脳内ライブラリアン

脳内ライブラリアン

医療、統計、哲学、育児・教育、音楽など、学んだことを深めて還元するために。

MENU

プロスペクト理論②-参照点依存性-【日常生活に活かす行動経済学の使い方】

おはようございます。

統計の勉強に行き詰まりを感じつつ、ちょっと逃げるように行動経済学の話を書きます。日常生活やビジネスに活かせるような話をまとめていきます。

 

引き続きプロスペクト理論についてです。

前回は理論の核となるもののうち、「①確実性効果」を紹介しました。今回は「②参照点依存性」について書いていきます。

 

medibook.hatenablog.com

 

 

 

参照点依存性って何?

参照点依存性とは、要するに人は「お金が増える、もしくは減る可能性」を考えた時に、「もともとの状態がどんなもんだったか」をベースにして考えるということです。

 

例えば以下の例のどちらの人がより悲しむでしょうか。

 

①昨日の時点で資産が1000万円ある人が今日20万円入った封筒を落としてしまった

②昨日の時点で資産が10億円ある人が今日20万円入った封筒を落としてしまった

 

まあ普通に考えると①ですよね。これはもともとの資産を「参照点」としてみた時に損失である「20万円」を比べると①のほうが大きくみえるから、ということになります。

 

しかもこの話は何もお金に限った話ではなく、人は基本的に期待や損失を何かと比較してみる、という傾向があるため、それ以外の話にも応用できます。

 

例えば医療関係の話で行けば、「健康」も失って初めて価値が分かるとよく言われます。脳梗塞になった患者さんはもともとの「健康」な状態(本当は生活習慣病があって”客観的には”健康ではないことも多いですが)を参照としてある瞬間から「脳梗塞」になってしまうため、比較すると大きな損失です。

 

この辺の話は以前の行動経済学の本にもよく触れてあります。

medibook.hatenablog.com

 

こういわれてみると至極当然な話にみえるのですが、なぜこれが今まで分からなかったのか。

 

ベルヌーイの誤り

「同じ金額なのに、人によって感じ方がなぜ違うのか」

 

この疑問は昔の人も十分に感じていたようで、例として資産が少ない人のほうが保険に多くお金を払う、ということが挙げられています。これはオランダのアムステルダムで100隻ほどある船のうち年間5隻は事故などで無くなってしまう、ということに対して、資産が多い人よりも資産が少ない人のほうが喜んで保険にお金を払う、という事実です。資産が少ないのにお金を多く払いたがる?というのはおかしく感じられたようです。

 

ベルヌーイの定理”で有名な数学・物理学者ダニエル・ベルヌーイ(Daniel Bernoulli 1700-1782)はこれらの問題にひとつの解決策を出しました。

 

まず、お金というのは同じ金額でも人によって実際に感じられる数値感覚は違うので、これを「効用(utility)」という別の数値だとしました。

 

さらにこの効用は富の状態(資産とか)によって異なるので資産10億からみた1億は小さいし、資産3億からみた1億は大きく感じられるよ、というのを理論化しました。

 

これによって上述の船の例においても、資産が多い人のほうが失ったときのダメージは小さいので、資産が少ない人の方がよりダメージが大きくなるため保険に入りたがる、という現象が説明できました。

 

めでたく、以降250年ほどは大まかにはこの理論をもとにして経済学が進められてきたようです。

 

とここでダニエル・カーネマンらは疑問を感じました。このベルヌーイの理論は「富の状態」(ある状態での効用)のみに焦点を当てており、「富の変化」に焦点を当てていなかったのです。これをベルヌーイの誤りと呼んで指摘しました。要するに例としてはこうです。

 

①ジャックは昨日100万円もっていて今日は500万円になりました。

②ジルは昨日900万円もっていて今日は500万円になりました

 

さて、どっちが幸せでしょうか。これはまあ①ですよね。ただ、ベルヌーイの理論はこの変化については焦点を当てず、最終的な富の状態(500万円)が一緒なら効用も同じ、としていました。これが誤りであったとされています。

 

日常生活に活かすうえで大切なことは?

理論を実践に落とし込むうえで、難しいのは人が何を参照とするのか、ということです。例えば以前の記事に書いたように、高い家電を買ったときにオプションが安く見えてしまうというように、オプションに対しての参照点は家電の価格、になります。

 

同様に自分が何かリスクのある決断をするときに、必ず参照点を考える癖をつけると日常生活に活かすことができると思います。果たしてその決断が何の影響を受けているのかを知ると、実はさほどそれが価値のないものだということにも気づくことができるかもしれません。結構色々なパターンがあるので注意が必要です。例を挙げてみます。

 

・金額の大きな買い物をするときのオプション

→大きい買い物の価格が参照点

・セット販売

→それぞれの単品価格の和が参照点、、、ですがそもそもそれぞれの単品が必要ですか?

・セールでの値引き

→元の価格が参照点、、、ですが参照点はメーカーもしくは販売者で恣意的に決められていることに注意

 

もちろん全てのものと比較する絶対的な評価なんて常人にはできませんが、参照点を立ち止まって少し考えるだけでも意味はあると思います。さらにはお金以外のことも知らず知らずのうちに参照点を使うことはあるので(今の彼女と前の彼女を比べちゃうとか、男性のみという説もありますが) 、何かの価値や不確定なことの決断をする場合はこの視点を思い出すと自分にとって良い決断ができることもあるかもしれません。

 

続きの記事はこちら 

プロスペクト理論③-損失回避-【日常生活に活かす行動経済学の使い方】 - 脳内ライブラリアン

 

参考文献:「ファスト&スロー」「行動経済学〜経済は『感情』で動いている〜」

今回の話も主にここから参考にしています。

行動経済学について知るだけでなく、自分の視点が大きく変わるので大変おすすめです。 

新書ですがぎっしりと基本が詰まっており、理論も掘り下げています。それでいて分かりやすく入門書としてお勧めです。