脳内ライブラリアン

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救急外来診療におけるエラー③

前回紹介した認知エラーについての元論文は
Diagnostic Error in Internal Medicine
Arch Intern Med. 2005;165(13):1493-1499. doi:10.1001/archinte.165.13.1493
という論文で、同じ著者のMark L. Graberが書いている別の論文(↓)が
今日紹介するものになります。

 

Developing checklists to prevent diagnostic error in Emergency Room settings

Diagnosis (Berl). 2014 September ; 1(3): 223–231. doi:10.1515/dx-2014-0019.

 

救急外来において診断ミスを減らすためのチェックリストをつくろう、という論文です。

 

 


・救急外来の診療ではどれほどミスがあるのか

 

Backgroundに記載があるのですが、救急外来では10例に1例で
診断の誤りがあり、1000人に1人がdiagnostic errorによる害を被るとされています。

 

確かに救急外来では専門医がいない、検査も時間も限られているという状態から
診断がきっちりつく場合は当然少ないです。
そこで本論文が持ち出したのがチェックリスト。

 

 

・救急外来診療において確認すべきチェックリストは?

外科などの領域ではオペ前に確認するチェックリストが確立されていたり
ミスに対する対処にチェックリストが実際使われています。
外来での診療はそれとは異なると思いますが(前回挙げた「知識の不足」などは
そもそもチェックリストを用いても改善され得ない)エラーを少しでも減らす
という意味では役に立つかもしれません。

 

本文中で紹介されるチェックリストにはこんな質問項目があります。
Yesがついた場合はエラーが起きやすい状況といえます。

 

 

Are there "must-not-miss" diagnoses that need consideration?
「見逃してはいけない」疾患が考慮されていますか?

 

Did I just accept the first diagnosis that came to mind?
最初に浮かんだ診断を受け入れていませんか?

 

Was the diagnosis suggested to me by the patient, nurse or another MD?
その診断は患者、看護師、他の医師から提示されたものですか?

 

Is there data about this patient I haven't obtained and reviewed?
Old records? Family? Primary care provider?
まだみていないあるいは見直していないデータがありませんか?
過去の記録や、家族の話、プライマリケアドクターの情報はどうですか?

 

Are there any pieces that don't fit?
その診断に合わない部分がありませんか?

 

Did I read the X-ray myself?
レントゲンは自分で読みましたか?

 

Was this patient handed off to me from previous shift?

その患者さんは前の時間帯からの引き継ぎではないですか?

 

Was this patient seen in the ER or clinic recently for the same problem?
その患者はERもしくはクリニックに同じ問題で最近来てませんか?

 

Was I interrupted/distracted/cognitively overloaded while evaluating this patient ?
その患者を診るときに、何か邪魔がはいったり、気が散っていたり
認知機能に過度に負荷がかかったりしていませんでしたか?

 

Is this a patient I don't like for some reason? Or like too much?(friend, relative)
その患者何と無く嫌いじゃないですか?あるいは好きすぎたりしませんか?

 

 

中々面白いチェックリストだと思います。確かに診断の目が曇りそうな
シチュエーションが多いですね。
10%はこのチェックリストで診断が変わったようです。

果たしてどこまで役に立つのかはまだ証明されていませんが
こういったシチュエーションに陥っていると気づいたら、一瞬でも自分の
診断を顧みることが必要と思われます。