクテル療法、治療)についての追記 )
予防投与を行なった試験(REGN-COV2069)については、Preprint(査読前)ですが結果が論文化されていたので、まず内容をみていきます。
目次:
REGN-COV2069試験(予防投与)
試験の概要
Clinical trials.govでの概要はこちらにあります。
元論文はこちら
Subcutaneous REGEN-COV Antibody Combination for Covid-19 Prevention
またsupplementary appendixはこちらにあります
Subcutaneous REGEN-COV Antibody Combination for Covid-19 Prevention | medRxiv
アメリカ、ルーマニア、モルドバ共和国で行われた多施設四重盲検(Participant, Care Provider, Investigator, Outcomes Assessor)のランダム化比較試験となっています。
ざっくり言うと「家庭内でコロナ感染があった場合の同居者に予防的に中和抗体を投与して発症がどうなるか」をみた試験と言えます。
PICOに沿って整理してみます。
P(被験者):
12歳以上、SARS-CoV2感染にした患者と同居かつ患者と28日以上の同居が見込まれる人。
基準に合致した被験者は、同居者の感染が分かってから96時間以内にランダム化される流れなようです。
その時点でRT-qPCR検査を受けて陰性かつ血清学的に既感染を示す結果や過去にPCR陽性となった病歴がなければコホートA(今回の予防投与の研究)、陽性かつ既感染がなければコホートB(別の研究になるので後述)に分けられます。
詳細なinclusion, exclusion criteriaはsupplementary appendixに記載されています。
なお、ここは重要な点だと思いますが、ワクチン接種者は除外されています。
I(介入):
ランダム化のベースラインのタイミングで、皮下注射で4箇所に計1200mgの中和抗体カクテル(カシリビマブ+イムデビマブ)を投与
C(コントロール):
皮下注射でプラセボを投与
O(アウトカム):
Primary outcome
28日時点でPCR陽性かつ症候性の被験者の割合
症候性の基準としてはbroad-term(広義), CDC definition, strict-term(狭義)とそれぞれ分けられているようです。
Outcomeがどういった基準になるかは重要な点なのでsupplementary appendixから見てみます。
広義では
38℃以上の発熱 or 熱感・鼻水などの諸症状
(結果も最も多いのでorだと思いますが、orなのかどうか記載がない)。
CDCの定義は
2つ以上の症状
or 咳、息切れ、呼吸苦、新規の嗅覚異常、新規の味覚異常
or 臨床的もしくは画像で肺炎、ARDSをきたす重度の呼吸障害
狭義は
38℃以上の発熱+1つ以上の呼吸器症状
or 2つ以上の呼吸器症状
or 1つ以上の呼吸器症状+2つ以上の非呼吸器症状(下痢、頭痛、筋肉痛など)
それぞれの場合の結果が別々にsupplementary appendixに記載されています。
Secondary outcome以下は多数あるので割愛します。
また、7ヶ月のフォローアップピリオドをとり、有害事象などが観察されています。
結果
まず候補となった2475名のうち、PCR陰性が2067名(83.7%)でした。そのうち、既感染を疑う所見がなかったのは1505名(72.8%)でした。
と言うわけでこの1505名がランダム化され、介入群753名、コントロール群752名となっています。
なおこのうち被験者たちと同居し、発症していた患者のうち25%が同様のカクテル療法を用いたREGEN-COV2067試験(外来患者の治療試験)を受けているようで、少しややこしいのですが、影響はないと論文中には記載されています。
Primary outcomeを満たしたのは介入群11/753名(1.5%)vs コントロール群59/752名(7.8%)でp<0.0001という結果となりました。
相対リスクだとわかりにくいので、絶対リスク減少(ARR)で考えると6.3%、NNT(number needed to treat 何人に使えばアウトカムを1人減らせるか)に直すと約16ですね。
また症候性の定義が変わった場合ですが
CDCの定義では6.1% vs 0.8% (ARR 5.3% NNT 約19)
狭義では2.9% vs 0.3% (ARR 2.6% NNT 約38)
となっています。
有害事象
全体に認められた有害事象は介入群 vs コントロール群で20.2% vs 29.0%でした。また、COVID-19関連ではないと考えられる事象は16.0% vs 16.5%でした。
死亡者はどちらの群も2名ずつ出ており、プラセボ群では心停止、銃による創傷(!)が原因で、介入群ではうっ血性心不全、突然死でした。
現状で不明な点
・ワクチンの影響
Discussionにも記載されていますが、今回の研究はワクチンがない状態での家庭内感染を防ぐ目的で行われているので、ワクチンが普及している現状ではベネフィットが大きく変わる可能性があります。
・副作用
家庭内では感染リスクが高いとはいえ、プラセボ群でもアウトカムを満たすのが7.8%です。新規の薬剤で未知の有害事象が起こりうるのは避けられないことですが、健常者にうつことを考えると、副作用の程度と頻度は重要になります。今回出ていた死亡者が、そういった突然の死亡が起こりうるベースがあったのかどうかは気にかかります。
・薬価
どうしても抗体医薬なので高いかと思いますが、、どうなのでしょうか。
・アウトカムの意義
発症を防ぐことでどこまでベネフィットが得られるのかがリスク因子の多い患者かどうかで変わるため、このアウトカムにどこまでの意義を見出すかが難しいところです。また、さらなる感染を防げるのかどうかは現時点ではまだ分かりません。他に検査での偽陽性の問題も挙げられます。いずれのアウトカムの定義にしても差は出ているので、効果はあるものだろうと思われます。
以上の点を踏まえると、ワクチンが行き渡っている現状で、予防投与に関しては適応をどこまでにするのか、がかなり難しい問題となりそうです。
PCR陽性群のコホート
最初のランダム化の時点でPCR陽性となった群はコホートBに振り分けられ、別の研究として論文化されています。
Subcutaneous REGEN-COV Antibody Combination in Early SARS-CoV-2 Infection
基本的な試験の構造は同じで、アウトカムが「28日時点で症候性となった割合」となっています。
314名が組み入れられ、既感染の所見がない人が207名でした。
結果は介入群 vs コントロール群で29/100(29%) vs 44/104(42.3%)でp=0.038と有意な差を示すものとなりました。
有害事象も差はなく、死亡者は出ていなかったようです。
なお、こちらの研究のsupplementary appendixもここで見られます。
Subcutaneous REGEN-COV Antibody Combination in Early SARS-CoV-2 Infection | medRxiv
REGN-COV 2067試験(外来患者の治療)
一番肝心なのは治療に関する話だと思いますが、こちらの試験はまだ論文化されていないようで、詳細が分かりませんでした。
上記のClinical trial.govでもまだ試験終了となっておらず、第1−2相試験時点での情報しかありません。第1-2相はNEJMに載っています。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2035002
Clinical trialsの情報とニュースリリースの情報(下記)によると4567名の大規模な四重盲検ランダム化比較試験で、Primary outcomeは少なくとも1回のCOVID-19関連入院もしくは死亡となっているようです。
Outcomeとして公表されている部分としては1200mg投与群 vs プラセボ(n=736+748)、2400mg投与群 vs プラセボ(n=1355+1314)と2つの用量にわかれています。
今のところ結果はここに出ているものしかないみたいですね。
primary outcomeとしては1200mg群 7/736(1%) vs プラセボ 24/748(3.2%) でp<0.0024と有意差があり、2400mg群 18/1355(1.3%) vs プラセボ 62/1314(4.2%) でp<0.0001と有意差を認めています。
ここからARRと NNTを計算すると、投与量毎のARRが1200mg群で2.2%(NNT 約45)、2400mg群で3.3%(NNT 約30)となっています。
なお、このアウトカムはいわゆる複合アウトカムなので、入院と死亡がそれぞれどれくらいの実数なのかですが、そこは出されていません。
有害事象の欄に死亡数は出ていますが、それぞれ1200mg群(n=827)で1名、2400mg群(n=1849)で1名、プラセボ群(n=1843)で5名出ています。n数が上記のprimary outcomeより大きいので、除外になった症例なども含めて解析されているのではないかと思われます。
仮にここで出ている死亡者数をprimary outcomeの一部として考えた場合、それぞれかなり少ないことがわかります。先ほどのprimary outcomeのn数で考えると1200mg群 1/736=0.14%, 2400mg群 1/1355=0.07%, プラセボ群 5/1314=0.4%でしょうか。死亡率も減らせそうには見えるものの、そもそもの死亡が少なすぎるため差が出にくいと言えます。
となると、重要なのは「入院」のアウトカムがどこまで意義のあるものかと言うところで、どのような基準となっていたのかが気にかかるところです。仮に厚生労働省の承認が通ったとしてどのような使い所にするかはこちらも難しい話になりそうですね。
どちらの結果を見ても効果としては期待できる部分があるように思いますが、リスクとベネフィットのバランスをより詳しく知って考えることが必要です。ニュースでは「入院または死亡リスク70%減少」のみ取り沙汰されますが、今後のより詳しい情報を待ちたいところです。
医学論文の読み方記事まとめ
ちょこちょこと論文の読み方やら医療統計の話を絡めた記事を書いてますが、場所が分かりづらくなっているので、一回まとめておこうと思います。
個々の記事はあんまり綺麗にまとまりきってないのと、読む上ではそこまで気にしなくても良い統計の話がダラダラ書いてあったりしますが、参考になれば。
記事を追加したら随時更新します。
(最終更新 2021.08.28)
ランダム化比較試験の読み方についてmethods~outcomeまで。細かい統計の話はあまりないです。
実臨床に役立てるメタアナリシスの読み方① システマティックレビューとメタアナリシスの違い『なぜメタアナリシスのみはダメなのか』
ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方① -システマティックレビューとメタアナリシスの違い-
ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方② -バイアスリスクについて(risk of bias)-
ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方③ -effect size, standard mean differenceについて/固定効果モデルとランダム効果モデル-
ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方④ -研究の異質性-
メタアナリシスの読み方と問題点について。
メタアナリシスについてより詳しく学ぶ①-fixed effects model, random effects modelと異質性-
もうちょっと勉強した後に追記したものです。
実際の論文から統計を学んでみる③-ログランク検定は何をしているのか-カプランマイヤー曲線 -
実際の論文から統計を学んでみる④-ログランク検定は何をしているのか-超幾何分布 -
実際の医学論文から統計を学んでみるⅡ①-ELDERCARE-AF study/ IPCW法-
実際の医学論文から統計を学んでみるⅡ②-イベント数/人年データをNNTに直す方法-
実際の医学論文から統計を学んでみるⅢ-REWIND trialのexploratory outcomeについて-
実際の医学論文から統計を学んでみるⅣ -欠測データの扱い/ LOCF法-
実際の医学論文から統計を学んでみるⅤ-RMST法(Restrictive Mean Survival Time)-
実際の医学論文から統計を学んでみるⅥ -多重検定/ボンフェローニ法/ファミリーワイズエラー率-
主には統計の勉強のために書いたので、 Ⅰ、Ⅱ、Ⅴは随分と数理統計寄りです。
Cox比例ハザード回帰モデルについて数式ありで、できるだけわかりやすくまとめる
これも統計検定1級の勉強を兼ねていたので、数理統計寄りです。
急性期脳梗塞の臨床試験の解析方法が分かりにくすぎるので、勉強した話①【順序ロジスティック回帰分析】
急性期脳梗塞の臨床試験の解析方法が分かりにくすぎるので、勉強した話②
急性期脳梗塞の臨床試験の解析方法が分かりにくすぎるので、勉強した話③
超急性期脳梗塞における血栓回収やtPAの試験が大抵この順序ロジスティック回帰分析なのですが、臨床的にはめちゃくちゃ重要なアウトカムなのに、意味がわからなさすぎたのでまとめた。