脳内ライブラリアン

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論理についてざっと見直せる『論理的思考 最高の教科書』

以前の記事で勉強と記憶において論理力というのは重要であることを書きました。

medibook.hatenablog.com

 

哲学の本を読むにせよ、医学論文を読むにせよ、あるいは書くにせよ、論理力は基本であり、必要な能力です。また、ビジネスでも人にきちんと分かるように伝えるには論理構成が整っていないと伝わらないのではないでしょうか。

 

そこで、今回この本を買ってみました。

タイトルの通り分かりやすく、論理的な思考をまとめており、短文による例題も豊富で役立ったので、個人的に学んだ点を紹介します。

 

目次:

 

そもそも論理的思考はなんのために使われるのか

論理的思考というのは、本文によれば

①あることを前提にそこから何か新しいこと、結論を導き出す際に、

②語と語、句と句、文と文などの関係に注意が払われていること

(福澤一吉著『論理的思考 最高の教科書』)

 を指します。

 

つまり、論理は接続詞や言葉どうしの定義に注意をしたうえで、ある根拠から主張を伝える際に使われるわけです。そしてそれが人に理解してもらえる形であることが論理的であるということになります。

 

学問もビジネスのプレゼンも全て、この主張を伝える、ということが必要になるため、いずれにしても基盤となる重要な思考法です。

 

演繹法帰納法

まず論証の基本である、演繹法帰納法について説明します。

演繹法 

演繹法とは、前提を真としたうえで、主張をそこから導き出す方法です。

 

例えば、「全ての哺乳類は卵から生まれない」→「イルカは哺乳類なので卵から生まれない」

 

といった具合です。

 

帰納法

それに対して、帰納法は、前提として様々な経験的事実を集め、主張を導き出す方法です。

 

例えば、「徳川家康は日本生まれである」「織田信長は日本生まれである」「豊臣秀吉は日本生まれである」→「戦国大名はみな日本生まれである」

 

といった具合です。

 

帰納法は確実ではありません。もしかすると日本の戦国大名の中にも実は中国生まれやオランダ生まれ(多分いないけど)がいたかもしれません。それに対して演繹法は前提が合っていれば、主張は確実なはずです。

 

この本のなかの記述で興味深かったのは、帰納的確率(帰納法の前提が合っている確率)が100%であれば、演繹法といえる」という点です。そのため、論理学というのは全て帰納法を説明していくことが大事である、という話につながります。

 

確かにそういわれると、全ては帰納法と言っても良いということになり、帰納法を詳しく知ることが論理力を高める手立てであることが分かります。

 

帰納法をより詳細に

本書では帰納法を4つの型に分類しています。

 

①枚挙型、②投射、③アナロジー、④仮説形成です。それぞれみてみます。

 

①枚挙型

根拠となる事実をいくつか列挙して全体を推測する方法です。先ほど挙げた戦国大名の話がその例となります。

 

②投射

根拠となるいくつかの事実から、個別の事例を推測する方法です。

 

例えば、「哺乳類である犬は4足歩行だ」「哺乳類である猫は4足歩行だ」「哺乳類である馬は4足歩行だ」→「哺乳類であるイルカは4足歩行だ」

 

ということが挙げられます。これも先ほどの枚挙型と同様に間違っている場合はあり得ます。この例は間違ってますね(笑)

 

③アナロジー

ある事実の構造から、別の事実の構造を推定する方法です。

 

例えば「人間は消化管を通してエネルギーを吸収し、吸収しきれなかったものを排泄する」ということのアナロジーとして「機械は電気回路を通してエネルギーを吸収し、吸収しきれなかったものは熱として排泄される」という感じです。

 

適当に作ったので、「人間も熱放散してる」とか明らかな粗がありますが、アナロジーも当然完全な論理ではないので、穴があり得ます。

 

④仮説形成

これがちょっと特殊で、意識しにくいのですが、非常に重要なので良く知っておく必要があります。

 

本書から引用すると

「ある仮説を立てるとその事象の説明ができた。だからこの仮説は正しいだろう」と推測する論証法

(福澤一吉著『論理的思考 最高の教科書』より)

 

これは医療関連の事柄でも論文でしょっちゅう使われている方法だと思います。例えば、「Aという薬が白人には効かなかったが、日本人には効いた」→「日本人は白人に比して体格が小さいため有効だったと考えられる」 というような感じです。

 

あと、最近の事柄でいえば、初期のころに言われていましたが、「新型コロナウイルスはアジアで感染者数が少ない」→「アジア人はマスクの着用率が高いからだと考えられる」とかもそうですね。

 

この仮説形成が特殊なのは、事象から導き出すのではなく、仮説を作り出すことで事象を説明しようとする点です。

 

さらにこれを使った仮説演繹法を行うことで主張を次の仮説へとつなげて繰り広げることができます。

 

仮説演繹法とは

先ほどの仮説形成を使って得られた仮説を「真のもの」と仮定して、演繹法を使った「予測」を作り出します。それを実験的に検証することで、仮説形成されたものを確かめるのが、演繹と帰納を組み合わせた「仮説演繹法です。

 

例えば先ほどのコロナの例を考えると、「アジア人はマスクを着けているので感染者数が少ない」という仮説を実験的に確認すればよいわけです。例えば、「アジア人」のなかで「マスク着用率の高い国」と「マスク着用率の低い国」で比較をしてみる、などが考えられます。

 

まあ実際には国ごとの状況がまるで異なるので、全然比較はできないと思いますが、、、。

 

実際医学はこの仮説演繹法が繰り返されて出来上がっており、さらにその仮説を「投射」することで、個人に使用してますので、実はかなりの点で不確実性を含むものであることが分かります。

 

価値は論証では導き出せない

もうひとつ、ちらっと書いてあったのですが、これも大事な話です。「論証を使って価値を導き出すことはできない」。 

 

哲学の記事でもよく書いていますが、哲学における大きな疑問の一つは、物事の「価値・本質」とは何なのかということです。

 

実証で導き出せるようなら苦労はしませんが、それができないために延々と哲学的な議論が続いているわけです。いくら帰納法を使おうと「最高の人生とはなにか」といった疑問には答えは出ません。

 

但し、今まで帰納法の話で挙げていたように「ある程度正しいかもしれない(蓋然性と呼ばれます)」ことは述べることができます。よって、議論が全くの無駄というわけではなく、少しでも近づけるようにする、という意味はあるんだろうと思います。

 

感想

一番の核となる部分は本の前半部分だと感じたので、まとめるのはここまでですが、本書の後半では「バイアスや誤謬」「相関関係と因果関係など統計的な話」などかなり幅広くまとめてあります。

 

また、「論証図」など図にして分かりやすく理解する方法も述べられており、役立つ内容はまだまだたくさん載せられています。

 

恐らくどのような仕事をしている人でも一定以上に役に立つものだと思いますので、ぜひともお勧めします。