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超急性期脳梗塞における血栓回収vs血栓回収+t-PA(アルテプラーゼ)のRCTたち【JAMA/NEJM】

久々に脳神経内科・脳外科専門の話題を書きます。

 

つい先日1月19日付でJAMAに(しかもJAMA Neurologyとかでもなく)脳梗塞に対する脳血栓回収vs脳血栓回収+tPA療法のRCTが2本載ってました。しかも1本は日本発。

 

以前にNEJMに同様の論文が載ってましたが、今後もこの比較は結構出てくるみたいです。

 

統計学的に非劣性試験の細かい話も勉強しておきたいところなのですが、まだ追いつかないのでひとまずは大まかな結果だけ比較しておこうかと思います。

 

勤務先では神経内科医がt-PAをうち、脳外科医が血栓回収をやるので、これは実務上大変関係あるstudyなんですよね。

 

それぞれのstudyのリンクも貼っておきます。

DIRECT-MT trial

 

Effect of Mechanical Thrombectomy Without vs With Intravenous Thrombolysis on Functional Outcome Among Patients With Acute Ischemic Stroke: The SKIP Randomized Clinical Trial | Cerebrovascular Disease | JAMA | JAMA Network

 

Effect of Endovascular Treatment Alone vs Intravenous Alteplase Plus Endovascular Treatment on Functional Independence in Patients With Acute Ischemic Stroke: The DEVT Randomized Clinical Trial | Cerebrovascular Disease | JAMA | JAMA Network

 

 目次:

 

血栓回収単独とt-PAの併用は本当に良いのか?

根本的な疑問はここですね。通常は適応があれば現在は併用して行われています。

 

血栓回収のガイドライン*1を見ても、tPAのエビデンスがしっかりしているので、適応である症例は省略するな!省略するのは医療倫理上問題あるぞ!と強調されています。

 

で、勤務先でも基本的には併用してうっているわけです。でも血栓回収できるような症例は単独でも確かに成績良いような気がするんですよね。

 

今回紹介する論文のbackgroundにもあるように、後方視研究も含めたメタアナリシス*2では両方やった方が若干良い、という結果が出ています。

 

とはいえ、しっかり比較されたRCTはなかったのでやってみようという話なわけです。

 

いずれも非劣性試験

今回紹介する3つの研究はいずれも非劣性試験です。非劣性試験とは既存の治療が確立している場合に行われることが多い試験の方式です。

 

既存治療のエビデンスがしっかりしてきている糖尿病の新しい薬は大体この辺の非劣性試験でやられてますね。この辺は議論の余地が多いところですが、、。(非劣性試験なのにサブ解析やsecondary outcomeで既存薬より良いかのようにみせるのはいかんと思いますが)

 

血栓回収+tPAも治療効果が確立されていますし、血栓回収単独が優れているというのは流石に考えにくいですが、tPAをやらないと言うのはコスト面での利点が大きい(たとえば協和キリンのアクチバシンで1200万単位が90534円)ものなので、比べるならば非劣性試験がうってつけです。

 

非劣性試験の比較の方法が優越性試験とどう違うのかは下の図を参照にするとわかりやすいです。meta-analysisにおける非劣性について説明した論文の図です。

f:id:medibook:20210123081713j:plain

(*3より引用)

 

Meta-analysisなので、図の説明がpooled effect sizesとなっていますが、本質的にはRCTでも同じことです。

今回の試験でいえば、オッズ比の信頼区間などがこの図における点と横線にあたるといえます。信頼区間の下側が非劣性の基準、非劣勢マージン(図で言うΔNI)を超えないかどうかをみます。超えてしまえば非劣性とは言えないですし(図のA、B)、逆に超えなければ「非劣性あり」と言えます(図のC、D、E)。A,Bはinconclusiveとありますが、要するに帰無仮説が棄却できなかった状態ですので、結果としては「劣っている」ではなく、「今回のデータでは結論が出ない」という意味になります。 

 

DEVT trial/ SKIP study/ DIRECT-MT trialの比較

そこで出てきたのが血栓回収単独vs血栓回収+アルテプラーゼのランダム化比較試験です。つい最近JAMAに出たものの他に、すでに去年の5月にもNEJMに同様の論文が出ています。それが中国から出たDIRECT-MT trialです。続いて、同じく中国からDEVT trial, 日本からSKIP studyが出ています。

 

ざっくり試験の内容をそれぞれ表にして比較してみました。順番に各試験とその結果について、みてみます。(もし内容に誤りがありましたら教えてください)

 

f:id:medibook:20210123073027j:plain

 

どれも治療者と被験者は盲検がありません。これは治療の特性上やむを得ないとは思います。点滴治療群の方が結果が良くなる可能性がありますが、今回は血栓回収の単独治療の非劣性を示す試験のため影響はあまりない(むしろあるとしても血栓回収単独群に不利に働く)と思われます。

 

詳細なinclusion/exclusionまでは表に書いていませんが、大まかな治療対象者は同じとなっています。

 

DIRECT-MT trial

まず、NEJMの論文(DIRECT-MT)ですが、こちらが一番症例数は多いですね。

 

これのみoutcomeの評価が順序ロジスティック回帰による分析となっています。この論文をみて方法がよくわからなかったので以前記事を書きました。

medibook.hatenablog.com

 

要するに総合的なmRSの変化を元にオッズ比が出されているわけですが、そのモデルの仮定には若干の無理があるように思うので、他の試験のような2値変数(mRS 0-2 or 3以上)の方がより理にかなっているのかなとも思います。ICAやM1の閉塞の治療効果って、うまくいく人とそうでない人でかなり差があると思うので、細かな変化よりもそっちの方がよりわかりやすいようには思います。

 

死亡者も他の試験より多いですね。mRS6として解析には含まれるので、結果の解釈には問題なさそうです。

 

Primary outcomeの結果はadjusted ORが1.07(95%CI, 0.81 to 1.40, p=0.04)と言うことで、ギリギリ非劣性マージンを越えていました。なお、このadjustは年齢、NIHSS、発症前mRS、側副路の状態、発症からランダム化までの時間を因子として加えています。

 

一応補正なしのunadjusted ORでも1.09(95%CI, 0.84 to 1.43, p=0.02)ということで越えてます。

 

なので、このstudyの結果としては血栓回収単独でも良いのではないか、という結果となっています。

SKIP study

続いて、SKIP study。これが唯一日本の試験なので、tPA投与量も日本向けとなっています。

 

こちらはprimary outcomeがmRS 0-2とそうでない場合の2値変数となっており、解析は通常のロジスティック回帰分析となっています。他の因子による補正もなしのようです。

 

結果としてはOR1.09(1-sided 97.5%CI, 0.63 to ∞, p=0.18) となっています。非劣性マージンを越えてしまいました。

 

ちなみに1-sided 97.5%CIというのは、おそらく「血栓回収単独の方が成績が良い」というのはないだろうという前提で、片側検定を行なっているものだと思われます。上が無限というのは、そういうことです。(通常はどちらが成績が良いあるいは悪いかは分からないので両側に2.5%ずつの可能性をとって検定を行う)でも、2.5%にしているので実質的には変わらないとは思います。

 

実質的なOR自体は1を越えてますので、もう少し数を集めたら非劣性マージンを越えない気もしますが、、、。論文中のlimitationsにも書いてありますが、今後MR CLEARN-NO IV, SWIFT DIRECT, DIRECT-SAFEなど同様のtrialが多数あるようなので、総合したメタアナリシスの結果に期待が寄せられます。

 

MR CLEAN-NO IVとかちょっとネーミングセンスが笑えます。

 

DEVT trial

こちらは中国からのstudyで規模はSKIP studyと同等ですね。Primary outcomeも全く同じような感じとなっています。

 

また、ロジスティック回帰分析でのORを出していますが、こちらの場合は年齢、NIHSS、ASPECTS、発症からランダム化までの時間、閉塞部位での補正もかけています。

 

結果としては2群でのprimary outcomeを満たした比率の差が7.7%(1-sided 97.5%CI, -5.1% to ∞)でした。下限が非劣性基準−10%を越えているので有意となっています。

 

ちなみに、table2の上方に95%CIと書いてありますが、これ間違いな気がするんですけども、、、。

 

adjusted ORは1.48(95%CI, 0.81 to 2.74)でした。

 

結論としてはこちらも非劣性あり、ということになっています。

 

まとめ

新たに行われたstudyは症例数もやや少ないので、今後の結果も含めてガイドラインが変わるかどうか、というところでしょうか。少なくとも今の時点ではエビデンスが十分にあるのは両方行うことだと思われるので、変わらずやれる症例は両方の治療をやる、ということになるのかなと思います。

 

mRSの0−2とそれ以外というだけで非劣性でも、もう少し細かい結果がどうかというところも気になるところなので、数を集めて分析を待ちたいところですね。

 

引用文献

 

*1 血栓回収療法のガイドライン

https://www.jsts.gr.jp/img/noukessen_3.pdf

*2 Stroke 2017のmeta-analysisです

https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/STROKEAHA.117.017320

*3

Acuna SA, Dossa F, Baxter N. Meta-analysis of noninferiority and equivalence trials: ignoring trial design leads to differing and possibly misleading conclusions. J Clin Epidemiol. 2020 Nov;127:134-141. doi: 10.1016/j.jclinepi.2020.05.034. Epub 2020 Jun 12. PMID: 32540386.

Meta-analysis of noninferiority and equivalence trials: ignoring trial design leads to differing and possibly misleading conclusions