脳内ライブラリアン

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ESUS (Embolic Stroke of Undetermined Source)について

ちょっと調べていたのでたまには医学の話題を。

 

ESUSという概念は2014年ごろから出てきたもので

原因不明の塞栓性の脳梗塞の話です。

 

もともと1990年代のTOAST分類において

脳梗塞はアテローム性、ラクナ、心原性と主だったもの以外に

潜因性脳卒中(Cryptogenic Stroke)という原因のはっきりしない

脳梗塞のためのカテゴリがありました。

 

これも経食道超音波検査、コントラスト心エコーのような技術の発達に伴って
左右シャントや卵円孔開存、心房中隔瘤、大動脈粥腫などが脳梗塞の原因として
指摘され始めた時期に、Mohrらがそれまでにはわからなかったリスクファクターとして
Cryptogenic Strokeと紹介し始めたのが由来とされています。(NEJM 1988; 318: 1197-1198)

 

欧米での大規模研究ではCryptogenic Strokeが脳梗塞全体の25%を占めるとされており
多くの症例でみられるようですが有効な二次予防策がわかっていないのが現状です。

 

Hartらが2014年Lancetのreview articleで潜因性脳卒中の大部分が塞栓性であることから
ESUS(Embolic Stroke of Undetermined Source)として取り上げたのが
このESUSという概念の一番代表的な論文となっています。

 

そこではESUSの診断基準として下記の特徴を挙げています。

 

①CTまたはMRIからラクナ梗塞ではない
②虚血性病変に供給する頭蓋内・外の血管に50%以上の狭窄を認めない
③高リスクに心原性塞栓を来す疾患がない(心房細動、心房中隔瘤など)
脳梗塞を来す特異的な疾患がない(血管炎、大動脈解離、片頭痛、薬剤など)

 

①でラクナ梗塞を、②でアテローム性、③で心原性を除外しているわけですね。
で、特異的な疾患(TOAST分類でいうところのStroke of other determined etiology)をのぞいたらESUSになる、というところでしょうか。

診断に推奨される検査として
1、CT or MRI 2、心電図 3、経胸壁心エコー 4、心電図モニタリング(24時間以上) 5、脳血管イメージング(カテ、MRA、CTangio、cervical duplex+transcranial doppler)が挙げられています。

 

基本のスクリーニングとして必要な検査ということでしょう。
確かにこのあたりは大抵の施設でやっています。

 

ESUSで想定される原因・再発予防についてはまた次回。

 

参考文献

Hart, Robert G., et al. "Embolic strokes of undetermined source: the case for a new clinical construct." The Lancet Neurology 13.4 (2014): 429-438.
↑  Lancetの論文、tableを見ていけば大体ESUSの大枠がわかるような感じです

ポルトガル語 一般動詞編①

今日はポルトガル語の気分なので再び文法説明。

 

一般動詞ですね。

-ir形、-er形、-ar形など原型となる動詞の語尾によって活用の仕方が変わります。

be動詞と同様、基本的に1人称2人称3人称と単数・複数の6種類で活用します。

 

今回はir形の動詞、abrirを見ていきましょう。

意味はopenと一緒で開くという意味です。活用は順番に

 

eu abro

 

você abre

 

ele/ela abre

 

nós abrimos

 

vocês abrem

 

eles/elas abrem

 

なんとなくbe動詞と似たような感じですね。

では例文。

O homem abre a janela. 

(The man opens the window.)

homem = man 男

janela = window 窓

 

Eu abro esta lata.

(I open this can 私は缶を開けた)

este/esta = this (後ろに男性名詞がつくか女性名詞がつくかで変わる)

lata = can 缶

 

活用形が結構多いようですが、今のところは現在形だけなので

まだなんとか、ってとこですかね。
Até a próxima!

第二言語学習でi+1レベルを上手に学ぶ方法②

前回述べたように第二言語で読み取ろうとすると思考力が落ちるため

複雑な内容が理解しづらくなることが問題となります。

そこですべき対処を考えてみました。

主にリーディングに関して述べます。

 

1、内容を変えずに難易度を下げる

 

1-1、分割する

困難であれば内容を細かく分割することが役立つことがあります。

段落ごとに区切って少しずつゆっくり理解していくことで

解決できる場合もあるでしょう。

ただ、インプットの量を増やすという意味では相反するため

必ずしも学習効果は保証できません。

 

1-2、分からないところは読み飛ばす

こちらのほうが現実的かもしれません。

内容の分からない文章や段落というのはどうしても出てくることがありますが

詰まっていると大まかな流れもとれなくなるので、思い切ってわからないところは

スキップし、1-1のように時間を取ってあとでゆっくりと読んでみることは

一つの手だと思います。

 

 

2、思考力を上げる

複雑な文章を読む場合、読んだような気持になっても

後から振り返ってみるとはっきりした内容が言えないことがあると思います。

日本語で本を読む場合も同じことがあるように思いますし、思考力の下がる

第二言語ではなおさらです。

こうしたときに思考を促すためには日本語の場合と同様に、アウトプットをする

という手段が役立つと思います。集中力を要する作業ですが、内容をまとめたり

複数の本の内容から自分の意見を書いたりすること、これが思考力を無理やり引き出すには一番いい手段ではないでしょうか。

 

3、難易度の高い内容はあきらめて無心でi+1レベルのものを読む

習慣化してしまえば意外と興味がない内容でもできるかもしれません。

ニュースサイトはVOA, TIME, Newsweek, CNN, BBCなど内容やレベルも多彩なので

自分にあった難易度のものを習慣づけて読むようにすれば何も考える必要はありません。個人的にはこれがあまり続かなかったのですが、決まった時間に繰り返すように

すれば人によっては合うでしょう。

 

とりあえずしばらく自分は2の方法でやってみようかなと思ってます。

本の要約か日記でも毎日書こうかな。

第二言語学習でi+1レベルを上手に学ぶ方法

英語もしくは他の第二言語を学ぶ場合、i+1レベルの難易度が学習に最適と
クラシェンは述べていますが、その難易度の内容に魅力を感じない場合
つまり逆に言えば自分が魅力を感じるものが難易度が高かった場合
どう対処すべきなのか、これが今回のテーマです。

 

・モチベーション(動機づけ)と言語学

 

英語の映画、アニメ、本、雑誌などその内容自体に興味をもつことは
言語学習の成功において非常に重要です。

 

1950年代後半以来、アメリカのロバート・ガードナーを中心とした
グループは「その言語の文化や人を理解したい」と考える「総合的動機づけ」が
長期的な学習意欲に繋がることを主張しています。
それに対し、その言語を学習することで金銭などを得ることを目的とする
「道具的動機づけ」は短期間の効果にとどまるとしています。

 

テレビでよく見るような「日本のマンガ・アニメが大好きな外国人」の方々は
「総合的動機づけ」に強く支えられているのでしょう。
確かに意欲に溢れていて、その短い勉強期間の割にはしっかりと日本語を話しており
驚きを感じることが多いです。テレビだけのステレオタイプなのかと思いきや
実際自分の知り合いにもそう言った契機で日本語を話せるようになった外国人を
ちらほら見るので決して間違った意見ではないのでしょう。

 

・興味をもつ内容が高度になればなるほど・・・

 

ただ興味をもつ内容がより高度なものになればなるほどi+1レベルからは離れていきます。
医学論文なんかは型にはまっているのでまだいいですが、一般書は結構難しく
ダニエル・カーネマンの"thinking fast and slow"を以前読んだのですが、頭の中に
残っているのは日本語に脳内で変換された朧げな内容のみです。

 

これを実証づける実験があります。
東京大学の心理学者の実験で、言葉を使う言語課題と言葉を使わない図形問題である
思考課題を同時に被験者に解かせることを行いました。ただし言語課題は母語、外国語と
それぞれ変えて行なっています。すると言語課題を母語でやった場合に比べ、外国語でやった場合は思考課題への干渉が強いことがわかりました。要するに、外国語で思考すると
母語に比べ思考能力が落ちるわけです。

 

こうなると困ってくるのが、母語で本来興味をもてるくらいの複雑な内容になると
深い理解ができない、というところです。

 

次回に続きます。

 

<参考文献>
白井恭弘 外国語学習に成功する人、しない人 岩波書店

第二言語学習におけるi+1レベルとは

「僕たちは習慣でできている」を読んでからはかなりコンスタントにブログの更新も

できるようになりまして、個人的には嬉しい限りなんですが

それに反してなかなか進まないのは英語学習。

英語に関しては中高での学習と3ヶ月ほどの留学経験で日常生活に困らない程度にはできるんですが

医療の専門分野においてもう少し使えるようになりたいというのが本音です。

 

以前にも一部触れましたが、クラッシェンの提唱するインプット仮説においては

現在の言語能力の少し上である「i+1」レベルの難易度の学習をすると良いと

言われています。

 

インプット仮説自体が正しいかどうかはさておき、自身のレベルよりも少し上を目指す、という

考えは学習に関する事柄では普遍的に通じる理論であるように思います。

 

ただ、特に自分においてそのi+1レベルの教材を継続的に勉強することが困難だと感じるのは

学習自体に面白みが薄い、ということです。これは一般的にも当てはまるように思います。

 

例えば良く英語学習の方法として勧められるのはニュースサイト。

VOAあたりが難易度として適切だと思うんですが、いかんせん内容自体に興味が持ちきれず

続けられないことを何度も経験してます。

また逆に興味がもてる、映画やアニメと言ったものだとスラングなども多くて分からない

という場合があります。

 

興味はもてるけど、難しすぎるものになるのか

i+1の難易度に近いが、興味のないものになるのか

 

どちらを選ぶのか、どう工夫すべきなのかを次回から考察してみたいと思います。

救急外来診療におけるエラー③

前回紹介した認知エラーについての元論文は
Diagnostic Error in Internal Medicine
Arch Intern Med. 2005;165(13):1493-1499. doi:10.1001/archinte.165.13.1493
という論文で、同じ著者のMark L. Graberが書いている別の論文(↓)が
今日紹介するものになります。

 

Developing checklists to prevent diagnostic error in Emergency Room settings

Diagnosis (Berl). 2014 September ; 1(3): 223–231. doi:10.1515/dx-2014-0019.

 

救急外来において診断ミスを減らすためのチェックリストをつくろう、という論文です。

 

 


・救急外来の診療ではどれほどミスがあるのか

 

Backgroundに記載があるのですが、救急外来では10例に1例で
診断の誤りがあり、1000人に1人がdiagnostic errorによる害を被るとされています。

 

確かに救急外来では専門医がいない、検査も時間も限られているという状態から
診断がきっちりつく場合は当然少ないです。
そこで本論文が持ち出したのがチェックリスト。

 

 

・救急外来診療において確認すべきチェックリストは?

外科などの領域ではオペ前に確認するチェックリストが確立されていたり
ミスに対する対処にチェックリストが実際使われています。
外来での診療はそれとは異なると思いますが(前回挙げた「知識の不足」などは
そもそもチェックリストを用いても改善され得ない)エラーを少しでも減らす
という意味では役に立つかもしれません。

 

本文中で紹介されるチェックリストにはこんな質問項目があります。
Yesがついた場合はエラーが起きやすい状況といえます。

 

 

Are there "must-not-miss" diagnoses that need consideration?
「見逃してはいけない」疾患が考慮されていますか?

 

Did I just accept the first diagnosis that came to mind?
最初に浮かんだ診断を受け入れていませんか?

 

Was the diagnosis suggested to me by the patient, nurse or another MD?
その診断は患者、看護師、他の医師から提示されたものですか?

 

Is there data about this patient I haven't obtained and reviewed?
Old records? Family? Primary care provider?
まだみていないあるいは見直していないデータがありませんか?
過去の記録や、家族の話、プライマリケアドクターの情報はどうですか?

 

Are there any pieces that don't fit?
その診断に合わない部分がありませんか?

 

Did I read the X-ray myself?
レントゲンは自分で読みましたか?

 

Was this patient handed off to me from previous shift?

その患者さんは前の時間帯からの引き継ぎではないですか?

 

Was this patient seen in the ER or clinic recently for the same problem?
その患者はERもしくはクリニックに同じ問題で最近来てませんか?

 

Was I interrupted/distracted/cognitively overloaded while evaluating this patient ?
その患者を診るときに、何か邪魔がはいったり、気が散っていたり
認知機能に過度に負荷がかかったりしていませんでしたか?

 

Is this a patient I don't like for some reason? Or like too much?(friend, relative)
その患者何と無く嫌いじゃないですか?あるいは好きすぎたりしませんか?

 

 

中々面白いチェックリストだと思います。確かに診断の目が曇りそうな
シチュエーションが多いですね。
10%はこのチェックリストで診断が変わったようです。

果たしてどこまで役に立つのかはまだ証明されていませんが
こういったシチュエーションに陥っていると気づいたら、一瞬でも自分の
診断を顧みることが必要と思われます。

 

救急外来診療におけるエラー②

昨日に引き続き、診療におけるエラーのお話。
参考文献は「長谷川耕平・岩田充永 内科救急見逃し症例カンファレンス 医学書院」です。

 

大まかに分けて4つのエラーとそれに従ったタイプがあります。
知識→それによる情報収集→情報の処理→情報の検証
それぞれの過程での誤りに対応した種類分けです。


①間違った知識
知識不足による思い込み・・・CRP上昇はないから、髄膜炎ではない
スキルの不足・・・腱反射陰性(実はうまくとれていないだけ)

 

②情報収集のエラー
基本的な帰属の誤り・・・いつもの精神的な症状だろうと考えて診察を怠る

 

③情報処理のエラー
トリアージバイアス・・・トリアージナースの診断をそのまま信じる
ラベリング・・・アルコール中毒患者とレッテルを貼って患者を診る

 

④情報検証のエラー
アンカーリング・・・ある疾患だと思い込んで他の鑑別が挙がらない

 

知識不足による①は特に若手のうちは頻繁に起きているように思いますが
②も「研修医が所見をとってるからいいだろう」として怠る場合は自分もあります。
③はトリアージナースに限らず前医の診断に振り回されることは良くありますし
④は治療を始めてしまって中々他の可能性をきちんとみられないことはあります。

 

大事なのはこうしたエラーのあり方を知って振り返ることかな、と思います。
後になって振り返るのも重要ですが、こうしたエラーが起きやすいというのは
分かっているので診療の途中でもぜひ振り返りたいものです。


そこで、このエラーの分類の元になった論文を書いたStanford大学の先生の
別の論文もちらっとみてみたので明日紹介を書きます。