脳内ライブラリアン

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医療、統計、哲学、育児・教育、音楽など、学んだことを深めて還元するために。

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より良いアイディアを職場で生み出すには?「ORIGINALS 誰もが『人と違うこと』ができる時代」

職場において

「もっとこれをこうしたら仕事が楽になるなあ」と改善したいことや

問題が生じて「どうしたら同じことが起きないようになるだろう」と

思った際に、提案が常に必要とされます。

 

また、医師としてどのようなキャリアを歩むか考えるときに

「今の(臨床の)仕事以外に、自分ができる仕事ないかな」と

考えを浮かべようとするときがあるのですが

 

こうしたアイディアを浮かべるのに良い本、ということで

メンタリストDaigoの本の中で紹介されていたこの本を紹介します。

 

 

ペンシルベニア大学で組織心理学を教えるアダム・グラント教授が

書いた本で、「オリジナリティのある人」はどのように

アイディアを生み、選別し、周りに広げていくのか

を具体例をもって、アドバイスした本です。

 

個人的には第2章のアイディアの発想の部分が面白かったので

そこを中心に紹介します。

 

セグウェイはなぜ失敗したか

 かの有名なアップルのスティーブ・ジョブズが惚れ込み

Amazon創設者のジェフ・ペゾスが投資した商品で

かつ大きく失敗したものとは何でしょうか。

 

そう、見出しに答えがありますが「セグウェイ」です。

 

今やリゾートなどのレクリエーションでそれなりの料金を払って

体験するちょっと珍しい乗り物扱いですが

確かに登場当時はもっと普及するのではないか、という報道もあったりはしました。

結局法律上の問題が大きく、既存の乗り物から変わるまでに至らず

廃れていった印象です。

 

この本で紹介されていますが、セグウェイを生み出した人は

医療分野で応用されるような様々な発明品を出しており

決して発想力のない人というわけではないのです。

 

ではなぜ失敗したか。

 

そこを中心に話は進みます。

 

自己評価の難しさ

自分の出したアイディアを評価するというのは思った以上に難しいことです。

 

基本的に自分の能力を人は過信する傾向があるようで

本書内にもいくつかのアンケート結果が提示されています。

 

例えば大学教授は94%が自分が平均以上の働きをしている、と評価していたようです。

普通に考えたら平均以上の働きをしている人が94%もいるはずがありませんね。

(平均よりわずかに上の人がほとんどで

残りが滅茶苦茶仕事ができてないならあり得ますが)

 

では、自分がだめなら

人からの評価がきちんとされるのかどうか。

 

以前にも引用した気がしますが

「insight(インサイト)――いまの自分を正しく知り、

仕事と人生を劇的に変える自己認識の力」という本では

いかに人からの評価も得ることが難しいかが語られています。

 

MUM効果

人から評価を受ける場合に良い知らせはまだいいのですが

悪い知らせはいかに伝えづらいか。

これは生活の中でも感じることだと思います。

 

それを実証したのが

1968年にジョージア大学のシドニー・ローゼンと

エイブラハム・テッサーが行った心理学実験です。

 

男性用消臭剤の好みの調査と称して、被験者を集めます。

部屋に入った被験者Aに、これから来る別の被験者Bの話をして

「家族に関して悪い知らせがあるので

Bさんの自宅にすぐ電話をしなければなりません」

ということを伝えます。

 

あとから入ってきた被験者BにAさんはそのことを知らせるかどうか

というのが実験です。

 

これが「悪い知らせ」であった場合概要を全て知らせた人はわずか1/5で

これを「良い知らせ」に変えた場合は半分以上の人が

きちんと概要を全て知らせたそうです。

 

これを望ましくないメッセージについて沈黙を保つ

Mum about Undesirable MessagesとしてMUM効果と呼びました。

 

悪いことはなかなか伝えられない、ということですね。

 

「insight」の中では ”無批判な熱愛者” ではなく

”愛のある批判者" にフィードバックを求めるのが最も望ましいとしています。

 

直感の働き

また、人からの意見や自己分析ではなく直感に基づいて評価するのはどうなのか。

 

本書ではこれは難しいとしています。

 

確かに直感は経験を積んだことに関してであれば

素早く適切な判断ができるとしていますが

ことオリジナリティのある新しいことを考えようとしたとき

知らないものについては役立たないと主張します。

 

”私たちの環境はよりいっそう予測不能になっている。今や直感は、新しいものごとに対処するヒントとして頼れなくなっており、だからこそ「分析」がより重要になってきている”

 

経験に基づいたもので判断できることとそうでないことを

きちんと区別する必要があるようです。

 

解決策は幅広い経験とアイディアを多く生み出すこと

「直感は役に立たない」って

昨日の記事の本と言っていることが真逆じゃん。

 

と思うわけですが、昨日の本も美意識/感性/直感で解決できるとまでは

言っておらず、両面が重要だとは言っています。

 

ただ、結局その美意識が本当に良い決定に結び付くという

論理がイマイチはっきりしておらず

どちらかと言えば個人的には今回紹介する本のほうが

性に合っています。

 

確かに芸術をも含めた幅広い経験を積むことは

これからまだわからない分野の

「分析」を進める上でヒントになったり

役立つことは一理あるとは思います。

 

天才は多産

モーツァルトショパンベートーヴェンといった作曲家は

かなりの数の作品を生み出しています。

 

しかしながら自分の中で高評価な曲と後世に渡って

演奏される人気曲はいまいち一致していないようです。

 

つまり、沢山生み出すことで素晴らしい曲は生まれているが

生み出す本人にはどれが本当に良いものなのかがわからない、ということ。

 

これは芸術だけでなく学術分野でも指摘されています。

論文の書いた数と引用数には相関関係があり

書いた数が多ければ多いほど引用数の大きい論文も生まれているということです。

引用数が多い=多くの論文で根拠となっている=影響が大きい良い論文

と言えるので、こうした分野でも納得できる話ではないでしょうか。

 

上記した他人からの評価や自分での評価、分析にしても

アイディアを外に出してみなければ全く生まれないわけで

ここに関しては揺るぎ難い真実があるように思います。

 

 

と思いながら自分の論文・症例報告の執筆も進んでないのですが

頑張ろう、、、。