脳内ライブラリアン

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マルティン・ハイデガーの『存在と時間』に入門してみる②

前回記事に引き続いて『存在と時間』を紹介していきたいと思います。

 

medibook.hatenablog.com

 

「存在を明らかにするためには、まず現存在(=個々の人間)について分析をする」という流れに基づいて、現存在とはどのように定義されるのか?、どのような意味をもつのか?を考えていきます。

 

目次:

 

現存在の根本契機は世界内存在である

さて、冒頭からよく分からない用語がまた出現するわけですが、現存在は「世界内存在」である、とハイデガーは語ります。

 

これは世界という客観的なものがあって、その中に存在しているという意味ではなく

「世界とは個々の人間によって現に生きられているその世界である」(*1より引用)

という感じです。

 

これだけだと本当にさっぱりと分からないので、それまでの考え方と何が違うのか、ハイデガーが挑んでいくデカルトの例を出しながら見てみましょう。

 

ルネ・デカルトとの比較

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ルネ・デカルト(1596-1650)は近代哲学に大きな影響を及ぼした哲学者・数学者です。中でも「我思う、故に我あり」といった名言が有名となっています。ハイデガーが問題としたのはこの名言を含めた心身二元論にもとづく存在論のあり方でした。

 

デカルト入門』*2によるとデカルトは数学を軸にして物理学的自然を客観的な世界として見るためには、それまで物事の本質だと思われていた身体の感覚を疑っていくことが必要だと考えていたようです。

 

そこで、不確実なものはどんどん疑っていこう、という過激な姿勢(普遍的懐疑)を取ることとなります。その結果あらゆるものは疑われる存在となりますが、最後に疑うように仕向けている自分自身の存在が残りました。それが「我思う、故に我あり」へとつながります。

 

かなり大雑把ですが、デカルト的な世界観はこれに影響されて出来上がっており、主観(精神)と客観(物質的なもの)を分けて捉える心身二元論となっています。主観と客観には区切り目がしっかりあり、私の存在の本質は物質ではない自分の精神によって捉えられると、考えたわけです。

 

この考え方は結構今にも尾をひき続けているもので、現代の会話でも

「客観的な証拠がない」とか

「それはただの主観的な意見だ」とか

主観=疑わしいもの、客観=確実で正しいもの、という印象が植え付けられています。

 

ハイデガーは世界をどう考えるのか

ハイデガーはこれに対し、「我あり」の「ある(=存在する)」とはそもそもどういうことなのかを問い直します。このとき、主観と客観を完全に切り離して考えていることは正しいのかどうか。西洋ではその時まで伝統的に考えられていたその概念にハイデガーは挑んでいきます。

 

周りにある客観的(と言われている)存在として、事物や他人がありますが、それぞれについて考察をしていきます。結構それぞれ長くなるので、まず今回は事物についてです。

 

事物については、ハイデガーは自分たちの身の回りを囲む環境世界についての、世界の見方を用いて説明していきます。

 

この環境世界というのは、ヤーコプ・フォン・ユクスキュル(1864-1944)というエストニア出身の動物学者の考え方の影響を受けたとされています。*3

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環境世界というのミツバチを例にとり、以下のように紹介されています。

蜜蜂は、それぞれ決まった花に向かって飛んでいき、その花の蜜を決まった量だけ吸い、決まった場所へと帰っていくよう、その振る舞いが常に方向付けられており、そのパターンから逸脱することはない。(*3より引用)

 

要するに閉じた環境世界で常に生きているということになります。(下図)

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この環境世界という身の回りの状況を考えてみると、ミツバチに対して人間の環境世界は自分のその時々に応じて変わっていくことがわかります。私の場合、ざっくりした例で言えば、台所に立つときはキッチンや包丁、まな板、フライパン、シンク、ガスコンロといった道具のある環境世界で料理をしますし、病院に仕事に行ったら、パソコンや診察道具、注射針などの道具のある環境世界で仕事をします。その都度、場に応じた道具と関係を持ちながら生活していくわけです。


こうした環境世界という視点で、自分の周りにある事物を考えてみると、周りの物がそれだけで存在している単なる客観的存在ではないことが指摘できます。例えば、包丁を客観的に記述しようとすると「金属製の鋭利な刃物で20cm前後のサイズがあって、、、」というような説明になりますが、実際使うときにはそんなことは考えず、ただ野菜や肉を切るという目的に沿って、使いやすい・使いにくいなどの観点で見ています。このように道具を捉えるのがハイデガーのいう道具存在という概念です。

 

実際の『存在と時間』の例ではないですが、解説書のテレビを例にとった話がわかりやすいので紹介します*1。

 

この部屋にあるこのテレビは、客観的な「存在」としては「放送された電波を受信してひとびとの視聴に供するための機械」ということになる。更に、それは、その機種、機能、値段、等々が一般的に記述されうる。だが、「配慮的な気遣い」から見られたテレビは、あるときは、映りが悪くて見にくいテレビであったり、部屋の割に大きすぎてうっとうしい調度だったりする。それだけではない。今真夜中で、<私>が寝ていると怪しい物音がして、どう考えても賊が忍び込んでいる気配がする。、、、(中略)、、、<私>はこのテレビを、適当な重さをもち、投げつけることで相手にダメージを与えうるもの(=道具)として“認知”するかも知れない。

 

要するに、皆が理解できるような客観的な存在としての記述(シャープの42型プラズマテレビだよ、とか)とは異なり、環境世界における道具としての在り方はその都度、自分の状況によって変わりうる、という意味合いです。この中に出て来る「配慮的な気遣い」というのもハイデガー独特の術語で、 道具をそういった意味で理解するときの見方を指します。

 

身の回りにある道具は普段、特別その存在を意識することはありませんが、使っていく中で「このiPadのmagic keyboardは使いやすくて最高だな」とか思ったりして意識するわけです。これが壊れてしまうと「このキーボードほんとあかんな」というようにその状況に応じて、解釈は変わります。

 

こうするとまるで、自分の主観で道具が全て解釈されるような観念論と呼ばれる考えに近いような印象ですが、そういうわけでもないんです。

 

 有意義連関

存在と時間』ではハンマーを例にとって、道具存在同士の関連性が説明されます。ハンマーは釘を打つための道具であり、釘は塀を作るための道具であり、塀は家を建てるための道具であり、、、とそれぞれの道具は「〜のために」という目的を通じて関連します。このことを有意義連関と呼びます。

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それぞれの道具は適所性と呼ばれる程よいところに落ち着くようになっており、客観的な事物の存在があって、それを人が全部主観的に決めるわけではありません。

 

ただ、道具だけの関係性で閉じているわけではなく、この有意義連関の先には必ず現存在が存在します。先程の例をもう一度見てみると、ハンマーは釘を打つための道具であり、釘は塀を作るための道具であり、塀は家を建てるための道具であり、家は人(現存在)が住むための道具、と最終的には現存在へとつながります。

 

それぞれの人によって、主観や客観だけとも言えない形で、それぞれ連関しながら作られている環境世界のことをハイデガーは世界性と呼びます。

 

さらにハイデガーはこの世界性の概念を空間認識にも広げていきます。長くなって来たので以降はまた次回の記事で書きます。

 

参考文献

*1 『ハイデガー入門』

*2『デカルト入門』 

*3『ハイデガー哲学入門 「存在と時間」を読む』

*4『存在と時間

 

コロナによる経済影響が続く今こそ読みたい『経済政策で人は死ぬか?』

さて、今日は本の紹介です。『経済政策で人は死ぬか?』という公衆衛生修士/政治社会学博士と医師/疫学者の二人が書いた本です。

 

 

経済の細かい話が出てきたらどうしようと思ってましたが、一般向けに書かれた本であり、その辺の知識がなくても意味は十分に理解できる本でした。

 

目次:

 

経済と健康の関係

邦題となっている『経済政策で人は死ぬか?』ですが、自分の普段の経験から考えると、少なくとも「収入によっては」人は死に得ることは感じます。

 

薬代が高くて払えず、通院を中断して脳梗塞になってしまった中年男性や、施設に入るお金がないため仕方なく自宅で介護されており、十分な介護ができず低体温で運ばれてくる高齢者、アルコールをどうしてもやめられず、重度の合併症で不可逆的な脳の障害が残ってしまった若者、難病にもかかわらず治療薬が高価で使えない(難病申請したとしても)若者などなど、、、医学的には必要な治療ができれば決してこうなるはずはなかったのに、生活環境の問題でどうにも介入できない人々というのは必ずいます。

 

これらはあくまで象徴的な例で、認知できていないけれど、同様の問題を抱えている例というのもまだまだ沢山あるのではないでしょうか。

 

そして、同様に今のコロナウイルスの流行による女性の自殺者の増加も単純な病院における医療以外の政策・メディアの影響を感じさせます。

先月の自殺者 去年より40%増加 女性が大幅増 コロナの影響も | 新型コロナウイルス | NHKニュース

この辺の細かい話はマッシー池田先生のHPが大変に詳しいです。

新型コロナ:自殺者を急増させた史上初の感染症

一見、過激に見える文言もありますが、、きちんとしたデータの解釈がなされているページです。

 

著者の二人は実際に自分が経済的な影響を受けて、健康面を害した経験に基づいてこの本を書いています。家賃を払って生活できるところもなく、肺炎を起こしたり、苦労をされたようです。だからこそ、熱意を持って書かれた一冊だと言えます。

 

大規模な経済危機を振り返る

本書では、過去にあった大規模な経済危機を振り返って、そのころの各国民の健康状態のデータを確認してし、同じように経済の影響を受けているのに、国毎で健康の影響が異なる場合、その原因はどこにあるのかを明らかにしていく形で分析していきます。著者はこれを大規模な自然実験と呼んでいます。

 

取り扱われる経済危機は1930年代のアメリカの大恐慌からソ連崩壊後の急激な転換、アジア通貨危機、アイスセーブの問題(これ知りませんでした)、ギリシャ危機、リーマンショック後の影響などなど近代から現代まで聴き馴染みのある話が多く出てきます。

 

また、オバマケア、NHS(イギリスの保健サービス)などの行政サービスの話や、住居・失業がいかに健康に影響を与えるかという話まで後半では触れられます。

 

ここで、経済危機を見ていく上で重要なのが「不況=必ずしも不健康」ではない、ということです。働き口がないため、労働時間が短くなるとかえって、健康状態が良くなる部分もあるということなようです。ただ、こうなるのはもちろん適切な失業給付や再就職の励行、適切に医療を受けられる健康保険制度があってのことです。それがなくては、ただただ不安と収入減少により、健康を損なっていきます。

 

そこで、経済政策としてはどうすべきなのか。

 

本書で強調されているのは、早期の経済成長を目的として急激な緊縮財政を行なった場合に、失業給付や就職の支援、医療制度の改悪などをしていくと、自殺者の増加や感染症の蔓延(生活環境悪化による結核や感染予防キャンペーンの縮小によるAIDSなど)、生活習慣病の悪化などにより、かえって国民の健康を大きく損ない、のちの経済成長も阻害するということです。「改革には痛みを伴う」と称してまるでその後に良い状態が待っているかのような政策があったとしても、経済成長が得られる頃にはそれを聞いている人が死んでいるんじゃ話になりません。人あっての経済であり、その政策で犠牲になっているのはどこなのかをよく見極める必要がありそうです。

 

現状を振り返って

自殺者の増加は一歩も二歩も遅いくらいで、もうすでに始まっています。コロナウイルス自体の死亡率は徐々に下がっており、本来コロナに感染してもほぼ死ぬはずがなかった人たちがどんどん亡くなっているというのは由々しき事態です。

 

相変わらず感染者数の「単なる数の増加」ばかりの報道が強く押しだされていますが、それも問題ではあるんですけれど、自殺者の問題やそれに対してどう対処するかということをもっと報じてほしいと思います。

 

この本を読んで思い出したのが、2016年のイギリス・フランスの映画「私はダニエル・ブレイク」でした。現実の利用者のことを考えていない社会福祉制度の虚しさとその中での救いが隣人との交流であることが描かれています。

 

身近に困っている人がいたらちょっとしたことでも手を貸してあげることや、この経済と健康の問題に目を向けたりすることが自分たちにひとまずできることかもしれません。

現代数理統計学の基礎 7章 問5

今回の問題はポアソン分布における尤度比検定・ワルド検定・スコア検定の問題ですね。これも基本に沿ってやれば問題なくできます。

 

同じ内容を扱った過去記事はこちら 

medibook.hatenablog.com

 

まずは尤度比検定ですが、その前にλの最尤推定量を求めましょう。

 

対数尤度関数は

logL(\lambda)=\sum x_ilog\lambda-log\sum x_i!-n\lambda

 

となるのでλで微分して

\frac{\partial}{\partial\lambda}logL(\lambda)=\frac{\sum x_i}{\lambda}-n

 

これを=0として変形すれば最尤推定\hat\lambdaが求まります。

 

\hat\lambda=\frac{\sum x_i}{n}=\bar X

標本平均と等しくなることが分かりました。

 

では尤度比検定の式を見てみると

\frac{\frac{\lambda_0^{n\bar X}}{\Pi x_i!}e^{-n\lambda_0}}{\frac{\hat\lambda^{n\bar X}}{\Pi x_i!}e^{-n\hat\lambda}}\\(\frac{\lambda_0}{\bar X})^{n\bar X}exp(n\bar X-n\lambda_0)

 

あとは−2をかけて対数をとると、カイ二乗分布に従うため

-2n\bar Xlog\lambda_0+2n\bar Xlog\bar X+n\bar X-n\lambda_0\gt\chi^2_{1,\alpha}

となります。

 

続いてワルド検定。まずフィッシャー情報量を求めていきます。

 

パラメータで2回微分すると

\frac{\partial^2}{\partial\lambda^2}logf(x)=-\frac{x}{\lambda^2}

負の期待値を取ると、1個のフィッシャー情報量となりますがE[X]=λなので

I_1(\lambda)=\frac{1}{\lambda}となります。

よって、ワルド検定の式は

\sqrt{nI_1(\hat\lambda)}(\hat\lambda-\lambda_0)\\=\sqrt{\frac{n}{\hat\lambda}}(\hat\lambda-\lambda_0)\\=\sqrt{\frac{n}{\bar X}}(\bar X-\lambda_0)\sim N(0,1)

二乗すると解答と同様にカイ二乗分布に従う形となります。

 

最後にスコア検定。

スコア関数は対数尤度関数をパラメータで微分すれば良いので

S(\lambda)=\frac{n\bar X}{\lambda}-n

となります。

 

スコア検定を示す式は

\frac{S(\lambda_0)}{\sqrt{nI_1(\lambda_0)}}

なので、代入して

\frac{\sqrt n(\bar X-\lambda_0)}{\sqrt\lambda_0}\sim N(0,1)

となります。これも二乗すると解答と同様の形になります。

 

(*2021.04.25追記:途中の式にミスがあったので修正しました)

現代数理統計学の基礎 7章 問4

今回は問4、指数分布の問題ですね。

 

この問題は指数分布モデルにおいて臨床試験で必要とされる症例数計算なんかの話と結びついており、ネット上に同じ話を論じている南山大学のPDFがあったので、参考になるかもしれません。

http://www.st.nanzan-u.ac.jp/info/gr-thesis/2013/10se101.pdf

ただ、パラメータがこの問題の逆数となっているので、ちょっと解答も異なる点に注意が必要です。

 

では、(1)から。

 

前問と同様にまずは尤度比検定を求めます。

 

\lambda最尤推定量は対数尤度関数から求めていきます。簡単なので、過程は省略。

 

\lambda=\frac{n}{\sum x_i}

 

となります。

 

帰無仮説における最尤推定量を\hat\lambda_0とすると

 

\hat\lambda_0=min(\lambda_0, \hat\lambda)

となるので場合分けします。

 

\hat\lambda\leq\lambda_0の時

尤度比=1となって解は求まりません。

 

\hat\lambda\gt\lambda_0の時

尤度比検定は

\lambda(x)=\frac{\lambda_0^nexp(-\lambda_0\sum x_i)}{\hat\lambda^nexp(-\hat\lambda\sum x_i)}\gt C

 

ここで\hat\lambdaを分母に代入するとexpの中身がnとなるので

 

(\frac{\lambda_0}{\hat\lambda})^nexp(-\lambda_0\sum x_i+n)\gt C

 

となります。

基本的に左辺の定数(\lambda_0, nとか)に関しては、定数Cをいじれば、同値変形していけるので\lambda=\frac{n}{\sum x_i}も利用しつつ変形すると

 

(\frac{\lambda_0}{\hat\lambda})^nexp(-\frac{\lambda_0}{\hat\lambda}n)\gt C'

となります。

 

ここで

(\frac{\lambda_0}{\hat\lambda})\lt 1より単調減少となるので、先程の不等式をさらに簡便にすると

 

\frac{\lambda_0}{\hat\lambda}\lt C''

となります。

 

続いて(2)

 

まずは帰無仮説下での分布を考えます。指数分布はガンマ分布の特殊形であることと、ガンマ分布の和の再生性を利用します。

 

先程の尤度比検定の式に最尤推定量を代入すると

\frac{\lambda_0}{n}\sum x_i\lt C''

 

ここで確率変数の和がどんな分布になるかわかると良さそうです。

指数分布はガンマ分布の特殊な形なので、帰無仮説下において

E_X(\lambda_0)\sim Ga(1, \frac{1}{\lambda_0})

でした。

和の再生性より

\sum x_i=Ga(n, \frac{1}{\lambda_0})

となります。

 

よって尤度比検定の式は

\frac{\lambda_0}{n}\sum x_i\sim Ga(n, \frac{1}{n})

となりますが、これでは使いづらいので、カイ二乗分布に従う形に尺度変換をします。

 

カイ二乗分布

\chi_n^2\sim Ga(\frac{n}{2}, 2)

という形を取りますので先程の式を変形して

2\lambda_0\sum x_i\sim Ga(n, 2)=\chi_{2n}^2

となります。

 

あとは有意水準アルファの棄却域を考えます。まずは\lambda_0=\lambda帰無仮説とした場合、尤度比検定の不等号の向きに注意して

2\lambda_0\sum x_i\lt\chi^2_{2n,1-\alpha}

が棄却域となります。

 

続いて、前の問題と同様に帰無仮説を拡大して

P(2\lambda_0\sum x_i\lt\chi^2_{2n,1-\alpha})\\=P(\frac{\lambda_0}{\lambda}2\lambda\sum x_i\lt\chi^2_{2n,1-\alpha})\\\leq 2\lambda\sum x_i\lt\chi^2_{2n, 1-\alpha}\\=\alpha

 

となり、確率上界の確認ができました。

 

最後に(3)

検出力を求める問題です。

 

検出力は定義として「対立仮設下において棄却域に従う確率」でした。よって、検出力\beta(\lambda)は先程の棄却域を少し変形して

\beta(\lambda)=P(2\lambda\sum x_i\lt\frac{\lambda}{\lambda_0}\chi^2_{2n,1-\alpha})

となります。一応これで解答として良いように思いますが、公式の解答ではここから検出力の値域を調べています。

\lambda_0=\lambdaの時、検出力はαとなります。

 

また、\lambdaが増加していく時どうなるか。先程の不等式の右辺に注目すると、λが増加すれば大きくなっていくのが分かります。すると左辺の検定統計量が不等式を満たす確率は増えていくので、検出力→1へと近づいていきます。

マルティン・ハイデガーの『存在と時間』に入門してみる①

久しぶりに哲学の話を書きます。あくまで素人視点です。

 

前回ニーチェの話を書いてからというもの、ほぼ同時代人であるマルティン・ハイデガーの本と入門書をゆっくり読んでいたわけですが、これがまた難しすぎて記事を書く気になりませんでした、、、。が、まあなんとか少しずつ読み進められてきたので、入門書たちの内容と『存在と時間』そのものの内容をちょっとずつまとめてみたいと思います。

 

目次:

 

なぜハイデガー

最近本屋にマルクス・ガブリエルの本が平積みされていること多いですよね。コロナ関連の話題にも積極的に関わっており、NHKの特番関連の本も出てます。何冊か読みました。

 

 

哲学関係の新書など見ると必ずしも「この人はめちゃくちゃすげー!」とはなってないわけですが、彼の提唱する「新実存主義」やそれより前の時代の「実存主義」、あるいはフーコーなどの「構造主義」と言った、いずれにも大きな影響を与えているとされるのが、マルティン・ハイデガーです。

 

いまや何でもビッグデータや統計、AIと言われる時代です。その方向はその方向で、個人的には好きなのですが、それだけではうまくいかないところもあるだろう、と言うことを学べるのが実存主義に代表される考え方ではないのかな、と思ってます。

 

哲学はどうしても具体的な意味合いが分かりにくいですが、ビジネスへの応用例としてクリスチャン・マスビアウの『センスメイキング』なんかは、志向性もなくデータの解析をするだけでは答えが出せないことをよく物語っています。この人は戦略コンサルティングを行なっていますが、人材としてデータ解析に強い理系の人のみならず、文系の人間を多く抱えており、その思考を生かした戦略を立てて、成功に結びつけているようです。

 

 

 

ハイデガーの思想は、第一次世界大戦後、大量の戦死者と敗北を期したドイツにおいて、人が固有の存在ではなく、ただの「1人」の人間として数字的に扱われ、将来への不安も渦巻く頃に生まれてきたものです。単なるデータとして扱われかねない現代においても十分通じる話があるのではないでしょうか。そんなわけでハイデガーです。

 

存在と時間』ってどんな本?

20世紀の哲学において最も重要な本と言われることもあるくらいの有名な哲学書です。前述のようにそれ以降多くの哲学者に対して賛同や批判をされてきました。それぐらい与える影響が大きかったということですね。

 

内容としては「存在とは何か?」ということを問う本です。

 

より砕いていえば「〜がある」「〜である」とはどういう意味を持つのか、その本質を捉えるための方法とその本質はなんなのかを論じたものです。

 

 

砕いて言ってもなお分かりにくいので、入門書書の例を使ってみます。*1では「鳥が存在する」ということを例に出しています。一度鳥を思い浮かべてみてください。

 

そこで、鳥を思い浮かべた時に、その鳥は「飛んでいたり」「木に止まっていたり」「餌をついばんでいたり」あるいは「自分の飼っている鳥」だったり「昨日公園で見た鳥」だったりするかもしれません。「鳥が存在する」と言った時に、鳥そのものだけを切り離して考えることは難しく、他の何らかの状態と関連して思い浮かべることしか基本的には出来ません。

 

では「存在する」というのはどういう意味になるのか?

 

もう一つの例ですが、「自分は〜である」というときに「〜」に当てはまるものを考えてみてください。

自分の場合、「父親」とか「医師」とかが当てはまるわけです。では、子どもがいなかったら、自分は父親ではないので、存在しなくなるのか?当然そうではないですね。同様に医師免許が剥奪されたら、存在しなくなるのか?それも違います。じゃあ自分とはどう言う存在なのか?

 

こんな感じのThe哲学らしいことを考える本が存在と時間』です。

 

普通に読もうと思うと死ぬほど難解です。

 

何が難解かといえば次々と繰り出される謎のハイデガーオリジナルの専門用語(術語と言われます)。例えるならばエヴァンゲリオンの劇場版を30%くらいまで濃縮して、それを前知識なくいきなり観たような感じでしょうか。術語と指示語が多すぎて何が何を意味しているやら分かりません。

 

おまけにこの本は未完です。

 

*1にこの本が書かれた際の、ハイデガーの細かな状況が分析されています。ハイデガーマールブルク大学の教授のポストに就く際に、業績を要求され、急ごしらえで書いた、とされています。印刷途中にそれを止めて書き直すようなこともしながら書いていたようですが、最終的には途中までで断念。

 

もともと上巻下巻の構成であったわけですが、実際出版されたのは第一部、第一篇〜第二篇までとなっており、タイトルに沿った「存在と時間性」という存在と時間との関連までは書かれていますが、最終的に存在の本質を明らかにするところまでは至っていません。

 

それでもなお、後続の哲学者たちに大きな影響を与えているのはそこまでに書かれた分析の大胆さと過去に問われなかった形で「存在」というものについて見直したことが大きかったのではないでしょうか。

 

存在を問うことに何の意味があるのか?

存在を問うということ(=存在問題)に一体なんの意味合いがあるのか。そもそもここから疑問に感じると思うのですが、ハイデガーはその理由を大きく分けて二つ挙げています。

 

一つは、現在でも幅を利かせる実証的学問(実験による証拠をもとにして語られる学問)において探求するものは何であるかを規定する際に、存在論が必要となる、ということです。

 

例えば、生物学であれば「生物」、言語学であれば「言語」、物理学であれば「物理」が研究対象の領域となりますが、その「言語」「生物」「物理」といった存在はどのように規定されるのか。ハイデガーの時代においては物理は運動法則を維持しながら、新しい理論を切り開こうとしており、生物は機械主義(生物の体を機械のように考え、各器官を説明する)と生気主義(自然科学では説明出来ない特別な法則で成り立っている)に則って生物とはどのようなものかという規定を新たにしようとしています。こうした学問の領域が変わっていくことは現代も同様で、分子生物学行動経済学などと言った新しい学問領域が誕生し、ノーベル賞を受賞するまでに至っています。

 

このような学問の探求する領域を新たに規定する際には「生物」とは何か?、「物理」とは何か?ということが改めて問われているわけで、その存在論を考えていくときに、この本が明らかにしようとしている「存在問題」というのが役立つと述べられます。

 

これを「存在問題の存在論的優位性」と言っています。こうしてどんどん分かりにくい術語が増えていきます。笑

  

もう一つの理由として述べられていることは、個人が自分の存在とはなんなのかを問うときに役立つという話です。

 

最初の例で出しましたが、人間は自分が何なのかと問う生き物であり、それを自分で決めていく(自分一人ではなく周りも関係しながらですが)生き物です。それを問う時に、存在の意味が分かっているとより自覚的に問うことができる、というような意味合いです。

 

これを「存在問題の存在的優位性」とハイデガーは呼びます。

 

存在的とか存在論的とか何が違うのかよくわからなくなりますが、*2を参照にして以下のように考えると分かりやすいです。

 

・「存在的」→「机とは何か」と問うとき、机なる存在者は木と釘と革から出来ている、と答えるような見方。その存在者の「何であるか」を事実関係として問題にする。「事実関係を問う」と置き換えればいい。

・「存在論的」→「机とは何か」と問う時、「そもそも実在物があるとはどういうことか」と問うような見方。「存在論的」とは「存在」それ自身が「何であるか」を問題にするような視点、という意味である。「意味本質を問う(ような)」と置き換える

竹田青嗣ハイデガー入門』より引用)

 

ハイデガーによる存在の問い方

そんな抽象的な問題を解決するのにどうやってやれば良いのか。

 

ハイデガーは「存在とは何であるか」と問うときのその構造に着目します(『存在と時間』第1章、第2節』)まず第一に、何かを問う時には必ず、問う側と問われる側、そして問われているものがあると指摘します。

 

例えば、「今日の天気は晴れですか?」と言われた場合、問う側は自分、問われる側は相手、問われているものは今日の天気ですね。ここで、問われているものは問う側によって規定されているとハイデガーは指摘します。

 

まとめるとこうです。

質問:今日の天気は晴れですか?

問う側:自分

問われる側:あなた

問われているもの:今日の天気

 

同様にして存在への問いを考えると

質問:存在とは何であるか?

問う側:人間(ここでハイデガーは現存在と呼びますが、何でそんな呼び方をするかは後述)

問われる側:存在者(普段存在していると思っているもの)

問われているもの:存在

 

この時、すでに問う側は質問の時点で「〜である」というものを何となく使っています。このように普段自分たちが日常的に使っている「〜である」のことを「存在了解」と呼びます。

 

図にするとこんな感じです。

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こうすると、問う側がまず存在についてある程度規定しているため、問う側である現存在のあり方を解明する必要があります。

 

そして、それをするには日常的に自分たちが存在すると思っている、「存在了解」を手がかりにして、明瞭にしていくことができるのではないか、と述べます。

 

さらにそうすることで存在者の存在が明らかになっていくと述べられています。

 

こうすると存在者の存在を明らかにするために、まず現存在の存在を明らかにするというのは、「最初の答えが最後の答えと同じじゃん!循環論法になるんじゃないの?」と、ハイデガーによる自分へのツッコミがあります。ハイデガーによる解明の方法は「AならばB」というような演繹法での証明とは異なるため、それは問題にならないと述べられています。*2の中での表現が分かりやすいですが、普段使っている「存在了解の内容」を徐々に明瞭化する、というイメージが近いといえます。

 

何でわざわざ現存在と呼ぶのか?

ハイデガーは人間を現存在(daseinと呼びます。このダーザインというワードはかなり有名だと思いますが、なぜわざわざそんな分かりにくい呼び方をするのか。

 

現存在に限らず、ハイデガーはやたらとオリジナル用語が多いのですが、それは読者に既成の概念から離れたイメージをもって欲しいからではないかと思います。人間というと一人一人の固有性が目立たず、ただの生物の種類のように感じられます。現存在と呼ぶ場合はそうではなく、他の物や動物と全く異なる存在であることが、強調されます。

 

何が違うかといえば、一つは人間が「自分の存在のあり方を問題にするような存在」(*2より引用)だから。「自分とは何なのか、どういう人間なのか(実存とも呼ばれる)」は周りによって決められているものではありません。自分でそこに関心を持ちつつ、変わっていくものです。こうした特性を強調するために、現存在と呼んでいます。

 

また、現存在は「自分とは何なのか」を問いますが、決して自分の見方や考えで全てが決まるというわけではありません。ハイデガーデカルトから始まる主観-客観を明確に二分するようなものの見方を否定しています。

 

ハイデガーは「実存」が各人の「意識」によってどのようにでも加工・変形できるものとは考えていない。それだと、極めて主観的な、文字通りの意味での“観念論”になってしまう。(*3より引用)

 

「自分の見方が変われば全てが変わる!」みたいな行き過ぎポジティブシンキングとはちょっと違うところですね。

 

「意識」とか「主観」という言葉を用いると、それもこのように誤解されてしまいがちなので、固有性も尊重しながら、決して独りよがりな視点ではない、という意味で現存在という言葉を使っているようです。

 

では、現存在はどのようにその存在を決めていくのか。ここからようやく本題に入っていくのですが、とりあえずまとめる気力が湧いたらまた書いてみます。

 

参考文献と感想

読み散らかした入門書たちを紹介しておきます。

 

*1 

現象学、実存思想を専門とされる先生で現在は防衛大学校の教授をされているみたいですね。冒頭の例えも含めて非常に分かりやすい入門書です。 一冊めとしてお勧めです。『存在と時間』出版当時の細かい状況まで分析され、解説されています。内容の流れは大まかに本の内容の流れに即しつつ、簡便な例えが多いので、理解できない部分の解釈に役立ちます。

*2

1番初めに読んだ本です。ニーチェ現象学についてもこの先生の本を読みましたが、いずれもわかりやすいです。ハイデガーの言っていることが分かりにくい、とツッコミを入れてくれながら、解釈を説明してくれている点が読者としては共感を得られます。そのため原文から外れた持論もちらほら出ますが、それはそれで面白いです。駆け足で『存在と時間』の内容を全て見ていくため、読み直してみると意味が汲み取れない部分もありますが、これも一冊めとしてお勧めしたいです。
*3

金沢大学で法学類教授をされている先生の著作。wikipediaみるとかなり本を出されていますね。ハイデガーは言葉にこだわりが強くて、さまざまな造語を作り出していますが、その造語におけるドイツ語の原義と意味合いの解説が他の本よりもさらに充実している印象です。また、宗教的な「回心」とハイデガーの「本来性」との関連の話も、何となく納得できるとこ路があり、読み方が広がります。二冊めとしてぜひ。

 

本文中には出してませんがこちらも買いました。正直言って入門というわりには、素人には分かりにくいところが多いです。ハイデガーは経歴から神学やギリシア哲学の影響を多く受けていることが分かるのですが、ハイデガーについてもわからないのに、さらにギリシア哲学についても説明無しに色々語られると尚更分かりません。今後読んでいく上で、役立つこともあるような気もしますが、個人的にはあまり合いませんでした。

 

原著はこちらを読んでます。翻訳ごとの違いについて語れるほど熟達はしておりません。ハイデガーはどうしてこんなに分かりづらく書けるのだろうと思いますが、読んでいくと嫌になりながらもまた読んでしまうような魅力があります。

現代数理統計学の基礎 7章 問3 -フィッシャー情報行列-

問3は結構込み入った内容となってますので説明入れながらやっていきます。

 

目次:

 

 

(1) 

まずは(1)から。

今回の問題は平均、分散ともに未知の状態で、平均を帰無仮説としてやっていきます。そこで、分散未知のため分散の推定量が必要となります。帰無仮説下での最尤推定量を\hat\sigma_0^2、対立仮説における最尤推定量を\hat\sigma^2とするとそれぞれ

 

\hat\sigma_0^2=\frac{1}{n}\sum(x_i-\mu_0)^2

 

\hat\sigma^2=\frac{1}{n}\sum(x_i-\hat\mu)^2

となります。

 

これを使って尤度比を計算すると

\lambda(x)=\frac{(2\pi\hat\sigma_0^2)^{-\frac{n}{2}}exp\{-\frac{1}{2\hat\sigma_0^2}\sum(x_i-\mu_0)^2\}}{(2\pi\hat\sigma^2)^{-\frac{n}{2}}exp\{-\frac{1}{2\hat\sigma^2}\sum(x_i-\mu)^2\}}\\=(\frac{\hat\sigma_0^2}{\hat\sigma^2})^{\frac{n}{2}}

となります。

 

よって尤度比検定は

(\frac{\hat\sigma_0^2}{\hat\sigma^2})^{\frac{n}{2}}\gt C

となりますが、左辺がどういう確率分布に従うかわからないといけません。

 

-2logをとってカイ二乗分布に従う方法は式の中身を考えると、問1のようにexpの指数ではないため、うまくいかないので別の方向性で考えます。問2と同様に先程の尤度比検定の式を右辺が定数であることを利用して、左辺がいい感じの確率分布に従う式になるように変形していきます

 

ここで

\hat\sigma_0^2=\hat\sigma^2+(\bar X-\mu_0)^2

であること(展開すると分かります)を利用すると

 

(\frac{\hat\sigma_0^2}{\hat\sigma^2})^{\frac{n}{2}}\gt C\\\frac{(\bar X-\mu_0)^2}{\sigma^2}\gt C'と同値変形できることがわかります。

 

この形はよく見るとt分布の式に近いことがわかりますので、不偏分散であるV^2を用いて

V^2=\frac{n}{n-1}\hat\sigma^2となることから(おそらく公式の解答は分母と分子が逆?)先程の不等式をまた同値変形して

\frac{n(\bar X-\mu_0)^2}{V^2}\gt C''\\\frac{\sqrt n|\bar X-\mu_0|}{V}\gt C'''\\\frac{\sqrt n|\bar X-\mu_0|}{V}\gt t_{n-1,\frac{\alpha}{2}}

となることがわかります。

 

(2)

さて、(2)をやるには、(1)と同様に変化するパラメータ2種類あるため、フィッシャー情報行列の話が必要です。

 

 <捕捉>フィッシャー情報行列について

ワルド検定とスコア検定については以前書いた記事と同様にやっていくことができます。

過去記事はこちら 

medibook.hatenablog.com

 

 

ただ、今回はパラメータが2種類あるため、ただのフィッシャー情報量ではなく、フィッシャー情報行列を使って計算する必要があります。 その方法は『現代数理統計学の基礎』の捕捉説明の資料に記載があります。

 

まず、フィッシャー情報行列がなんなのかといえば、パラメータが複数の場合に使われるフィッシャー情報量みたいなものです。 例えば今回のような2種類のパラメータの場合

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と書きます。行列をlatexで書くのが面倒だったので、手書きですみません。ここで、行列のi, j成分は未知のパラメータのベクトルを

\theta=(\theta_1, \theta_2)^Tとした時

 

以下の式で計算できます。

I_{i,j}(\theta)=E[-\partial^2\partial\theta_i\partial\theta_jlogf(X_1|\theta)]

 

つまり、通常のフィッシャー情報量で計算するように、対数尤度関数を同じパラメータで2回微分して、負の期待値を取るものと、それぞれのパラメータで順番に微分するもので行列を作るわけです。

 

ちなみに今回の場合のフィッシャー情報行列は以下のようになります。

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 実際計算するとわかりますが、対角成分以外は0となっています。 ちなみにこのような場合を二つのパラメータが直交する、と言い、それぞれが独立であることを示します。 標本平均と標本分散が独立となることは以前の記事でも書きましたが、それを表しているといえます。

過去記事はこちら 

medibook.hatenablog.com

 

 Wikipedia曰く、このようなパラメータ設定ができることは良いことなようです。

ワルド検定

で、問題のワルド検定ですが、『現代数理統計学の基礎』の捕捉資料を参考にすると、フィッシャー情報行列を用いる場合、以下のような式となります。

n(\hat\mu-\mu_0)^T\{I^{11}(\hat\mu)\}^{-1}(\hat\mu-\mu_0)\gt\chi^2_{1,\alpha}

 

ここでI^{11}というのはフィッシャー情報行列の逆行列の1,1成分を指します。 今回これは\hat\sigma^2ですので、先程の式に代入すると、答えは

 

\frac{n(\bar X-\mu_0)^2}{\hat\sigma^2}\gt\chi^2_{1,\alpha}

 

となります。

 

スコア検定

スコア検定では2種のパラメータによるそれぞれのスコア関数とフィッシャー情報行列を丸ごと使って、以下の式で、検定の式を求めることができます。

 

\frac{1}{n}(S_{\mu}, S_{\sigma^2})I^{-1}(S_{\mu}, S_{\sigma^2})^T\sim\chi^2_2

 

(解答はSαになっていたり、逆行列になっていなかったりしますが、誤植だと思われます)

 

そこでまずは、それぞれのスコア関数を求めます。n個のデータの対数尤度関数をそれぞれのパラメータで微分すれば良いので

 

S_\mu=\frac{n}{\sigma^2}(\bar X-\mu)\\S_{\sigma^2}=-\frac{n}{\sigma^2}+\frac{1}{2\sigma^4}\sum(X_i-\mu)^2=\frac{n}{2\sigma^4}\{\frac{1}{n}\sum(X_i-\mu)^2-\sigma^2\}

 

となります。

 

これを先程の式に当てはめて、計算し、パラメータに\mu_0, \hat\sigma^2_0を代入すると

\frac{n}{\hat\sigma_0^2}(\bar X-\mu_0)^2+\frac{n}{2\hat\sigma_0^4}\{\frac{1}{n}\sum(X_i-\mu_0)^2-\hat\sigma_0^2\}^2=\frac{n}{\sigma^2}(\bar X-\mu)^2\gt\chi_{1,\alpha}

 

が求める式となります。上に書いた式ではカイ二乗分布の自由度は2でしたが、帰無仮説のパラメータを当てはめたことで自由度が1下がると解釈するようです。

 

(3)

 (3)は複合仮説の場合の検定の問題ですね。 問2と同様にして、場合わけして進めます。

 

帰無仮説下の最尤推定量を\hat\mu_0とすると

\hat\mu_0=min(\mu_0, \hat\mu)となります。

 

\mu_0\geq\hat\muのとき

尤度比は1となってしまうため、検定の式は求められません

 

\mu_0\lt\hat\muのとき

\hat\mu_0=\mu_0となります。

 

公式の解答が実はよくわからないのですが、、、これは(1)と同じでは?

同様にすることで

\frac{\sqrt n(\bar X-\mu_0)}{V}\gt Cとなります。

 

あとは問2と同様で確率上界を示せば良いので

P(\frac{\sqrt n(\bar X-\mu_0)}{V}\gt t_{n-1, \alpha}\\=P(\frac{\sqrt n(\bar X-\mu)}{V}+\frac{\sqrt n\mu}{V}-\frac{\sqrt n\mu_0}{V}\gt t_{n-1, \alpha}\leq P(\frac{\sqrt n(\bar X-\mu)}{V}\gt t_(n-1, \alpha)(\mu_0\lt\hat\muのため)

 

となります。

iPad Air 4とapple pencil 2とMagic Keyboardを買ったので感想でも

10月に発売された新しいipad air 4 ですが、つい、、買ってしまいました。

テンション上がったので、今後買うことを検討している人向けに、数日間での使い心地を含めてレビュー記事書きます。

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以前のiPadの使い方

前の機種はiPad air(初代)でした。もう10年も前の代物になるんですね、、、。

職場の後輩には骨董品扱いされておりましたが、特に故障なく使えていました。

 

90%以上の時間は主に電子書籍、自炊した参考書、論文を読むのに使ってたんですが、Kindleの動作がやたら遅かったり、重いpdfは使ってる途中で落ちてしまったり若干の不満はありました。

 

あとは、もう一つ不満だったのは、ノートを併用するときのこと。読みながら内容のポイントをまとめるときや、論文書いたり発表作るとき、統計の問題解く時などは、紙のノートも併用してますが、忘れたりすると結構面倒なのと、外ではさっとノートを出して書いたりしにくいんですね。かといって小さいノートだと使いにくいし、、、。

 

iPad初代はsplit view(画面を二分割にしてアプリを2つ開く)とかはできませんが、2世代目以降はできるようになったようで、そうすると電子でもノート作りしやすいなあと思ってました。

 

というわけで、新しいiPadと諸々周辺機器も買いました。

 

本体のレビュー

元のiPadが古すぎるせいか、本体は思いの外軽く感じましたね。

 

Touch IDが側面についているのもいい感じです。端っこのちっちゃいボタンでどうやって指紋を認識しているのか謎すぎますが(笑)Face IDはマスクつけながらだと認識できなかったりするようなので、ただでさえマスクを外しにくい仕事中に使うには圧倒的にいいかなと思います。

 

とにかく動作がさくさく軽快になったのはでかいです。Kindleのページめくりも問題なくなりましたし。大量のページがあるpdfファイルもガンガン開けます。

 

あとは本やpdfを開きながらノートを書いたり、論文見ながらネット開いたり、とにかくsplit viewが便利。WindowsのPCでウィンドウ並べるよりスムーズで早いですね。

 

周辺機器のレビュー

 

こいつらもセットで買ってしまいましたわ。全部で13万円相当。

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Apple Pencil 2

主に手書きでノートを書くのに使ってます。機能的にiPad Proより反応性が劣ると聞いていたので、若干心配していましたが、体感的には全然問題ありませんでした。

 

端っこにマグネットでくっつきますが、ちょっと引っ張られると落ちるのは心配なところ。1万5000円するペンとか絶対落としたくないです

 

子どもが落書きするのにも使えそうですが、これも精密機器なのでやっぱり心配。

 

Tapでペンと消しゴムの切り替えも楽々なので、普通のペンより何なら便利なぐらいですね。

 

Magic keyboard

今まではbluetooth接続のキーボードを使ってましたが、反応性が遅かったり、接続で手間取ることがあったり、実用性がイマイチでしたが、これはほぼノートパソコンに近い使い心地ですね。この記事もMagic keyboardで書いてます。完全にノートPCと同様に使える感じです。

 

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▲見た目もどう見てもノートPC

スライドパッドはまだそんなに使わないですが、この空間があることで、手の奥場所ができて良いという話も聞きます。

 

キーボードは時々押し間違いはあるものの、概ね使い勝手は問題なく、打ち込みの感触もほどよいです。

 

角度が少し付けられるのも良いところですが、垂直〜60度くらいまでは倒せるものの、それ以上はいけないので注意が必要です。あと縦置きも出来ません。これが惜しいところ。

 

あとはよく書かれてますが、とにかく重い。買ったときの箱がすでに重くて笑いましたが、本体と合わせてもそれなりの重さがあります。まあ、本を読むときは外すので手で持つ時はあまり関係ないとは思いますが、荷物としてはそれなりの重量ですね。

 

本体はマグネットでくっつくので、取り外しは簡単です。普段はケース代わりに使って、読書+ノートのときは外すような使い方でも十分耐えられるかなと思います。

 

ペーパーライクの保護シート

これも買いました。「JPフィルター専門製造所」なる謎の名前のところのやつです。

商品が多いのでどれにしたらいいのか悩ましいところで、レビューいくつか見ながらこれにしましたが、一応そんなに問題はありませんでした。書き心地もなんとなく紙に近くて気持ち良いです。内容には書いてなかった気もしますが、グレーのフェルトケースが付いてきて、これも良かったです。

 

とりあえずの感想

ひとまずまだ買って数日なので、こんなもんですが、しばらく使ったらまた感想書こうかなと思います。ノート作りについてはまだまだこれから使ってみないと真価がわからないかなあと思うので。しかし、近い年代の商品だとここまで違いは感じないでしょうけれど、流石に10年も経つと結構変わるもんですね。

 

<追記>2ヶ月経ったので使用感をまた書いてみました

iPad Air 4を買って2ヶ月経過したので感想でも - 脳内ライブラリアン