脳内ライブラリアン

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医療、統計、哲学、育児・教育、音楽など、学んだことを深めて還元するために。

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ティファール「クックフォーミー」とアイリスオーヤマ「電気圧力鍋」を比較してみた

統計の話題が続きすぎたので、たまには全然違う日常の話を。

 

4月から妻が再度働き始めることもあって、現在自宅では家事時短に向けた取り組みが粛々と進められています。

 

そんなわけで最近電気圧力鍋を購入しました。

f:id:medibook:20210307213108j:image

「豚の角煮」をクックフォーミーで作りましたが実にうまかったです。

 

やっぱり特に肉系の煮物は圧力鍋が最強ですね。

 

現在自宅にあるのはクックフォーミーなのですが、その直前に妻の実家からアイリスオーヤマ電気圧力鍋を借りて使い心地を試していました。

 

せっかくなので比較してみようと思います。今後購入検討中の方は参考にどうぞ。

 

目次:

 

 

アイリスオーヤマの「電気圧力鍋」の良い点、悪い点

良い点

・値段が比較的安い(1〜2万円台)

・シンプルなデザイン

・手入れが楽

 

値段が他のメーカーと比べてもお安くなっており、だからといって圧力調理の出来が悪いわけでもなく、煮物も全般に美味しくできました。デザインはシンプルで鍋っぽい見た目になってますので、キッチンにも馴染みます。後述しますが、ティファールのクックフォーミーより蓋についているパールで取り外すものが少ないので、洗う際もその分楽です。

 

悪い点

・4Lまでしかサイズがない

・煮る以外の調理ができない

 

サイズが4Lまでしかないので、多くても4人分のメインディッシュが限界というところがあります。子どもたちが大きくなったときには(そこまで使うかわからないですけど)おそらく1食分でも足りなくなってしまいそうなので、4人以上あるいは4人でも多めに食べる人がいる場合は、もっと大きいサイズの方が良さそうです。

 

また、クックフォーミーでは炒めたりもできますが、この鍋は「煮る」しかできません電気圧力鍋なんでそれだけでも十分な気もしますが、「炒めてから煮る」方が野菜の甘味が出て美味しい料理などは別で炒めないといけなくなるので若干めんどくさいです。個人的には洗い物が増えるのが嫌なので、一括でやれる方が好きですが、そもそも炒めることすらめんどくさくなる時もあるので(笑)まあ煮る専門でも良いと割り切れる人なら問題ないかもしれません。

 

T-falの「Cook 4 me」

良い点

・6Lのサイズまである

・炒め調理もできる

 

明らかな差異と言えるのはサイズがでかいのがあることでしょうか。これを理由にティファールにしました。6Lなので結構本体も大きくて、普通の炊飯器よりは一回りでかい感じです。肝心の料理も割と多めに作れるので、現状自分と奥さん+3歳児くらいの食事量ですから、3回分ぐらいの食事量は一度に作れます。ただ、サイズが大きい分、ある程度の水分の分量がないと調理できないので、「なんでもかんでも大きいのにする」というよりは家庭に応じたサイズに抑えた方が良さそうです。

 

また上で書いたように煮る前の準備として炒める、焼き色をつけることができるのも良い点です。火力は十分ながら焦げ付くことなくやれますし、調理時間を常に画面でカウントしてくれるので、どれくらい煮たり炒めたりしているかが認識しやすいのも個人的には気に入っています。

 

悪い点

・価格が比較的高い

・洗うときに外すパーツが多い

 

お値段は2〜6万円台(サイズによりけり)でアイリスオーヤマよりは全体に高めです。ここでさらに値段が高くなることで、気になったのは「クックフォーミー」と「クックフォーミーエクスプレス」の違い。

クックフォーミーとクックフォーミー エクスプレスの違い

 

この辺のページでも説明されてますが、要は内蔵レシピの数の違いと蓋などのマイナーチェンジのみ。正直いって内蔵レシピに沿って調理をすることの方が少ないので、高くなるエクスプレスを選ぶ理由が自分にはありませんでした。

 

あとは洗う際に蓋についている圧力調整のためのボールなど外すパーツが3つもあるので、若干めんどくささを感じます。まあサボって洗わないという人もいる気はしますが、壊れても困りますからね(汗

 

両方に共通する感想

時短のために買いましたが、あるとやっぱり便利ですね。

 

まず良い点の一つは火加減や具材の様子を見なくても大丈夫であること。煮物は基本的に火のついているところから離れづらいので、他にもやることの多い朝や子どもたちが常に何かを訴えてくる(笑)休日なんかは鍋のことを気にせずに他のことができるので大変助かります。

 

二つ目は調理時間自体の短縮効果です。あんまり具材が硬いと子どもも食べてくれないのですが、圧力鍋を使うと簡単に柔らかく仕上がります。朝時間がない中で、火を通し続けるのは大変なのですが、圧力鍋なら5〜10分もかければかなりしっかり火が通ります。予熱の時間とかも少しあるので、そこまでスピーディーとまではいきませんが、、それでも普通に煮込むよりは断然早いです。

ただ、これまで使ったところだと具材によって柔らかくなる度合いが違っている印象で、大根や玉ねぎ、かぶなんかはかなり柔らかくほろほろになっていたのですが、にんじん、ジャガイモ、さつまいもなんかはそれなりに時間がかかりますね。むしろカレーなんか作る時は普段よりも具材の食感や形がしっかり残っていたように思います。

 

三つ目は肉系の煮込み料理が美味しいことですね。普通に火を通すと硬くなりすぎたり、逆に火の通りがイマイチだったり、いつもうまくいかなかったのですが、圧力鍋だと抜群に美味しかったです。スペアリブ、豚の角煮、鶏チャーシュー、蒸し鶏など作りましたが、どれも楽に美味しくできました。

 

クックフォーミーでGoogle検索すると、「クックフォーミー いらない」という悲しい予測ワードが出てくるのですが、多分そんなことないと思いますよ!劇的な時短とまでは言いませんが、お役立ちアイテムにはなると思います。

 

追記(2021.06.05):

記事のアクセスが伸びてきたので、その後の使用感の追記です。

3ヶ月経ちましたが、使用頻度はどうしても前より落ちますね笑

下の子が大人と全く別のものを食べていたころから変わって、徐々に一緒のものを食べるようになってきたので、途中で味付けとかを変更したりしにくい分少し使いにくさが出ています。

 

とはいえ、カレーだとかシチューだとかは大人数一気に、かつ楽に作れるので、重宝してますし、野菜や芋とかを蒸すときは時間も短めでしっかり中まで火が通るのでありがたいですね。

 

子育て始めの世代よりかは共働き夫婦のみとかもうちょっと大きくなった時期がベストな気がしてます。

twitter始めました(今更感がすごいけど)

blogの記事にするほどではないけれど、「本の感想を書きたい」「論文の紹介をしたい」「医療関連のニュースをさらっと紹介したい」「統計検定1級の勉強の辛さを共有したい!」ということがたまにあります。

 

そういった内容を書きやすいので、いまさらながらtwitter始めてみました。学生時代にもやってましたけど、もはや活動してなかったので本当に久しぶりです。読んだまま記憶の彼方へ流れていってしまう本のこともこれなら記憶に留められるかもしれません。

 

もし興味がある方がいればフォローいただけると幸いです。

統計検定1級をともに頑張りたい方もぜひどうぞ。

medibook (@medibook3) | Twitter

認知症の新薬aducanumabの話が不穏すぎるので、製薬関連の本をいくつか読んでみた

さて、最近認知症関連の話題で注目されているのはbiogenとエーザイが開発しているモノクローナル抗体アデュカヌマブ(aducanumab)です。

 

アルツハイマー認知症の治療薬として期待されており、アミロイドβを標的とした薬剤となっています。

 

これが今アメリカのFDAアメリカ食品医薬品局)に薬剤としての承認申請をしている最中なのですが、統計学的にも臨床的にも問題を孕んでおり、外部の委員会(薬剤の有効性を検討する神経内科医による委員会)でも有効性に疑問を付されています。

journals.lww.com

 

データは論文化されておらず、biogen側の制作したスライド(公表されているもの)がデータがまとまっていてわかりやすいので、興味がある方は直接みてみると良いかもしれません。

https://investors.biogen.com/static-files/ddd45672-9c7e-4c99-8a06-3b557697c06f

 

EMERGE、ENGAGEと二つの臨床試験がなされているのですが、そもそも2019年3月時点で中間解析により無益と判断して中止になっていました。その後open labelにして継続していたデータが良かったのでそのデータをまとめてFDAに申請したという曰く付きなものです。統計的にそんなやり方アリなのか、とまず思うところです。

 

この辺の経緯と問題点は"Alzheimer and Dementia"という認知症専門のジャーナルにperspectiveとして指摘されています。

https://alz-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/alz.12213

 

それに、先程のデータをみてもアルツハイマー認知症が改善するものではなくて、少し進行を遅らせるかどうかというレベルなんですよね。臨床的にわかりやすいアウトカムでいくと、高用量のdoseですら、78週間でプラセボと比較してMMSE0.5点ほどしか改善しておらず(当然開始時のベースに比べたら悪化はしている)、臨床的意義も疑問です。

 

画像上のアミロイドβは改善しているようなので、こうなるとむしろ「アミロイドβを良くすれば良い」と言うわけではないことが示されたように思います。

 

危険性は高くないと言われているものの、30%近い患者でアミロイド関連画像異常(ARIA)の浮腫を認めており、これも長期間となるとどう影響してくるかまだ分からないと思います。

 

東洋経済ではこんな記事もありましたが、試験結果をみる限り「根本治療薬」という言葉には語弊しかないと思います。

アルツハイマー病「根本治療薬」が迎えた正念場 | 医薬品・バイオ | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

 

介護される方や患者さんの辛さはよくわかるのですが、「治療できる薬が今のところない」から申請を通すのは全くおかしな話で、これが通ってしまえば、かえって(臨床的に大幅に改善されるような)本当の意味での治療薬を作る資金の流れが減ってしまい、治療への大きな障害になるのではないでしょうか。

 

(2021.06.13追記 アデュカヌマブFDAで承認されましたね、、、。条件付き承認ということで実際に本当に臨床的意義があるのか検証されるようです。日本は副作用、効果ともに落ち着いて動向を見るのが一番だと思います。アルツハイマー認知症の方や介護者の方が辛い思いをされるのは外来でもよく感じますが、そうした大切な人にこそ安全性や治療の効果がはっきりしない薬は使って欲しくないものです。)

 

思わず前置きが長くなりましたが、なぜこんな苦しい新薬を出していくことになるのだろうと疑問に思い、最近製薬関連の本をいくつか読んでみたので、紹介してみます。こういった本はあんまり出されてないジャンルな気がしますね。

 

『製薬会社は生き残れるか』河畑茂樹著

 

アステラス製薬で働かれている製薬のプロフェッショナルの先生が書いた本です。創薬の歴史から今後の向かっていく医療の方向性、それに対しての製薬会社のとるべき立場を書いています。

 

冒頭から明らかになるのは、創薬という行為が過去に比べていかに難解でコストがかかるものになってしまっているか、です。本書によれば2010年~2014年に合成された低分子医薬品(分子標的薬のようなバイオ医薬品ではなく、もっと小さい化合物。アゴニスト、アンタゴニストとか。)25000のうち、薬剤として本当に使用できたのは1つに過ぎないようです。候補はあってもいかに実用に結びつくものが少ないかが感じられます。また、コストも2013年時点で10年前に比べて2倍に膨らんでおり、1800億円以上とされています。

 

なぜこんなにも難易度もコストも莫大に膨らんでいるのか。簡単に言うと『理解が進んでいて作りやすい化合物はあらかた作ってしまったから』のようです。そうなると上述のアルツハイマー認知症のように、まだ解決できていない病気に挑んでいくわけですが、そもそも病態も解明されていないものに対して薬を作ろうとすればなおさら難しいわけですね。研究の費用もかさみますし、さらには臨床試験で効果を証明せよ、と言われるととんでもなくお金がかかるわけです。しかもそこまでやり終えても効果が実証できなかったとなると、かかったコストも水の泡なので、aducanumabの試験の申請に全力を注がざるを得ない理由もわかります。

 

難易度もコストも上がっていく中で、同じ体制を続けていくことは無謀に等しく、製薬業界の在り方を再定義するように筆者は促します。薬の開発だけでなく、医療を提供する側のシステムに介入して効率化したり、コンシューマービジネスを行ったりするのが一つの案であるとされています。

 

確かに、実際臨床の現場で感じることは、薬がそもそもあるのにきちんと内服してない、だとか、適切な診断がなされないことだとか、治療薬や予防薬の使われ方の問題で、良いパフォーマンスが得られない事例を何度もみかけます。例えば、認知症の問題でいけば、『科学的認知症診療5Lessons』*1でも指摘されているように、アルツハイマー認知症という診断が適当になされて、それに対する抗認知症薬が漫然と出される、というのは日常的にもよくみられます。

 

新薬を見つけ出すための研究はもちろん継続的に必要だと思いますが、真の意味で効果が高いと言えない薬を無理やり通すよりかは、もう少し簡単に患者さんの利益に結びつくところはまだあるように思えます。まあ言うは易く行うは難し、なものなのだとは思いますが、、、。

 

『新薬の狩人たち 成功率0.1%の探求』ドナルド・R・キルシュ、オギ・オーガス

新しい薬を見つけ出すドラッグハンターである著者が過去の数々の薬剤の発見のエピソードを裏の裏まで書いた一冊です。この本で語られる創薬の歴史を過去から眺めてみると

 

植物などによる偶発的な薬の発見

合成化学による薬の発見

合成化学による薬物の標準化

仮説に基づいて薬剤を設計する

 

とこんな感じに進んでいるようです。仮説に基づいて設計する、というとまるで効率的に効果のある薬が生み出されるかのようですが、実際は上述のようにそうでもなく、有効な薬を見つけ出すことには常に幸運が必要である、と語られます。

 

著者は例えとしてアルゼンチンの作家が書いた「バベルの図書館」という逸話を挙げます。その図書館には大量の本があり、その本の文字はランダムに並べられ、2冊として同じものはありません。偶然文字のように読めるところがありますが、ほとんどは無意味な文字ばかり。そうした本の中に「弁明の書」と言われる人生を変える叡智に満ちた本がどこかにあり、それを延々と調査官たちは探し続ける、、、。

 

冒頭で新薬を探すのはこれと一緒だと述べられます。そして、これは昔の話ではなくて、専門的な技術をトップクラスの大学で学んだエリートにとっても同じこと。人体のメカニズムとそれに手を加えることの難しさは、本書で説明される新薬の歴史やエピソードをみていくと納得させられます。薬の発見には奇跡的な偶然が多く、自分の体を張るような強い決意と粘り強いチャレンジがいくつも語られます。

 

また興味深いのは、第6章「命を奪う薬」で語られる、医薬品規制の誕生の逸話でしょうか。抗生剤の黎明期はそれが生み出す利益は莫大でしたが、その危険性をみてストップをかけるような部署も十分な人材がいなかった(FDAも当時は薬剤を管轄していなかった)ため、「エリキシール・スルファニルアミド」は多大な被害を与えながらも販売が続けられていました。腎機能障害などで100人以上の被害者がアメリカで出たことでようやく制度が整備されました。

 

当時は規制が十分になく、あまりに製薬会社のビジネスが自由すぎたことが問題となっていましたが、現代では規制が増えてくることにより製薬会社への新薬開発に対する負担が増えていることも本書は問題視しています。規制と自由の適切なバランスはどこなのか。安全性とコスト、そして重要な薬の実用化が遅れることのバランスをその状況に合わせて取り直し続けることが大事だと本書は訴えています。

 

『世界史を変えた薬』佐藤健太郎

『新薬の狩人たち』の翻訳をされた方が書いた本で、過去に生み出された新薬と病気が世界史の要所で関わっていることをテーマに書かれています。

 

薬剤の歴史という意味では、日本の歴史に特に踏み込んでいる点が面白いんですが、「世界史を変えた」というほど強いつながりが感じられるかというと世界大戦時の感染症による死者とかはまあ分からなくもないのですが、これというインパクトには薄い感じがしてしまいますね。

 

雑感

なんだかどうも尻すぼみになってしまいましたが、技術の進歩にも関わらず、創薬が難解かつコストのかかる大きな問題であること、薬と人体の理解が全く十分ではないことを認識できたように思います。抗認知症薬は期待がもたれる分野ですし、こうした理由から製薬会社側が申請に全力を尽くさざるを得ない事情も分かりますが、とはいえ臨床的・統計的に効果が不十分なものを通すというのは長期的にみて、より利益を損なう選択肢であることが分かります。『製薬会社は生き残れるか』で提案されているように、利益を出す分野をニーズに合わせてスイッチしていくのが、今の時代には良い方向性なのでしょうか。

 

参考文献:

*1『科学的認知症診療 5 Lessons』小田陽彦著

 

認知症診療のエビデンスをしっかりと読み解いて解説されています。冒頭のLesson 1でアルツハイマー認知症の不自然な増加(抗認知症薬の発売に合わせて他の型と割合が崩れていく)が指摘されています。診断や治療についても、国内臨床試験をもとに、「本当に意味のある臨床的な効果があるのか」に常に主眼をおいて解説されており、ぜひおすすめしたいです。

【統計応用・医薬生物学】ノンパラメトリック法・ウィルコクソンの符号付き順位検定【統計検定1級対策】

引き続きノンパラメトリック法の検定についてみていきます。

 

ウィルコクソンの符号付き順位検定とは

ウィルコクソンの符号付き順位検定は1標本の検定に使われるもので、対応するデータの差が正のときに1、負のときは0として(ここまでは符号検定と同じ)それにデータの差の大きさの順位を掛け合わせることで検定を行うものです。

 

符号検定と異なり、データの分布が中央値に対して対称でないといけない点が注意が必要です。

 

具体例で考えてみる

 符号検定の記事で使ったのと同じ例を出してみます。 

 

3人の被験者に対して、降圧剤を内服前後の収縮期血圧の変化を見てみると以下の表のようになりました。これに対してウィルコクソンの符号付き順位検定をしてみます。帰無仮説は前後の差はなく、いずれの分布関数の中央値も同じかつ中央値に対して対称、と考え、5%を有意差とする片側検定を行います。

f:id:medibook:20210224052014j:plain

 

 

まずは、データの差の大きさの順位とその正負を確認します。

 

f:id:medibook:20210224052047j:plain

 

すると、こうなりました。

 

次に検定統計量である差が正である順位の和W_nを求めます。

 

W_n=3+2=5

 

続いて、この順位の和の組み合わせを全て考えてみると以下のようになります。

{0}

{1}
{2}
{3}
{1,2}

{1,3}

{2,3}

{1,2,3}

 

以上の8通りです。

帰無仮説において、この組み合わせはいずれも同じ確率で出現するはずです。

この中で、先程の検定統計量W_n=5より大きいのは

 

{2,3}

{1,2,3}

 

の2パターンなので、求める確率は

P(W_n\gt5)=2/8=0.25

となり、有意差がないことがわかりました。

 

ウィルコクソン符号付き順位検定の一般的な式

一般化して考えると、まずデータから得られた変化後の確率変数Xは未知の分布関数F(X-Δ)に従うと考えます。Δに対して分布関数は対称な形をしていることを仮定します。

 

変化前の確率変数\Delta_0について

H_0: \Delta_0=\Delta\\H_1: \Delta_0\neq\Delta

として検定を行います。(両側検定の場合)

 

検定の式としては

P(W_n\gt w_n)=\sum_{i=1}^niV_i

となります。

データの数をnとし、データの差Z_iを順序統計量として順位(i)に応じて並べます。大きい方からZ_n\gt Z_{n-1}\gt....Z_1という順番です。V_iはデータの正負を指示するための定義関数で

V_i=1Z_iが正のとき)

V_i=0Z_iが負のとき)

と定義されます。

 

サンプル数が多い場合の正規近似

符号検定と同様にこちらもサンプル数が多ければ正規近似ができます。

 

そこで必要になるのが検定統計量の平均と分散です。

帰無仮説においてV_iは1/2の確率で正負となるベルヌーイ分布と言えることを利用して、平均は

E[W_n]=\sum iE[V_i]\\=\frac{1}{2}\sum i\\=\frac{n(n+1)}{4}

分散は

Var(W_n)=Var(\sum iV_i)\\=\sum Var(iV_i)\\=\sum i^2Var(V_i)\\=\frac{1}{4}\sum i^2\\=\frac{n(n+1)(2n+1)}{24}

となります。

 

よってサンプル数が大きいとき標準正規分布で近似すると

Z=\frac{w_n-\frac{n(n+1)}{4}}{\sqrt{\frac{n(n+1)(2n+1)}{24}}}

と言えます。

 

参考文献:

 

【統計応用・医薬生物学】ノンパラメトリック法・符号検定【統計検定1級対策】

2016年、2019年と出題されているノンパラメトリック法の検定について簡単にまとめておきます。

 

符号検定とは

符号検定は1標本に対して行われるノンパラメトリック検定です。ある対応するデータの差が正であれば1、負であれば0として、それをデータの数だけ足し合わせたものを検定統計量S_nとします。差が明らかにあるのであれば、S_nは大きくなるはずなので、差がないとした帰無仮説下での、その確率を計算して有意かどうか調べます。

 

具体例で考えてみる

実際の例をみるとより分かりやすいので、適当な例を出してみます。(この試験にノンパラメトリック法が適切かどうかはひとまずおいておきます)

5人の被験者に降圧剤を内服してもらい、収縮期血圧が内服前後で以下のように変わったとしてみます。

f:id:medibook:20210223061703j:plain

 

この時、符号検定を5%有意差の片側検定で行ってみます。

まず、(内服前)ー(内服後)で下がっているものを正として、みてみると以下のように5例中4例で下がっていることが分かります。

f:id:medibook:20210223061901j:plain

ここで、帰無仮説下ではデータ間に差はないはずなのでこうした事象が起きる確率は、被験者5名について1/2の確率で差があるorないということが起きるような二項分布Bin(5, 1/2)に従います。

 

よって、例えばS_n=4となるような事象はP(S_n=4)=\frac{1}{2^5}{_5C_4}の確率で起きることがわかります。

 

有意差を考えるにはS_n=4以上の数値を考えれば良いので、P(S_n\geq 4)=\frac{1}{2^5}{_5C_4}+\frac{1}{2^4}{_5C_5}\\=0.1875となり、有意差がないことがわかりました。

 

符号検定の一般的な式

上記の例を一般化してきちんと書くと、変化前後のデータの数値Xが従う分布関数の中央値をそれぞれ、\Delta_0, \Delta、とすると

帰無仮説H_0:\Delta=\Delta_0あるいはP(X\gt\Delta_0)=P(X\lt\Delta_0)=\frac{1}{2}

対立仮説H_1:\Delta\neq\Delta_0

となります。

 

片側検定では対立仮説が

\Delta\gt\Delta_0あるいはP(X\gt\Delta_0)

もしくは

\Delta\lt\Delta_0あるいはP(X\lt\Delta_0)

 となります。

 

先程の例と同様に片側検定で上の対立仮説を用いたものを考えてみます。

 

帰無仮説下においては上記のように、差が出る確率は均等にランダムで1/2になるはずなので、検定統計量S_nの数値以上となるのが、どの程度の確率なのかを求めて、有意差があるかどうかを判定します。

 

よって式は

P(S_n\geq s_n)=\frac{1}{2^n}\sum_{i=1}^n{_nC_i}

となり、これによって検定します。

 

サンプル数が多い場合の正規近似

サンプル数が多い時には、組み合わせの数を直接求め続けるのは大変なので、正規分布への近似を行います。

 

S_nは二項分布Bin(n, 1/2)に従うので、期待値はn/2、分散はn/4となります。

よって

\frac{s_n-\frac{n}{2}}{\sqrt{\frac{n}{4}}}=Z

は標準正規分布に近似されます。

 

標準正規分布表を用いてこの部分の確率を計算することで先程のP(S_n\geq s_n)などを求めることができます。

 

参考文献:

 

最近買いましたが、理論的な背景をしっかり説明していて、納得できる本です。若干理解が難しいところもあります。

【統計応用・医薬生物学】RMST法の期待値と分散【統計検定1級対策】

引き続き生存時間解析の話ですが、2019年の過去問ではRMST法の問題が出ていたので、期待値と分散の導出について簡単に説明します。

 

RMST法ってそもそもなんやねんということは過去に一度記事を書きました。

medibook.hatenablog.com

 

範囲にも書いてないし、公式の教本にも書いてないのに問題が出されるとかもはやどうしたらいいんでしょうか笑

 

まずは期待値の導出についてです。

生存時間の確率変数をT、観察期間をτとすると、被験者の生存時間XはX=min(T, τ)で表現されます。つまり、観察期間中にイベントが起きればTとなりますし、観察期間中に起きなければτでカウントされるわけです。

 

通常の生存時間解析と同様に、イベントの起きる確率密度関数をf(t), 分布関数をF(t), 生存関数をS(t)とします。

 

生存時間Xの期待値を取ると

E[min(T, \tau)]=\int_0^\tau tf(t)dt+\int_\tau^\infty \tau f(t)dt

という形で区分を分けた積分になります。

 

さらにそのまま変形を続けますが、ポイントは部分積分を使うところですね。

あとは1-F(t)=S(t)の関係式を使えばOKです。

[tF(t)]_0^\tau-\int_0^\tau F(t)dt+[\tau F(t)]_\tau^\infty(第1項に部分積分を使った)\\=\tau F(t)-\int_0^\tau(1-S(t))dt+\tau(1-F(t))\\=-\int_0^\tau1dt+\int_0^\tau S(t)dt+\tau\\=\int_0^\tau S(t)dt

 

以上より観察期間中の生存関数の面積が期待値(=平均生存時間)に一致することが示せました。

 

続いて分散ですがこれもほぼ同様です。

二乗の期待値を考えていくと

E[X^2]=\int_0^\tau t^2f(t)dt+\int_\tau^\infty \tau^2f(t)dt\\=[t^2F(t)]_0^\tau-\int_0^\tau 2tF(t)dt+[\tau^2 F(t)]_\tau^\infty\\=\tau^2F(\tau)-\int_0^\tau 2t(1-S(t))dt+\tau^2F(\tau)+\tau^2\\=\int_0^\tau 2tS(t)dt

となるので、こちらも生存関数が分かれば導出できます。

 

なお、過去問では確率密度関数を指数分布に設定しています。知っていれば確実に解けそうな問題でしたが、知らないといきなりは解けないように感じますね、、、。

 

参考文献:

http://www.jpma.or.jp/medicine/shinyaku/tiken/allotment/pdf/rmst.pdf

日本製薬工業協会が作ったRMST法についてのわかりやすいページです。全部で100ページ以上ある超大作。上記の期待値、分散の導出のほか、確率密度関数を指数分布やワイブル分布に仮定した場合も載せてあります。

【統計応用・医薬生物学】Cox比例ハザードモデルと尤度関数【統計検定1級対策】

生存時間解析の勉強を進めて、今回はCox比例ハザードモデルについて過去問に対応できるように知識をつけていきたいと思います。

 

ハザード関数と生存関数の知識が前提に必要なので、わからなかったらこちらをどうぞ。 

medibook.hatenablog.com

 

 

目次:

 

Cox比例ハザードモデルとは?

Cox比例ハザードモデルは回帰分析の一種で、生存率に関係してくる因子を説明変数、ハザード関数を目的変数として設定するモデルです。

 

例えば、あるi番目の被験者について、生存率に関係する3つの説明変数x_1i, x_2i, x_3iがあるとします。それぞれに対応する偏回帰係数\beta_1, \beta_2, \beta_3とするとi番目の被験者のハザード関数は

h_i(t)=exp(\beta_1x_1i+\beta_2x_2i+\beta_3x_3i)h_0(t)

と表せます。

最後のh_0(t)ベースラインハザード関数と呼ばれ、すべての説明変数が0のときのハザード関数を指します。

 

行列を使うとよりシンプルな形で式を構成できます(行列はなんとなく苦手ですが)。

f:id:medibook:20210221060629j:plain

 

上記の式のように、回帰係数の行ベクトルをβ、説明変数の列ベクトルをXiとおくと

h_i(t)=exp(\beta X_i)h_0(t)

と書けます。

 

この中のexp(\beta X_i)がハザード比と呼ばれます。βが分かれば各説明変数がどれくらい生存率に影響を与えるかがわかるので、これが通常知りたい内容となります。

 

生存時間解析における尤度関数を考える

パラメータであるβを推定するには尤度関数の考え方が必要です。

2018年の統計応用の過去問でも出ています。

 

生存時間解析における尤度関数は各被験者の生存時間をt_1, t_2,....,t_nとし、打ち切りがあった場合は(つまり観察期間中にイベントが発生しなかった場合)\delta_i=0、イベントが発生した場合は\delta_i=1とするような定義関数を使って、以下の式で考えることができます。

L(\beta)=\Pi_{i=1}^n\{f(t_i)\}^{\delta_i}\{S(t_i)\}^{1-\delta_i}

イベントが発生した人にいてはf(t_i)の確率で発生しており、発生しなかった人は生存関数S(t_i)の確率で発生していないと言えるので、各被験者が独立であることを踏まえると、すべての積が尤度関数になると言えます。

 

Cox比例ハザードモデルにおけるβの推定

先程の尤度関数をCox比例ハザードモデルを使って書き換えてみます。

イベントが発生する確率f(t_i)=h_i(t)S(t_i)となり、S(t_i)=-logH(t_i)=exp(-\int_0^{t_i}h(t)dt)なので、まずはハザード関数を使って書き換えると

L(\beta)=\Pi_{i=1}^n\{h_i(t)\}^{\delta_i}\{exp(-\int_0^{t_i}h_i(t)dt)\}

となります。

 

次にβを推定するため、対数尤度関数を考えます。対数尤度=0となるようなパラメータβを考えれば、βの推定を行うことができそうです。

 

対数尤度関数を考えると

logL(\beta)=\sum\{\delta_ilogh(t_i)+log(exp(-\int_0^{t_i}h_i(t)dt))\}\\=\sum\{\delta_ilog(h_0(t_i))+\beta X_i\}-\sum\{exp\beta X_i\int_0^{t_i}h_0(t)dt\}

 となります。

 

ですが。

 

ここまでやっといて何なのですが、正攻法でβの推定をするならこのような計算になり、ベースラインハザード関数h_0(t)を求める必要が出てきます。

 

しかしながら実際問題興味があるのはそこではなくあくまでβの推定です。

そこでCox比例ハザードモデルでは上記の式におけるh_0(t_i)の情報をまったく捨て去って、βを推定します。

 

あるj番目の被験者が、ある時点t_jでイベントが発生したときの確率は

\frac{説明変数x_jをもつ被験者がイベント発生するハザード}{t_j時点で生存する被験者が1人イベント発生するハザード}

と言えるので、式としては

\frac{h_j(t_j)}{\sum h_l(t_j)}

となります。分母はその時点で生存するすべての被験者(=リスク集合)のハザードの総和となります。

 

これも先程のCox比例ハザードモデルの式を代入すると、ベースラインハザード関数が分母と分子で相殺されてβのみが残ります。

\frac{h_j(t_j)}{\sum h_l(t_j)}=\frac{exp\beta X_j}{\sum exp\beta X_l}

 

これをある時点t_jだけでなく、全ての時点について掛け合わせれば良いので、イベント発生した回数をrとすると、尤度関数は

\Pi_{j=1}^r\frac{exp\beta X_j}{\sum exp\beta X_l}

となります。ここからニュートンラフソン法という方法を用いて、βの最尤推定を行います。それ以上の詳細は出ないと思うので(あと自分も分からないので、、、)ここまでとします。

 

式を見てわかるように生存時間がどれだけであったか、というデータはバッサリと切り捨てられているため、この尤度は部分尤度関数と言われます。

 

この方法であればベースラインハザード関数を推定せずに済んでいるため、ベースラインハザード関数については何らかの確率分布を前提としていません。イベント発生する順番のみが推定に関係しており、イベント発生までの時間も結果に関係してこないため、この部分はノンパラメトリックな手法であると言えます。ただ、比例ハザードの部分は対数線形モデルとなっており、パラメトリックな手法であるため、二つを合わせてセミパラメトリックなモデルである、と言われます。

 

医学研究ではもっともよく用いられている手法なので、過去問でもほぼ毎回出題されているように見えますが、時間に関するデータがまったく入っていないというのは果たして本当に実際の状況を表せているのか不安になります。ある疾患の研究に対して何が本当に良い統計手法なのかっていう話は突き詰めると疑問だらけですね。

 

参考文献:

統計学入門−第11章

深堀りされすぎてもはや理解できない領域に達していますが、Cox比例ハザードモデルについて式含めて解説されています。

https://www.heisei-u.ac.jp/ba/fukui/pdf/analysis31.pdf

2018年の過去問に出ていた指数分布に従う場合の最尤推定が説明されています。ワイブル分布の最尤推定も載っています。 

生存時間解析の本の中では式も丁寧でわかりやすいと思います。