脳内ライブラリアン

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高齢者への心房細動スクリーニングの意義は?(STROKESTOP study, the LOOP study)

抄読会で読んだ論文の紹介をしつつ、心房細動スクリーニング関連の話を少し書いてみます。

 

心房細動の検出と脳梗塞予防

心原性脳塞栓症の予防といえば心房細動の検出→抗凝固ですが、心房細動を検出したところでハードエンドポイント(脳梗塞や他の塞栓症の予防)に結びつくかどうかという点が大きな問題です。

 

また心房細動を見つけて抗凝固をしたとして、出血性合併症のデメリットも含めると本当に有益かどうかということも考えないといけません。

 

その意味で昨年出されたthe LOOP studyはなかなかにインパクトが大きいものでした。

Implantable loop recorder detection of atrial fibrillation to prevent stroke (The LOOP Study): a randomised controlled trial

 

PICOのみ簡単に書いておきますと

P:

70-90歳の脳梗塞リスクが一つでもある患者

(糖尿病、高血圧、心不全脳梗塞orTIAの既往)

I:

埋め込み型ループレコーダー(Reveal LinQ)を入れる

6分以上の心房細動が検出されたら抗凝固

C:

介入なしで通常通りに通院

O:

脳梗塞あるいは動脈塞栓症の発症

 

というものです。ちなみにこれはデンマークのstudyなのですが、ループレコーダーの埋め込みを6000人規模でやると言うのだから驚きです。埋め込みなので当然ながらopen labelとなっています。

 

その結果、中央値5年ほど(64.5ヶ月)もフォローし、心房細動は介入群で当然多く見つかったのですが、アウトカムは有意差がつかないという結果でした。[Primary outcome:67(4.5%)介入群vs 251(5.6%)コントロール群  (HR 0.80 95%CI 0.61-1.05;p=0.11) ]絶対数の差はついていますが、これだけたくさんの人に埋め込みループレコーダーという侵襲のある処置を行ってこの結果では正直ちょっと、、、という感じはします。

 

ここまでのstudyは基本的に心房細動の検出率をアウトカムにしたものが多かったので、ハードエンドポイントでも差がつかなかった結果はなかなかに衝撃的なものです。本来臨床的にみつけられた心房細動に対しての抗凝固療法は脳梗塞の予防効果があることはわかっているはずなので、今回の研究で対象患者に「持続時間6分という基準でみつけられた心房細動」は、「臨床的に見つけられる心房細動」とは質が違うということになってしまうわけです。

 

ちなみに脳梗塞の既往がある患者群は全体の約25%弱を占めていましたが、このサブグループでも差がついている様子はありませんでした。

 

さて、この論文のdiscussionで心房細動のスクリーニングが有効であった例として触れられているのが、お隣スウェーデンの研究であるSTROKESTOP試験です。前置きが長くなりましたが、こちらを読んでいきます。

 

STROKESTOP試験

試験デザイン

2012-2014年に行われた多施設共同の1:1割付けのopen labelランダム化比較試験です。

PICOは以下のようになっています。

 

Patient:

75−76歳の人全て

Exclusionはなし

 

Intervention:

心房細動のスクリーニング検査に呼び出す

 

Control:

スクリーニング検査に呼ばない

 

Outcome:

脳梗塞+全身性の塞栓症+出血による入院+死亡

 

なお、スクリーニング検査の内容は、まず一度通常の心電図検査を行い、Afがなければ2誘導の心電図計を1日2回、2週間つけるというものでした。

 

診断基準としてはp波の消失が30秒以上続く場合や10−29秒の消失が2回以上見られた場合としています。

 

結果のところでも触れますが、この試験の面白いところは介入が「スクリーニング検査への呼び出し」なのですが、来ない人も当然多数含まれるわけです。それを含めてもなお結果が出ています。

 

なお、サンプルサイズについては

・Af患者で治療されなかった場合の脳梗塞の年間発症率を7%

・抗凝固薬による予防効果を70%

・一般人口での脳梗塞の年間発症率を1−2%

・検査に呼び出されて参加する確率を55%

と見積もって、80%の検出力で約11397名のサンプルサイズを想定しています。

 

 

Primary endpointの解析はコックス回帰分析を用いていますが、共変量による調整は基本的になしとしています。ただ、Post-hoc解析として、スクリーニングに呼ばれて参加した人と不参加だった人については補正をかけて解析し直しています。

 

なぜならスクリーニング検査に呼ばれて参加するような真面目で健康に興味が強い集団と参加しない集団では明らかに脳梗塞の発症率にも差があるため、補正しなければスクリーニング検査そのものの効果が推定できないからですね。これも結果で後述しますが、参加者と非参加者では結構大きな違いがあるんです。

 

試験の結果

結果ですが、13979名(介入)vs 13996名(コントロール)とかなり大規模な試験となりました。フォローアップ期間は中央値6.9年(IQR 6.5-7.2)と長期間になっています。国ぐるみで大規模にやっているためかlost to follow upもなしです。

 

データが生々しいのはtable1のベースライン患者特性です。スクリーニングに呼ばれて参加した人と非参加者が書かれていますが、特徴が相当違うんですね。

 

非参加者は「独居」「スウェーデン国外で生まれている」「収入が四分位範囲の一番上ではない」「大学を出ていない」「アルコールの消費量が高い」可能性が有意に高いという結果になっています。なんだかすごく社会歴に関連しているわけですね、、、。その他既往についてみても、明らかに非参加者の方が一般人口よりも健康状態が悪く、その後の脳梗塞の発症に関しても悪い結果となっています。

 

で、実際のアウトカムですがprimary endpointは

ハザード比0.96(95%CI; 0.92-1.00, p-value 0.045)

Event per 100 years 5.45 vs 5.68

で介入群に有意なイベント減少が認められていました。結構ギリギリのラインです。

なお、NNTは91だったようです。

 

 

これは複合エンドポイントなので、内訳をみてみると、脳梗塞が最もp値が小さいのですが、いずれのイベントも有意差を出すほどの差にはなっていません。また心房細動が見つかったら基本的に抗凝固をされる集団のはずなので、出血性疾患は増えても良いような気もしますが、大出血による入院や脳出血もなぜだか意外と増えていません。

 

figure 3にAfと診断された割合と抗凝固薬を処方された割合が時間を横軸にとって示されているのですが、 どちらも最初のスクリーニング検査によってぐっと上がって以降はコントロール群と横ばいになっています。

 

 

あとはappendix table 5に参加者と非参加者、コントロールの間で共変量での補正をかけてスクリーニング検査による効果をみた数値があります。

 

先程の話でいくと、参加者は所得も高く、社会的なステータスも高くて、通常の人口よりもイベントを起こしにくい群といえるので、コントロールと比較してスクリーニング検査の効果を検証するには補正をかけないといけないわけですが、それでも

調整ハザード比 0.72(95%CI; 0.68-0.76, p-value<0.001)

ということなので、効果が確認されていると言えます。

 

心房細動をどこまで見つけに行くか

結果が良かったとはいえ、数値的にはギリギリなところだったのですが、今回その原因として脳梗塞の年間発症率を7%と想定していたが、研究開始時点での研究では3%と下がってきていたことによる検出力不足が挙げられていました。心房細動の検出と適切な抗凝固薬が広がった結果と考えると、もはやスクリーニング検査のベネフィットはどんどん下がってきているのではないでしょうか。

 

今回の結果からはスクリーニング検査を受けなかった集団ほど健康状態が悪いことが予想され、検査を受けた時の効果も大きいと推測されたため、検査会場を自宅から近くに設定するなど、非参加者がより検査を受けやすいように整備することが重要なのではないかと述べられていました。

 

STROKESTOP studyやLOOP studyをみていると、どの程度の検査で検出された心房細動がハードエンドポイントの改善に結びつくかというのがまだまだ分からない分野であるように思われます。

 

今までの多くの試験はこうしたハードエンドポイントを設定していないので、長期的な心電図モニタリングの試験における脳梗塞の発症を調べたものはメタアナリシスぐらいになります。

 

例えばStrokeに2019年に出されたものがあり、ESUSにおける脳梗塞の発症予防にも長期の埋め込み心電図モニタリングが効果があったとなっています。

Prolonged Cardiac Rhythm Monitoring and Secondary Stroke Prevention in Patients With Cryptogenic Cerebral Ischemia 

 

解析対象がRCT2件、観察研究2件となっており、RCTはいずれもイベント数が少なく(脳梗塞発症を考えてのサンプルサイズではないので当然ですが)95%CIが大きく1をまたぐ形となっています。果たしてこれだけを持って長期の心電図チェックが脳梗塞の予防に必ず効果的と言っていいかは疑問です。

 

心房細動をみつけることを第一目標としてなんでも埋め込みをやればいいかというと侵襲の面も含めてどうだかなと思うところが大きいですね。

 

心房細動をみつける意義を考えるものとしては結果が興味深いものなので、今回の試験やLOOP studyを紹介しました。ただこれらは高リスクの人へのスクリーニングを検証した試験なので、神経内科医が実臨床でみる対象とは全く異なりますので、同じ方法をとれば良いというわけではありません。とはいえ、長時間モニタリングでみつかった僅かな時間のPafが悪いものなのかどうかは未だ確証が持てないことだというのは認識しておいても良い気がします。

 

今後同様に塞栓症のイベントをprimary endpointに含めた試験結果の蓄積が待たれますね。