脳内ライブラリアン

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”仕事に追われる”のではなく”仕事を追う”ようになる本「なぜ、あなたの仕事は終わらないのか」

仕事を締め切りに間に合わせる、って単純な目標ですが意外とうまくいかないことも多いです。時間の節約術を説いた本は数多くありますが、シンプルな方法でお勧めしたいのはこの一冊です。

 

半年以上前にオーディオブックで読んだ本なのですが、いまだに時々聞き返すほど気に入ってます。

 

仕事が終わらないAくんの例

著者はもともとマイクロソフトプログラマーとして海外勤務していました。 Windows 95の製作に携わり、普段みんなも使っている「右クリック」「ドラッグ&ドロップ」の仕様を作ったのもこの方です。その後は、マイクロソフト離れ、自身のチームを作って仕事をしていたそうですが、そこでは力量はあるにもかかわらず、仕事を締め切りまでに終えられない人がいたとか。

 

そのA君は力は十分にあり、土日もきちんと休んで平日は真面目に仕事をこなしていたそうです。頼まれた仕事にも徹夜までして取り組むのですが、なぜだかうまく締め切りまでに終わりません。なぜなのか。

 

筆者はA君の時間の使い方に問題があると考えます。

 

スラックとトンネリング

筆者は仕事をするうえで、「スラック」をもつことと、「トンネリング」を避けることが重要だと考えます。

 

「スラック」というのはたるみ、ゆるみのことで、余裕をもつということです。A君の仕事がうまくいかないのは予め余裕をもっていないから、あとから間に合わなくなるということです。

 

数学のテストができる人を考えてみましょう(筆者がこの例を出すのが理系っぽい(笑))。数学が得意な人は問題全体に目をざっと通し、得点できるものと時間がかかるものをある程度見分けます。そして確実に得点できるものを早めに解き、難しい応用問題に時間を当てます。逆に自分のような数学が苦手だった人はどうか思い出してみると、全体をみる余裕がなく、得点できるのかどうか見分けうまくつけられない。結果どれも中途半端な出来になって点数が悪い。そんな結果になってしまいます。

 

仕事でも同様で最初に全体を俯瞰します。時間が読めないことも十分にあるので、締め切りを目標として均等に配分せず、早めにできるところの大部分を完成させられるように取り組みます。そうするとスラック(余裕)を持つことができます。スラックを持つことで避けられるのが「トンネリング」です。

 

「先が見えない古トンネルの内部(JR福知山線廃線敷)」の写真

「トンネリング」というのはトンネルの中に入り込むように周りが見えなくなる状況を指す心理学用語です。締め切り間際になると周りがみえず、締め切りが気になって仕事の効率も落ちます。普段しないミスがでたり、仕事自体の質も下がるわけです。これはないに越したことがありません。

 

また、早めに仕事全体に手をつけることで、場合によっては、締め切りまでに、そもそも時間が足りないことが分かることがあります。その時は予め上司に時間が足りないと思われる旨を申し出るのです。そうすればあとから締め切りを守れないよりは、時間の融通が多少効くようになったり、他のスケジュールを調整することもできるはずです。

 

どんな仕事も完璧にはできない

この「早めに仕事の大部分に」理論が推奨されるさらなる理由として、どんな仕事も完璧にはできない、ということがあります。 ひとつの仕事を形にしないとどこに欠点があるのか意外と分かりません。設計図をどれだけ緻密に書いても、作り上げられたものには何かしら問題があるはずです。大事なことは「まずはプロトタイプをつくり、イメージを作りあげること」。筆者がマイクロソフトで勤務中、ビル・ゲイツを含めた名だたる上司を説得する際に使ったのは、簡単な構造で一部のみを作り上げておいたプロトタイプを見せることでした。こうすることで実際の完成後のイメージや問題点を浮き彫りにすることができます。

 

人間の彫刻を作ろうというときに鼻とか目とか細かいところから作るひとはいない、と筆者は指摘します。詳細ではなく体全体を大まかに彫るところから始まるはずです。全体像をまずつくることが仕事においても必要です。

 

ロケットスタート時間術

筆者のこれらの考えを集約させたのがロケットスタート時間術」です。マリオカートロケットスタートをなぞらえて名付けたそうです(笑)。何も細かな時間節約など特殊なものではなく、①見積もりを立てる②初めに8割方仕事を終わらせる、というものです。とにかく早めに仕事の大部分に手を付けることで、意外と時間がかかる部分を見つけ出し見積もりをきちんと立てられるようにすることがこの時間術の目的です。

 

要は締め切りよりも早めにやれよ、っていう単純な話なんですが、意外とこれをきちんとできる人は少なく1割に満たないと筆者は指摘します。夏休みの宿題を思い浮かべるとわかるのですが、確かに早く課題を終えていく人っているはいますけど、少数だと思います。本書では並行して仕事をする場合など細かな例も説明しています。ちなみに筆者は初めの8割を終えるために界王拳を使うつもりでやっているそうです。たとえがいちいち面白い。

 

これを読んでからというもの、論文執筆や症例発表、抄読会、日常業務(医師は意外と書類業務も多いので)の際にも意識してやっています。確かに余裕をつくる効果と意外と時間がかかる部分を見出すことができる点で精神的にも非常によく、仕事に追われるのではなく仕事を追う体勢に入れると前向きにさらにどんどん仕事に取り組むことができます。余裕があるので土日や仕事後はきちんと休めますし。単純ながら好循環に持ち込むことができる仕事術だと思います。