脳内ライブラリアン

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<書評>建物を見る目が変わる 『現代建築のトリセツ』 松葉一清

現代建築というとどういうものを思い浮かべるでしょうか。 曲線で形成された現代美術館のような建物でしょうか、あべのハルカススカイツリーのような新しい建築物でしょうか。それとも戦前・戦後の古い建物も浮かんでくるんでしょうか。 歴史的な建築物はそれぞれ様式がある程度決まっていて、例えば教会であればゴシック様式であったりバロック様式であったりあるとは思いますが、それが現代建築となると突然切り離されたようによく分からないものになる印象があります。 歴史は連続的なものであり、現代の建築もそうした流れに沿っていることがこの本からは感じ取ることができました。

現代建築の中のモダンとポストモダン
現代建築はモダンからポストモダンへと推移しています。日本では至る所でみられる長方形の無機質なビルと、なんだかよくわからないけどちょっと不思議な形をした特殊なビル(例示されるのは東京都庁舎)はどこか違うのがわかるでしょう。 本書によれば現代建築とは産業革命以後の工業製品を用いた建築のことである、と。中でもモダニズムと呼ばれる建築は無装飾な四角形の幾何学的な建物を表すことが多く、工業化による大量生産によくなじむ建築だったようです。中でも1900年代前半は戦前戦後の日本において建てられた公共の建築物はその例にあたるようです。また、初期の団地のような画一的な建物もそれに近いものだといえます。 そんな中であまりにも無装飾で非人間的な建物に対し、台頭してきたのがポストモダン。例に出した東京都庁舎はなんとノートルダム寺院がモデルという説があるというのだから驚きです。過去のモチーフを参照にしながら現代の工業製品で建物を作り上げる。建築に限らずファッション、音楽始めとする芸術はみな過去の流行との間を揺れ動きながら進んでくるというのは一緒なようです。

日本はないものねだり?
日本にある様々な現代建築を紹介されてくるうえで、本書にも一部指摘がありましたが、日本は現代建築においてヨーロッパより盛んであることに気づかされます。ヨーロッパの国々は過去の歴史的な建造物が多く保存されており、景観の問題も含めて新規の建築物が育ちにくい環境であるといえます。逆に戦後の日本は新しい建築が育つ良い環境であり、様々なチャレンジがなされた建物が思いがけないところに転がっています。どうも最近は景気の問題もあり、そうした新しい試みが滞ってきているようですが、ヨーロッパの街並みに憧れを抱くだけではなくて、日本は日本で現代建築の良さとその貴重さに目を向けても良いのではないでしょうか。

おすすめ度 ★★★