脳内ライブラリアン

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昨日の新型コロナウイルスのワクチンのニュースを掘り下げてみる【mRNA 1273 vaccine/moderna】

昨日NHKのニュースサイトをみていたら、こんなニュースが出ていました。

www3.nhk.or.jp

 

今や感染拡大に歯止めもかからず、経済的な限界も近いためか、政府としても緊急事態宣言のように抑えようとする様子が一向にありません。重症化患者が比較的まだ少ないので自分の働く医療機関としても、今のところは大丈夫ですが、この規模の人数だと院内感染や高齢者向け施設感染が出てくるともう大惨事ではないかと思ってます。

 

全く抑え込めない以上、できることは、可能な限り感染のペースを緩やかに保つことかと思いますが、もうひとつの根本解決策はやはりワクチンだと思います。

 

ニュースで取り上げられているのがどんなワクチンで、どのような臨床試験が組まれているのか調べてみました。半分くらいまでは一般の方向けの簡単な説明も入れてみます。

 

目次:

 

 

ワクチンの臨床試験の最終段階とは?

新しい治療薬やワクチンの臨床試験(治験)というのは基本的に第1相~第3相試験の順番に行われます。

 

まず第1相試験では少人数の健康な成人を対象に薬剤を使用し、安全性を調べます。薬の濃度などの変化もここで調べます。

 

次に第2相試験では少人数の患者さん(今回はワクチンなのでこれも健康成人だと思いますが)に対して、薬剤を使用し、効果を検証し、量や投与間隔、再度副作用などを調べます。

 

最後に第3相試験では、多数の患者さんを相手に薬剤を使用し、実際の効果を調べていきます。

 

ちなみに第1相試験は臨床医学界のトップジャーナルであるNew England Journal of Medicineに論文が載っていました。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2022483

 

これはまた後で書きます。

 

どんなワクチンなのか

上記の第1相試験の論文によれば、SARS-CoV2の感染において、ワクチンが対象としているとしてはウイルスがもつS-glycoproteinというタンパク質です。このタンパク質が構造上の変化をすることで感染者の細胞の中にウイルスが入り込み、増殖していくという感染形態をもちます。*1そこで、このタンパク質の構造上の変化を止めるのがワクチンの働きです。

 

ワクチンの名称としてはmRNA1273と書いてありますが、このmRNA(メッセンジャーRNA)というのは、細胞の中で用いられる伝達物質です。人間の体の中での使われ方としてはざっくりいえば、DNA→mRNA→アミノ酸→タンパク質という順番で、体で必要とされるタンパク質が作られます。要するにタンパク質を作り出すための「伝令」であるため"メッセンジャー"RNAと呼ばれます。今回のワクチンはSARS-CoV2のS-glycoproteinを安定化させ、構造の変化を止めるタンパク質を作るための「伝令」を伝える役割を持ちます。

 

こういう分子レベルの薬剤になるとさぞ高いんでしょうなあ…と思ってしまいます。

 

第1相試験の結果

安全性をみる第1相試験はどうだったのか。NEJM誌のサイトでみることができます。

 

内容は上述したようにこちらの論文です。*2

 

試験は45名を対象に行われ、筋肉注射で行っています。初回と28日後の2回投与をしています。投与量は25, 100, 250µgと15名ずつ分けて行ったようです。幸いにして深刻な副作用は認められておらず、2回目の注射で各群ごとに全体の33%, 67%, 53%で発熱を認めています。全員に免疫学的な反応(ワクチンの目的)を引き出すことに成功しています。そのため第2相→第3相と進めたようです。

 

第3相試験はどのような予定か

続いての第3相試験がこれから行われる内容です。アメリカの臨床試験の登録サイトに詳しく情報が載っています。

A Study to Evaluate Efficacy, Safety, and Immunogenicity of mRNA-1273 Vaccine in Adults Aged 18 Years and Older to Prevent COVID-19 - Full Text View - ClinicalTrials.gov

 

ニュース記事にある通り3万人規模のランダム化比較試験です。盲検化もされています。量は結局のところ100µgで行われるようです。被験者は18歳以上の成人ということで小児と妊婦は除外されているようです。

 

Primary outcomeの一番に記載があるのは、2回目の予防接種後、14日してからの初回COVID19感染率となるようです。それぐらいは免疫の形成に時間をみるということですね。

 

試験終了予定は2022年10月27日となっていますが、今の400万人を超えるトップの感染者数をもつアメリカでの試験であればもっと早期に中間解析結果でも差が出そうなものです。

 

本当は日本からもこういったニュースがでると嬉しいところですが、いずれにしても一刻も早いワクチンの開発を祈ってます。

 

参考文献:

1.Belouzard, Sandrine, et al. "Mechanisms of coronavirus cell entry mediated by the viral spike protein." Viruses 4.6 (2012): 1011-1033.

2.Jackson, Lisa A., et al. "An mRNA vaccine against SARS-CoV-2—preliminary report." New England Journal of Medicine (2020).