脳内ライブラリアン

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脳神経内科の遺伝性疾患の異常遺伝子と遺伝形式の覚え書き(専門医試験対策)

明後日は脳神経内科専門医試験です。

 

日常診療ではさほど意識しないのに問われがちなのは遺伝性疾患とその異常遺伝子、遺伝形式のあたりかと思いますが、非常に覚わりにくいですね。直前に見直しておきたいので頻出のものをざっとまとめてみました。

 

ライソゾーム病などの代謝性疾患と酵素を含めるとキリがないのと代表的な遺伝子だけ記載しているので超ざっくりとしてますが、適宜お好みに合わせて追加・編集して使っていただけますと幸いです。来年度受験予定の方もぜひどうぞ。

 

誤り等ありましたらお手数ですがご指摘いただけますと幸いです。

 

目次:

 

疾患、遺伝子(遺伝形式)、遺伝子座(気が向いたら)、※補足事項の順に記載しています。

AD; autosomal dominant 常染色体優性

AR; autosomal recessive 常染色体劣性

XR; X-linked recessive 伴性劣性

とします。

 

変性疾患

認知症

Alzheimer病 APP, PSEN1, PSEN2 (AD)

FTLD-tau MAPT

FTLD-TDP C9orf72, GRN, VCP

FTLD-UPS(ubiquitine proteasome system) CHMP2B

 

脊髄小脳変性症

SCA1 ataxin1 (AD) ※CAGリピート

SCA2 ataxin2 (AD) ※CAGリピート

SCA3(MJD) MJD1 (AD) ※CAGリピート

SCA6 CACNA1A (AD) ※CAGリピート

SCA31 BEAN (AD)

SCA36 NOP56 (AD)

 

・家族性パーキンソン病

PARK1/4 SNCA (AD) 4q21, 3-q22

PARK2 Parkin (AR) 6q25, 2-27 ※MIBG心筋シンチ正常

PARK6 PINK1 (AR) 1p35-36

PARK7 DJ-1 (AR) 1p36

PARK8 LRRK2 (AD) 12q12 ※MIBG心筋シンチ正常

PARK9 ATP13A2 (AR) 1p36

 

・その他

SBMA アンドロゲン受容体(AR) (XR) ※CAGリピート

SMA SMN1 (AR) ※exon7-8の欠失が多い

Huntington病 IT15(huntingtin) (AD) 4p16.3 ※CAGリピート

Alexander病 GFAP (AD)

Nasu-Hakola病 DAP12, TREM2 (AR)

FXTAS FMR1 (XR)

遺伝性CJD PRNP (AD) V180I, M232R, E200K ※浸透率は低いとされている

CADASIL Notch3 (AD)

CARASIL HTRA1 (AR)

ALS SOD1, FUS/TLS, TDP43, C9orf72, ataxin2, VCP (AD) OPTN (AR)

 

代謝性疾患

Wilson病 ATP7B (AR)

Menkes病 ATP7A (XR)

 

PKAN PANK2 (AR)

BPAN WDR45 (XR)

神経フェリチン症 FTL (AD)

無セルロプラスミン症 CP (AR)

 

カリウム性周期性四肢麻痺 CACNA1S, SCN4A, KCNE3 (AD)

カリウム性周期性四肢麻痺 SCN4A (AD)

 

副腎白質ジストロフィー ABCD1 (XR)

 

Fahr病 SLC20A2, PDGFRB, PDGFB, XPR1 (AD)

 

脳腱黄色腫症 CYP271A (AR)

弾性繊維性仮性黄色腫症 ABCC6 (AR) ※産生されるのはMRP6

 

筋疾患

Duchenne型筋ジストロフィー dystrophin (XR)

Becker型筋ジストロフィー dystrophin (XR)

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー1A 4q35-ter D4Z4 繰り返し配列の短縮 (AD)

咽頭筋ジストロフィー PABPN1 (AD) ※GCGリピート

エメリ-ドレフュス型筋ジストロフィー1型 emerin (XR)

エメリ-ドレフュス型筋ジストロフィー2型 LMNA(AD)

肢帯型筋ジストロフィー2A(LGMD2A) CAPN3 (AR)

肢帯型筋ジストロフィー2B(LGMD2B) dysferlin (AR) 2p13 ※三好型遠位型ミオパチーと同じタンパクの異常

 

筋強直性ジストロフィー1型 MPTK (AD) ※CTGリピート

筋強直性ジストロフィー2型 ZNF9 (AD) ※CCTGリピート

Thomsen病 CLCN-1 (AD)

Becker型先天性ミオトニー CLCN-1 (AR)

先天性パラミオトニー SCN4A (AD)

 

福山型筋ジストロフィー fukutin (AR)

Ulrich型先天性筋ジストロフィー COL6A1, COL6A2, COL6A3(大半は孤発、一部AR)

 

セントラルコア病 RYR1 (AD)

ミオチュブラーミオパチー MTM1 (XR)

縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(DMRV) GNE (AR)

 

末梢神経疾患

シャルコーマリートゥース(CMT)1A PMP22重複 (AD) ※脱髄

CMT1B MPZ点変異 (AD) ※脱髄

CMT2A MFN2 ※軸索

Dejerine-Sottas症候群(CMT3) PMP22, MPZ, ERG2  ※脱髄

CMTX Cx32(GJB1) (XR) ※脱髄または軸索

 

遺伝性ATTRアミロイドーシス transthyretin (AD, 高齢発症孤発例あり) ※V30M変異が多い

 

 

参考文献:

 

 

 

高齢者への心房細動スクリーニングの意義は?(STROKESTOP study, the LOOP study)

抄読会で読んだ論文の紹介をしつつ、心房細動スクリーニング関連の話を少し書いてみます。

 

心房細動の検出と脳梗塞予防

心原性脳塞栓症の予防といえば心房細動の検出→抗凝固ですが、心房細動を検出したところでハードエンドポイント(脳梗塞や他の塞栓症の予防)に結びつくかどうかという点が大きな問題です。

 

また心房細動を見つけて抗凝固をしたとして、出血性合併症のデメリットも含めると本当に有益かどうかということも考えないといけません。

 

その意味で昨年出されたthe LOOP studyはなかなかにインパクトが大きいものでした。

Implantable loop recorder detection of atrial fibrillation to prevent stroke (The LOOP Study): a randomised controlled trial

 

PICOのみ簡単に書いておきますと

P:

70-90歳の脳梗塞リスクが一つでもある患者

(糖尿病、高血圧、心不全脳梗塞orTIAの既往)

I:

埋め込み型ループレコーダー(Reveal LinQ)を入れる

6分以上の心房細動が検出されたら抗凝固

C:

介入なしで通常通りに通院

O:

脳梗塞あるいは動脈塞栓症の発症

 

というものです。ちなみにこれはデンマークのstudyなのですが、ループレコーダーの埋め込みを6000人規模でやると言うのだから驚きです。埋め込みなので当然ながらopen labelとなっています。

 

その結果、中央値5年ほど(64.5ヶ月)もフォローし、心房細動は介入群で当然多く見つかったのですが、アウトカムは有意差がつかないという結果でした。[Primary outcome:67(4.5%)介入群vs 251(5.6%)コントロール群  (HR 0.80 95%CI 0.61-1.05;p=0.11) ]絶対数の差はついていますが、これだけたくさんの人に埋め込みループレコーダーという侵襲のある処置を行ってこの結果では正直ちょっと、、、という感じはします。

 

ここまでのstudyは基本的に心房細動の検出率をアウトカムにしたものが多かったので、ハードエンドポイントでも差がつかなかった結果はなかなかに衝撃的なものです。本来臨床的にみつけられた心房細動に対しての抗凝固療法は脳梗塞の予防効果があることはわかっているはずなので、今回の研究で対象患者に「持続時間6分という基準でみつけられた心房細動」は、「臨床的に見つけられる心房細動」とは質が違うということになってしまうわけです。

 

ちなみに脳梗塞の既往がある患者群は全体の約25%弱を占めていましたが、このサブグループでも差がついている様子はありませんでした。

 

さて、この論文のdiscussionで心房細動のスクリーニングが有効であった例として触れられているのが、お隣スウェーデンの研究であるSTROKESTOP試験です。前置きが長くなりましたが、こちらを読んでいきます。

 

STROKESTOP試験

試験デザイン

2012-2014年に行われた多施設共同の1:1割付けのopen labelランダム化比較試験です。

PICOは以下のようになっています。

 

Patient:

75−76歳の人全て

Exclusionはなし

 

Intervention:

心房細動のスクリーニング検査に呼び出す

 

Control:

スクリーニング検査に呼ばない

 

Outcome:

脳梗塞+全身性の塞栓症+出血による入院+死亡

 

なお、スクリーニング検査の内容は、まず一度通常の心電図検査を行い、Afがなければ2誘導の心電図計を1日2回、2週間つけるというものでした。

 

診断基準としてはp波の消失が30秒以上続く場合や10−29秒の消失が2回以上見られた場合としています。

 

結果のところでも触れますが、この試験の面白いところは介入が「スクリーニング検査への呼び出し」なのですが、来ない人も当然多数含まれるわけです。それを含めてもなお結果が出ています。

 

なお、サンプルサイズについては

・Af患者で治療されなかった場合の脳梗塞の年間発症率を7%

・抗凝固薬による予防効果を70%

・一般人口での脳梗塞の年間発症率を1−2%

・検査に呼び出されて参加する確率を55%

と見積もって、80%の検出力で約11397名のサンプルサイズを想定しています。

 

 

Primary endpointの解析はコックス回帰分析を用いていますが、共変量による調整は基本的になしとしています。ただ、Post-hoc解析として、スクリーニングに呼ばれて参加した人と不参加だった人については補正をかけて解析し直しています。

 

なぜならスクリーニング検査に呼ばれて参加するような真面目で健康に興味が強い集団と参加しない集団では明らかに脳梗塞の発症率にも差があるため、補正しなければスクリーニング検査そのものの効果が推定できないからですね。これも結果で後述しますが、参加者と非参加者では結構大きな違いがあるんです。

 

試験の結果

結果ですが、13979名(介入)vs 13996名(コントロール)とかなり大規模な試験となりました。フォローアップ期間は中央値6.9年(IQR 6.5-7.2)と長期間になっています。国ぐるみで大規模にやっているためかlost to follow upもなしです。

 

データが生々しいのはtable1のベースライン患者特性です。スクリーニングに呼ばれて参加した人と非参加者が書かれていますが、特徴が相当違うんですね。

 

非参加者は「独居」「スウェーデン国外で生まれている」「収入が四分位範囲の一番上ではない」「大学を出ていない」「アルコールの消費量が高い」可能性が有意に高いという結果になっています。なんだかすごく社会歴に関連しているわけですね、、、。その他既往についてみても、明らかに非参加者の方が一般人口よりも健康状態が悪く、その後の脳梗塞の発症に関しても悪い結果となっています。

 

で、実際のアウトカムですがprimary endpointは

ハザード比0.96(95%CI; 0.92-1.00, p-value 0.045)

Event per 100 years 5.45 vs 5.68

で介入群に有意なイベント減少が認められていました。結構ギリギリのラインです。

なお、NNTは91だったようです。

 

 

これは複合エンドポイントなので、内訳をみてみると、脳梗塞が最もp値が小さいのですが、いずれのイベントも有意差を出すほどの差にはなっていません。また心房細動が見つかったら基本的に抗凝固をされる集団のはずなので、出血性疾患は増えても良いような気もしますが、大出血による入院や脳出血もなぜだか意外と増えていません。

 

figure 3にAfと診断された割合と抗凝固薬を処方された割合が時間を横軸にとって示されているのですが、 どちらも最初のスクリーニング検査によってぐっと上がって以降はコントロール群と横ばいになっています。

 

 

あとはappendix table 5に参加者と非参加者、コントロールの間で共変量での補正をかけてスクリーニング検査による効果をみた数値があります。

 

先程の話でいくと、参加者は所得も高く、社会的なステータスも高くて、通常の人口よりもイベントを起こしにくい群といえるので、コントロールと比較してスクリーニング検査の効果を検証するには補正をかけないといけないわけですが、それでも

調整ハザード比 0.72(95%CI; 0.68-0.76, p-value<0.001)

ということなので、効果が確認されていると言えます。

 

心房細動をどこまで見つけに行くか

結果が良かったとはいえ、数値的にはギリギリなところだったのですが、今回その原因として脳梗塞の年間発症率を7%と想定していたが、研究開始時点での研究では3%と下がってきていたことによる検出力不足が挙げられていました。心房細動の検出と適切な抗凝固薬が広がった結果と考えると、もはやスクリーニング検査のベネフィットはどんどん下がってきているのではないでしょうか。

 

今回の結果からはスクリーニング検査を受けなかった集団ほど健康状態が悪いことが予想され、検査を受けた時の効果も大きいと推測されたため、検査会場を自宅から近くに設定するなど、非参加者がより検査を受けやすいように整備することが重要なのではないかと述べられていました。

 

STROKESTOP studyやLOOP studyをみていると、どの程度の検査で検出された心房細動がハードエンドポイントの改善に結びつくかというのがまだまだ分からない分野であるように思われます。

 

今までの多くの試験はこうしたハードエンドポイントを設定していないので、長期的な心電図モニタリングの試験における脳梗塞の発症を調べたものはメタアナリシスぐらいになります。

 

例えばStrokeに2019年に出されたものがあり、ESUSにおける脳梗塞の発症予防にも長期の埋め込み心電図モニタリングが効果があったとなっています。

Prolonged Cardiac Rhythm Monitoring and Secondary Stroke Prevention in Patients With Cryptogenic Cerebral Ischemia 

 

解析対象がRCT2件、観察研究2件となっており、RCTはいずれもイベント数が少なく(脳梗塞発症を考えてのサンプルサイズではないので当然ですが)95%CIが大きく1をまたぐ形となっています。果たしてこれだけを持って長期の心電図チェックが脳梗塞の予防に必ず効果的と言っていいかは疑問です。

 

心房細動をみつけることを第一目標としてなんでも埋め込みをやればいいかというと侵襲の面も含めてどうだかなと思うところが大きいですね。

 

心房細動をみつける意義を考えるものとしては結果が興味深いものなので、今回の試験やLOOP studyを紹介しました。ただこれらは高リスクの人へのスクリーニングを検証した試験なので、神経内科医が実臨床でみる対象とは全く異なりますので、同じ方法をとれば良いというわけではありません。とはいえ、長時間モニタリングでみつかった僅かな時間のPafが悪いものなのかどうかは未だ確証が持てないことだというのは認識しておいても良い気がします。

 

今後同様に塞栓症のイベントをprimary endpointに含めた試験結果の蓄積が待たれますね。

【医療統計YouTube】標準誤差と標準偏差【第7回】

こちらの記事に書くのをしばらく忘れていましたが、Youtubeの動画を更新しました。

 

youtu.be

 

今回のテーマは『標準誤差』。

 

名前が標準偏差と似ていて本当に紛らわしいし、意味も初めのうちわかりづらいのですが、論文を読む上で理解が重要な概念です。なお、最初の小噺は大学院に行っている医師から聞いた実話です笑それで良いのかと思っちゃいますが、、、。

 

標本から母集団の推測で重要となる『中心極限定理』についても合わせて説明しており、今までの中でも最も盛り沢山の内容となっています。理解の一助となれば幸いです。

 

次回は標準誤差との関わりが深い『95%信頼区間』についてみていきます。

 

余談:中心極限定理の証明

動画内で触れている中心極限定理について、せっかくなので(?)本当に標本平均が正規分布に従うのかどうか、証明を見てみましょう。動画の対象とは全く異なるマニア向けです。

 

特性関数を用いた方法で証明していきます。

 

ある分布から抽出した互いに独立な確率変数を

X_1,X_2,...,i.i.d.\sim(\mu, \sigma^2)

とします。

 

この和が正規分布の特性関数である

e^-{\frac{t^2}{2}}

に一致することを目標にします。

 

大まかな流れとしては

①標準化する

②標準化した標本平均の特性関数を求める

テイラー展開を用いて近似する

という感じです。

 

まず

Z_i=\frac{\bar X_i-\mu}{\sigma}

とおきます。いわゆる標準化ですね。

 

そうすると

E[Z_i]=0, V(Z_i)=1

となります。

またその標本平均である\bar Zについては

E[\bar Z]=0, V(\bar Z)=\frac{1}{n}

ですね。

 

ここで証明したいことは、標準正規分布の関数を\Phiで表すと

lim_{n\to\infty}P(\sqrt n\bar Z\leq z)=\Phi(z)

です。

 

なので、ここから標準化した標本平均の確率変数\sqrt n\bar Z

特性関数\phiについて計算していきます。

 

\phi_{\sqrt n\bar Z}(t)=E[e^{it\sqrt n\bar Z}]\\=E[e^{it(\frac{Z_1}{\sqrt n}+\frac{Z_2}{\sqrt n}+...+\frac{Z_n}{\sqrt n})}]\\=\{E[e^{it(\frac{Z_1}{\sqrt n})}]\}^n

となります。

 

最後の変形は

E[e^{it(\frac{Z_1}{\sqrt n})}]=E[e^{it(\frac{Z_2}{\sqrt n})}]=...=E[e^{it(\frac{Z_n}{\sqrt n})}]

であることを用いました。

 

ここからは

E[e^{it(\frac{Z_1}{\sqrt n})}]=\phi_{\sqrt n\bar Z}(\frac{t}{\sqrt n})

を求めていきます。

 

そこで使われるのがお馴染みテイラー展開です。

 

\phi_{\sqrt n\bar Z}(\frac{t}{\sqrt n})=\phi(0)+\frac{t}{\sqrt n}\phi'(0)+\frac{t^2}{2n}\phi''(0)+o(n^-1)

と書けます。

 

式の最後のオミクロンは分母にnがつくため、n→∞の時に0になるため無視できます。

 

また

\phi(0)=E[e^0]=1

であり、期待値の定義に戻って考えるとZの確率密度関数をf(z)として

\phi'(t)=\int iZ_ie^{itZ_i}f(z)dz\\\phi''(t)=\int i^2Z_i^2e^{itZ_i}f(z)dz

となるため

\phi'(0)=iE[Z_i]=0\\\phi''(0)=-E[Z_i^2]=-1

となります。

 

これを先程のテイラー展開の式に代入すれば

\phi_{\sqrt n\bar Z}(\frac{t}{\sqrt n})=1-\frac{t^2}{2n}+o(n^{-1}))

となります。

求めたい特性関数は

\phi_{\sqrt n\bar Z}(t)=\{1-\frac{t^2}{2n}+o(n^{-1})\}^n

となるのでn→∞のとき、e^-{\frac{t^2}{2}}に収束します。

 

これは標準正規分布の特性関数に一致していますので、証明できました。

 

動画内では標本の和も正規分布となることが述べられていますが、これは中心極限定理を考えればその通りです。

 

標本の和=標本平均のn倍ですので

\bar X\sim N(\mu, \sigma^2)

であれば

n\bar X\sim N(n\mu, n^2\sigma^2)

となります。

 

また動画内の例では

サイコロの目については一様分布

コイントスはベルヌーイ分布

血圧の数値は正規分布(という仮定)としており

いずれも中心極限定理を用いれば正規分布へと収束します。

 

特にコイントスの裏表の和については二項分布をとり、二項分布が試行回数を増やした時、正規化されるというのはドモアブル=ラプラスの定理として有名ですね。

 

ちょっと証明は大変なので興味があればこちらを参考にしてください。

De Moivre–Laplace theorem - Wikipedia

 

 

参考文献:『現代数理統計学の基礎』

 

脳梗塞再発予防に対するプラスグレル(PRASTRO試験)と適応拡大について考える

いつの間にか年末の間に脳梗塞の再発予防に対するプラスグレルの効能追加が発表されていました。

 

記憶を辿ってみると2年前にプラスグレルの試験に関する論文(PRASTRO-Ⅰ)を抄読会で読んだ気がするのですが、確か非劣性も示せていなかったような、、、。

 

クロピドグレルはCYP2C19多型の影響で不応性の患者さんがいるということで、心血管の分野ではプラスグレルの利点があったようにも思っていたので、脳梗塞でも同じようにならないのは残念だなあとは思っていました。

 

しかしなぜ効能追加が通ったのでしょう?

 

脳梗塞というコモンな疾患において、プラスグレルという選択肢が増えたとなれば、これは良く吟味したいところです。ひとまずわかる範囲の情報を見てみようと思います。

 

目次:

 

根拠となった臨床試験

適応の根拠となった試験はPRASTRO試験と呼ばれるクロピドグレルとの比較試験となっています。これについては昨年末のプレスリリースでも記載されています。

抗血小板剤プラスグレル塩酸塩の効能追加に係る国内における一部変更承認申請について - プレスリリース - 報道関係者の皆さま - 第一三共株式会社

 

PRASTRO-Ⅰ,Ⅱ,Ⅲの三つの試験があるようで大まかには

 

PRASTRO-Ⅰ → 70歳未満、50kg以上の虚血性脳血管障害を対象にした非劣性試験

PRASTRO-Ⅱ → 70歳以上または50kg以下の虚血性脳血管障害を対象にした安全性試験

PRASTRO-Ⅲ → 再発リスク因子を1つ以上もつ脳梗塞患者を対象にした有効性、安全性試験

 

となっているようです。

それぞれの試験と結果について簡単に見ていきます。

 

PRASTRO-Ⅰ試験

まず最初に2019年5月に論文が出されたPRASTRO-Ⅰ試験です。こちらはLancet Neurologyに載っています。

Comparison of prasugrel and clopidogrel in patients with non-cardioembolic ischaemic stroke: a phase 3, randomised, non-inferiority trial (PRASTRO-I)

 

試験デザイン

ランダム化・二重盲検・多施設・非劣性試験です。

最終的には224の病院が参加し、3753名の患者がランダム化を受けました。

Sep 1, 2011- June 12, 2015までで試験が行われました。

3つの試験の中では最大の規模の参加者となっています。

 

 

内容をPICOで整理すると

Patient:

20-74歳、50kg以上、脳梗塞発症から1-24週以内

CTまたはMRIで症候性の脳梗塞が特定されている

 

(Exclusion)

心原性脳梗塞、奇異性脳塞栓、無症候性脳梗塞

他の抗血小板薬が必要、脳出血・SAHの既往またはhigh risk

コントロール不良の高血圧

 

Intervention:

3.75mg/dayのプラスグレル内服

 

Control:

75mg/dayのクロピドグレル内服

 

Outcome:

脳梗塞発症、心筋梗塞発症、その他の血管性疾患による死亡

となっています。

 

なお、非劣性試験なので非劣性マージンが決められていますが、日本人を対象にしたstudyの結果を元に算出しています。

 

sarpogrelate vs aspirin のS-ACCESS試験におけるaspirin群の年間のイベント発生率5.4%とクロピドグレルの第3相試験における年間のイベント発生率4%からaspirin相当までのマージンを許容として、5.4/4=1.35となっています。

Sarpogrelate-Aspirin Comparative Clinical Study for Efficacy and Safety in Secondary Prevention of Cerebral Infarction (S-ACCESS): A randomized, double-blind, aspirin-controlled trial

 

同様にクロピドグレルの第3相試験を元に検出力80%を想定してサンプルサイズは3600名と見積もっています。

 

試験の結果

プラスグレル群 1885名

クロピドグレル群 1862名

にそれぞれランダム化されました。

 

年齢と体重のinclusionがあるので一応baseline characteristicsを見ておくと

年齢の平均(SD)は61.9歳(8.7)/62.4歳(8.4)(プラスグレル群/クロピドグレル群)

体重の平均は65.8kg(10.5)/65.4kg(9.7)

でした。

 

普段自分が臨床で脳梗塞を見ている印象としては、臨床的にみる層よりは若いなというイメージでした。

 

他に気になった点としてはtype of strokeにおいて

Stroke of undetermined aetiology 38%/36%

と比較的割合が大きい点です。果たして好血小板薬の違いに効果が出るのか疑問となります。

 

また、途中脱落がどれくらいあったかですが

プラスグレル群 287/1885名(15.2%)

クロピドグレル群 311/1862名(16.7%)

でした。

 

内訳は副作用によるものが最も多かったようです。

 

さて、Primary endpointですが

 

プラスグレル群 3.9%(イベント数73/死亡1, 95%CI 3.0-4.8) 

vs

クロピドグレル群 3.7%(イベント数69/死亡0, 95%CI 2.9-4.7)

 

リスク比 1.05(95%CI 0.76-1.44) 

 

となりました。信頼区間の上端が非劣性マージン1.35を超えているため非劣性は示せなかったということになります。

 

また、secondary endpointとしてイベントの内訳が示されています。

 

最も重要な虚血性脳卒中

プラスグレル群 3.7%(イベント数69/死亡1, 95%CI 2.9-4.6) 

vs

クロピドグレル群 3.4%(イベント数64/死亡0, 95%CI 2.7-4.4)

 

リスク比 1.07(95%CI 0.76-1.49)

となっていました。

 

基本的にイベントは脳梗塞が大部分を占めていたようです。

 

またサブグループ解析でCYP2C19多型による違いや脳梗塞の病型による違いも分析されていますが、有意差が生じるほどの大きな違いはありませんでした。強いて言えばlarge artery atherosclerosisやsmall artery occlusionがややプラスグレル優位な結果となっています。

 

別で2020年にもサブグループ解析のみの論文が出されています。

Efficacy and Safety of Prasugrel by Stroke Subtype: A Sub-Analysis of the PRASTRO-I Randomized Controlled Trial

 

サンプルサイズは十分であったのでUndetermeined etiologyが多かったことが原因で差が出にくかったと言われればそうなのかもしれません。

 

PRASTRO-Ⅱ試験

こちらはCerebrovascular diaseaseというjournalにopen accessで載っていました。リンクは以下です。

Safety and Efficacy of Prasugrel in Elderly/Low Body Weight Japanese Patients with Ischemic Stroke: Randomized PRASTRO-II

 

PRASTRO-Ⅰでは分からなかった70歳以上、50kg未満の患者さんについての安全性を検討することが目的となっている試験のようです。

 

試験デザイン

ランダム化・二重盲検・多施設・安全性の有意差をみる試験デザインのようです。

654名の参加者が集められました。

Sep 2012-Oct 2014まで行われています。

なお、1:1:1割付けの試験デザインとなっています。

 

PICOに沿ってこちらも整理しますと

Patient:

75歳以上または50kg以下

4週間以上前に非心原性脳梗塞既往のある患者

 

(Exclusion)

心原性脳梗塞、奇異性脳塞栓、無症候性脳梗塞

他の抗血小板薬が必要、脳出血・SAHの既往またはhigh risk

コントロール不良の高血圧、体重40kg未満

 

Intervention:

3.75mg/dayのプラスグレル内服

2.5mg/dayのプラスグレル内服

 

Control:

50mg/dayのクロピドグレル内服

(通常量の75mgではない点に注意、高齢または体重が軽いためと思われます)

 

Outcome:

出血性イベントを合わせた複合エンドポイント

(life-threatening bleeding, major bleeding, other clinically relevant bleeding)

 

各参加者は48週以上はフォローアップされています。

 

サンプルサイズはprimary safety events(上述した出血イベント)の発症を1.5%以上と想定して、600名としたと書いてあります。研究の目的に沿うように、有効性ではなくsafety eventsに焦点を当てたサンプルサイズです。

 

試験結果

さて、まず参加者の人数ですが

 

プラスグレル3.75mg群 216名

プラスグレル2.5mg群 215名

クロピドグレル50mg群 223名

 

となりました。

 

参加者の特徴としては平均の年齢(SD)がそれぞれ

76.1(7.6), 76.7(7.0), 76.4(7.3)

体重は

55.0(8.9), 55.9(9.1), 56.0  (9.7)

となっています。

 

比較的普段見る臨床像に近いように思われます。

 

このデータを見てもわかるように、体重は50kg以上の人も多く、それぞれのグループの内訳として

75歳以上、50kg以上が約6割

75歳未満、50kg以下が約2割強

75歳以上、50kg以下が約2割弱

となっていました。

 

なお、脳梗塞の病型については前回試験と同様、stroke of undetermined etiologyが約3割を占めています。

 

また途中脱落については

 

プラスグレル3.75mg群 27/216名 12.5%

プラスグレル2.5mg群 34/215名 15.8%

クロピドグレル50mg群 37/223名 16.6%

となっていました。

いずれも最も多い理由は副作用でした。

脱落データは本文になくsupplementary figure2Aに載っています。

 

続いてprimary endpointのincidenceですが

 

プラスグレル3.75mg群 4.2%(イベント数9, 95%CI 1.9-7.8) 

vs

プラスグレル2.5mg群 1.9%(イベント数4, 95%CI 0.5-4.7)

vs

クロピドグレル50mg群 3.6%(イベント数8, 95%CI 1.6-6.9)

 

ハザード比は

プラスグレル3.75mg群が1.13(95%CI 0.44-2.93)

プラスグレル2.5mg群が0.51(95%CI 0.15-1.69)

となりました。

 

絶対数としてはプラスグレル2.5mgが少ない印象です。イベント数自体が少ないので明確な差が出るほどではありません。

 

また、secondary endpointとして治療中止につながるような出血と全ての出血性イベントが

 

プラスグレル3.75mg群 5例, 69例

vs

プラスグレル2.5mg群 2例, 53例

vs

クロピドグレル50mg群 5例, 52例

 

となっています。こちらは全ての出血性イベントにおいてプラスグレル3.75mg群が少し多いですね。2.5mg群がどちらも少ない印象なのはprimaryと同様です。

 

なお、体重と年齢のグループごとに分けられたイベント数・発症率もsupplementary materialに載っていますが、そもそもイベント数が少ないので目立った差はありませんでした。

 

さて、ここで有効性も同時に載せられています

これはPRASTRO-Ⅰと同じで、脳梗塞心筋梗塞、他の血管イベントによる死亡を見た複合エンドポイントです。結果としてincidenceは以下のようでした。

 

プラスグレル3.75mg群 0%(イベント数0, 95%CI 0.0-1.7) 

vs

プラスグレル2.5mg群 3.3%(イベント数7, 95%CI 1.3-6.6)

vs

クロピドグレル50mg群 3.6%(イベント数8, 95%CI 1.6-6.9)

 

ハザード比は

プラスグレル3.75mg群が0(95%CI 算出不可)

プラスグレル2.5mg群が0.90(95%CI 0.32-2.47)

となりました。

 

おそらくここでプラスグレル3.75mg群がイベント数0であった、というのが有効性に関してプッシュされるポイントだったのではないかと思われますが、試験の参加者が654名とPRASTRO-Ⅰに比べて少なく、さらに3群割付けのため実質的な人数はさらに少ないことに注意しなければいけません。あくまでsafety event検証のために組まれたサンプルサイズであり、イベントの検出ができていない可能性が十分あるわけです。

 

PRASTRO-Ⅲ試験

さて、最後の試験は有効性と安全性を確認するための試験ということですが、234名となぜか少数となっています。

 

そして論文化されたものあるいは試験データの詳細が見つけられませんでしたが、どなたかもしわかる方がいたら教えて頂きたいです・・・。

 

PMDAの添付文書に少しだけ情報が載っていますので、それを参考にして書きます。

エフィエント錠2.5mg/エフィエント錠3.75mg/エフィエント錠5mg/エフィエントOD錠20mg

 

試験デザイン

添付文書による情報によればPICOは以下の通りと考えられます。

 

国内第3相二重盲検試験

P:高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病の合併、脳梗塞既往

 TOAST分類で大血管アテローム硬化、小血管閉塞のいずれかに該当

I:プラスグレル 3.75mg

C: クロピドグレル 75mg

O: 脳梗塞心筋梗塞及びその他の血管死の複合エンドポイント

となっています。

つまり、過去の二つの試験で結果がありそうだった、アテロームラクナの機序に絞って再度試験を行ったというわけですね。

 

試験結果

48週後のイベント発症率が

 

プラスグレル群 6.8%(8/118名)

vs

クロピドグレル群 7.1%(8/112名)

 

リスク比 0.949(95%CI 0.369-2.443)

 

だったようです。

 

さらに添付文書にはサンプルサイズと結果の解釈に関して

22) 本試験の主たる目的はクロピドグレル群に対するプラスグレル群のリスク比の点推定値が1を下回ることの確認。目標症例数は、国内第相試験(虚血性脳血管障害患者)の結果等から投与開始後48週間以内のクロピドグレル群での脳心血管系イベント発現率を4%と見積もり、クロピドグレル群に対するプラスグレル群の真のリスク比を0.40.8と想定したとき、110/群での当該リスク比の点推定値が1未満となる確率は81.2%55.9%となることから250例(125/群)と設定。(添付文書より引用)

との記載。

 

これってどういうことなんでしょうか。クロピドグレルのイベント率は他の試験からの見積もり、プラスグレル群の真のリスク比も仮定による見積もりで設定されたサンプルサイズにおいて1を切ったからといって何になるのかがイマイチわからないのですが、、、。統計的な意味合いがうまくわかる方がいらっしゃったらご助言頂けると幸いです。

 

全体を通して

PRASTROⅠ~Ⅲの試験についてざっと振り返ってみます。

そもそも有効性も非劣性も十分に示せていない?

行われたのはPRASTRO-Ⅰ(非劣性試験)、PRASTRO-Ⅱ(安全性をendpointにした試験)、PRASTRO-Ⅲ(有効性と安全性の確認の試験?詳細不明)です。

 

PRASTRO-Ⅰでは非劣性が示せませんでした。クロピドグレルを対照にアスピリンの再発率を考慮して設定した非劣性マージンでしたので、まずこの試験でわかったのは「アスピリンより良いかどうかはわからない」ということです。また対象とされる母集団が75歳未満、50kg以上という限定付きでもあります。

 

続いてのPRASTRO-Ⅱではイベント発症率が0でしたが、サンプルサイズが216名とPRASTRO-Ⅰにおける1885名より圧倒的に少ないです。サンプルサイズがさらに少ない118名であったPRASTRO-Ⅲではイベントが起きていたことを考えると、何らかの違いがありそうです。対象とされる母集団が75歳以上または50kg未満とPRASTRO-Ⅰ, PRASTRO-Ⅲとはそれぞれ異なり、またundetermined etiologyが3割含まれている点がPRASTRO-Ⅲとは異なりますので、その中でプラスグレルがすごく有効な層があったのかもしれません。もちろんサンプルサイズが小さいが故の偶然という可能性もあります。

 

さらに、ここで効果に着目するのであれば、クロピドグレルが全例50mgとなっており、比較対象として適切かどうかも考えなければいけません。『脳卒中治療ガイドライン2021』において、クロピドグレルの通常推奨される用量は75mgです。添付文書上は体重、年齢などにより減量可能とは書いてありますが、その治療成績などは十分に吟味されていません。

 

最後のPRASTRO-Ⅲは詳細が分からないので評価に困りますが、少なくともサンプルサイズは小さく、イベント発症率も大きく差がついているわけではないようです。

 

以上からわかる事として、少なくとも非劣性や明確な有効性は示せていないのではないでしょうか。PRASTRO-Ⅰでアテロームラクナでのサブグループ解析がそれなりに良さそうな結果であること、PRASTRO-Ⅱでのイベント発症がないことは注目する点だと思いますが、年齢や体重なども考慮せずに脳梗塞全体に適応を広げる意味がよくわかりません。機序ありきになっていないでしょうか。

 

出血性合併症について

また、今後の動向で注意が必要なのは出血性合併症です。欧米では基本的にプラスグレルがTIA/脳卒中既往に対して禁忌となっています。(2022.1.11時点up to date参照)

 

なぜかと思って調べたらTRITON TIMI 38試験という急性冠症候群に対するクロピドグレルvsプラスグレルの試験が根拠のようです。

Prasugrel versus Clopidogrel in Patients with Acute Coronary Syndromes

 

この試験ではサブグループ解析において脳卒中/TIA既往のある群で有意に有害事象が多かった(もちろん脳出血を含む)ことから禁忌となっているようです。

 

ただ、この試験はアスピリン75-162mg+クロピドグレル75mg or アスピリン75-162mg+プラスグレル10mgとなっていますので、今回の試験とは用量も併用薬も異なることに注意が必要です。PRASTRO-Ⅱにおいてもプラスグレル3.75mg群では出血性合併症が絶対数としては気になるところで、いずれも1年程度のフォローアップ期間となっていますから、今後使用されるのであればどの程度出血があるのかさらに追跡が必要でしょう。

 

実際の使い道を考える

以上の結果を受けてどういう層に対して使うかですが、そもそも非劣性を明確に示せていない時点で第一選択として使うものではないように思います。実際の効果やメリットがわからないわけなので、まずはクロピドグレルやアスピリンを使うのが妥当ではないでしょうか。

 

アスピリンが何らかの理由でどうしても飲めなくて、クロピドグレル内服していても梗塞を繰り返す人に使うのはありかもしれませんが、出血性合併症については注意を払わないといけないと思いますので、メリット・デメリット考えると難しいところではないかと思います。

 

個人的な意見としてはどうも有効であろうという仮定ありきで試験が進められて適応追加になっている印象があり、正直患者さんに使いたいとは思わないのですが、、、どうでしょうか。PRASTRO-Ⅲ試験について詳しく知っていらっしゃる方がいれば、その意義についてご教示願いたいと思います。

2021年を振り返って

今年もまた一年が終わろうとしていますね。

 

結構昔だと感じたことも実はこの1年以内に始めたことが多かったですね。Youtubeを始めたのも今年ですし、twitterを始めたのも今年ですし。頑張って英文のCase reportにチャレンジしたのも今年でしたが、ろくに通りませんでしたね笑 結局好きなように勉強していた一年でした。

 

ざっと過去記事見ながらわずかばかり振り返ってみます。

 

医療統計のYoutubeを始めてみた話

www.youtube.com

 

「とっつきにくい医療統計をもう少し身近にしよう」ということを目標にエビデンスおばさんYoutubeを始めました。

 

毎回仕事の合間をぬって議論を重ねていることと、動画作成って大変時間がかかるので更新ペースがとても遅いです笑

それでも着実にチャンネル登録者数が増えているのは嬉しいことで、ついに200人を超えました。視聴いただいている皆様どうもありがとうございます。

 

しかし、これだけ大変な作業を延々とやっているYoutuberってすごいですね、、、。エビデンスおばさんの力あってこそ何とか続けてますが、これからも地道に頑張ろうと思います。

 

iPad Air 4を買ってから自炊とノートが捗ってしょうがない話

ふと振り返ってみると、今年の1月にiPad Air 4とmagic keyboard+Apple Pencil 2を買ってましたね。今現在もこれを使ってブログ書いてますが、使いごごちは変わらず最高です。

medibook.hatenablog.com

 

キーボードでブログとか書く作業もスムーズに問題なくサクサクできることに加えて、Apple Pencilが本当に便利でした。

 

自炊したpdf書籍への書き込みやgood noteでのノート作り、統計の問題解きがストレスなくできます。いつも通勤電車乗りながら延々数式書いてましたね。完全に変な人です。見直してみると購入後から統計のノートだけで309ページ分も書いていたので結構使ってますね。

 

合わせて自炊もガンガン進めたくなってついに裁断機も購入しました。

medibook.hatenablog.com

 

ScanSnapOCR化できるので、これが紙書籍にはない利点です。キーワードで検索ができるので「この用語ってどういう意味だっけ」とか「確かこの本のどこかにこの言葉の話が載っていたはずだけど、、、」というのがパッと見つかります。

 

もともと本は紙で読む派でしたが、OCRしたpdf検索の便利さと自由自在なapple pencilの書き込みによって完全に電子書籍派になってしまいました。

 

人によって好みはあるとは思いますが、上記の利点から個人的にはiPad air 4とapple pencil2の組み合わせはおすすめです。

 

統計検定に落ちた話

medibook.hatenablog.com

 

今年の締めはこれでしたね笑

 

2年半くらいはかけてきたわけですが見事に落っこちてしまいました。合格率20%台はさすがです(汗

最近解いた問題を見直してみてましたが、統計数理で落ちたのは、2変数の変数変換(畳み込み)で定義域をまるで考えてなかった点があったり、基本的なとこが問題でしたね。基本ができていない残念さに気がつきました。

 

しかしおかげさまでこの一年統計についてはずいぶん勉強しました。EZRでなくRもぼちぼち使う練習始めましたし、書籍も充実してきました。読みたいものはまだまだ溜まっているのでこれからまだまだ理解を進めたいと思います。


自分のTwitter界隈もだいぶ統計まみれになってきて、普段病院勤務では聞かない情報が色々降ってくるので楽しいです。絡んでいただいた皆様どうもありがとうございました。

 

論文読む側としては楽しくやってますが、書く側もどんどんやってみたいところですね。来年も市中病院での通常業務が続きそうなのでまだできそうにないですが、、、。

 

 

 

来年もコツコツと好きに勉強してブログ更新していきますので、またどうぞよろしくお願い致します。今年は無事仕事も納めましたので、今日は家族で団欒してすき焼きでもいただこうと思います。

 

皆様良いお年を!

 

下肢の筋肉と支配神経を覚えてみる

手に筋肉と神経支配と同様に足についても、出来るだけ簡素に原則と例外を覚える形でまとめてみようと思います。

 

股間節まで含めるとまとめにくいので膝関節以遠について考えてみます。

 

目次:

 

事前知識

まず足の神経について、最も大きな神経とその分枝を最低限抑えます。

上側が腹側、下側が背側としてこんな感じになっています。

 

f:id:medibook:20211219073756j:plain

 

また大腿神経、総腓骨神経、脛骨神経の系統(各神経とその分枝)に分けると感覚は大まかに以下のように分かれています。図は膝までとしています

f:id:medibook:20211219202318j:plain

大雑把に言えば、前面は総腓骨神経系、後面が脛骨神経系、頭側前面は大腿神経系といった具合ですね。

 

このイメージをもってして、手と同様に原則を考えます。

原則

覚えるべき大原則としては

 

①腹側に曲がる運動は総腓骨神経系(ほとんど深腓骨神経)、背側の運動は脛骨神経

②膝関節の伸展は大腿神経

③外反内反は総腓骨神経系(浅腓骨神経)

 

となります。

 

図にするとこんな感じです。

f:id:medibook:20211219202336j:plain

そして例外は二つのみで

・膝屈曲の筋群の一部(大腿二頭筋短頭、薄筋)

・足関節底屈時の内反(後脛骨筋:L5障害vs総腓骨神経麻痺の鑑別で重要!)

です。

 

下肢の筋肉とその神経支配は専門医試験でもよく問われますし、また実臨床でもよく見られる下垂足(L5障害or総腓骨神経障害or深腓骨神経障害?)の鑑別で役立ちますので、そこを中心にみていきます。

 

それぞれ見ていきましょう。

 

膝関節の伸展

大腿四頭筋と呼ばれる筋群です。いずれも大腿神経の支配(L3,L4)となります。

大腿直筋、内側広筋、外側広筋、 中間広筋の4つから成ります。

 

感覚支配と同様に前面、膝上の部分なので大腿神経支配と覚えます。

 

膝関節の屈曲

膝関節の屈曲に使われるのは主にハムストリングスと呼ばれる4つの筋群+薄筋です。原則に則れば、脛骨神経ということになりますが、一部例外が含まれます。

 

また脛骨神経あるいは総腓骨神経の支配の筋は坐骨神経に由来するためL5,S1髄節になることを意識しておくと良いです。

 

・半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋長頭

これらは原則通りの脛骨神経支配です。

 

大腿二頭筋短頭

例外として総腓骨神経支配です。

L5 vs  総腓骨神経麻痺の鑑別に役立つかと思いきや、ここは主にS1支配のようで、これが正常だとしてもL5障害は否定できないとの意見があります。*1

 

・薄筋

こちらも例外として閉鎖神経支配です。閉鎖神経といえば、股関節内転に用いる筋群を支配していますね。

 

閉鎖神経がL2-4の腰神経に由来することから、この筋もL2,L3髄節支配であり、他の屈筋群とは髄節が異なるため、髄節性の障害の鑑別に役立ちます。

足関節の背屈・足趾の伸展

原則通りですが、下腿であるため総腓骨神経から分枝した深腓骨神経・浅腓骨神経由来となります。なお、ほとんどが深腓骨神経です。

 

・前脛骨筋

下垂足の直接的な原因となる筋です。深腓骨神経・L4,5支配となります。

 

深腓骨神経は総腓骨神経からの分枝のため、総腓骨神経の障害が生じることでこの筋に筋力低下が生じます。例えば、腓骨頭による総腓骨神経の圧迫で下垂足が起きる「腓骨神経麻痺」は臨床でもときおり遭遇します。

 

・長趾伸筋、短趾伸筋、長母趾伸筋、短母趾伸筋

足趾の伸展を促す筋肉はいずれも基本的には深腓骨神経支配です。ただ、ここで注意が必要なのは短趾伸筋です。

 

神経伝導検査において深腓骨神経の評価に使われますが、約20-28%の症例では浅腓骨神経による変則支配があると言われています。*2こうした浅腓骨神経の変則の分枝のことを副深腓骨神経(accessory deep peroneal nerve)と呼びます。これがある場合は外顆後方からの電気刺激でも短趾伸筋のCMAPを検出することができます。

 

そうなると正常の際にも、元を辿った腓骨上からの近位部刺激CMAP<遠位部CMAPということが起きるので、伝導ブロックの判断が難しくなります(CMAPが低下しないので)。そういった場合には外顆後方からの刺激を行うことが必要になるでしょう。

 

足関節の底屈・足趾の屈曲

これは原則通りで、全て脛骨神経支配です。

 

・下腿三頭筋

腓腹筋内側頭、腓腹筋外側頭、ヒラメ筋から成ります。いずれも脛骨神経支配でL5,S1支配です。

 

S1優位なのでS1神経根症などで筋力低下が起きますが、その際CKが上昇することもあると言われています。*3通常鑑別にあがりにくいと思うので、注意が必要です。

 

・長趾屈筋、短趾屈筋、固有足筋

いずれも足趾の屈曲に関連しますが、手の場合と同様に長趾屈筋は主にDIP関節、短趾屈筋と固有足筋はPIP/MP関節に関連します。

 

長趾屈筋はL5,S1支配でL5優位であるため、脛骨神経支配・L5支配という意味で先程のL5障害 vs 腓骨神経麻痺の鑑別に役立ちます。*1

 

外反・内反

・長腓骨筋、短腓骨筋

いずれも浅腓骨神経支配、髄節はL5です。足の外反に使われます。

 

・後脛骨筋

足を底屈した状態で内反する筋になります。これは例外的に脛骨神経です。髄節はL5であるため、L5障害 vs 腓骨神経麻痺の鑑別に役立ちます。これが低下しているようであればL5障害である可能性が高くなります。底屈位であれば前脛骨筋が落ちていても姿位をとれるので有用ですね。

 

 

【おまけ:中殿筋】

これはおまけですが、L5障害 vs 腓骨神経麻痺を考えると中殿筋も鑑別に役立つ筋として候補に上がります。股関節の外転の働きをもち、上殿神経支配、髄節はL5,S1となっています。ただ文献*1によれば、L5障害でも中殿筋に筋力低下を来さない例も半数近くあるようで、必ずしもL5障害を否定はできないとされていますね。

 

まとめ

原則としては

①腹側に曲がる運動は総腓骨神経系(ほとんど深腓骨神経)、背側の運動は脛骨神経

②膝関節の伸展は大腿神経

③外反内反は総腓骨神経系(浅腓骨神経)

 

例外として

・膝屈曲の筋群の一部(大腿二頭筋短頭、薄筋)

大腿二頭筋短頭は総腓骨神経、薄筋は閉鎖神経

・足関節底屈時の内反

→後脛骨筋で脛骨神経

でした。

 

L5障害 vs 腓骨神経麻痺の鑑別に役立つのは

・中殿筋 上殿神経 L5,S1

・後脛骨筋 脛骨神経 L5

・長趾屈筋 脛骨神経 L5,S1

で、実臨床的には後脛骨筋が良いのではないかと思われます。

 

参考文献:

*1『MMT・針筋電図ガイドブック』

 
*2『ここからはじめる!神経伝導検査・筋電図ナビ』

 
*3
Shibata, M., Kasahara, H., Makioka, K. et al. Neurogenic calf amyotrophy with CK elevation by entrapment radiculopathy; clinical, radiological, and pathological analyses of 18 cases. J Neurol 267, 3528–3540 (2020).
日本語で読める別の症例報告としてはこちら

手の筋肉と支配神経を覚えてみる

引き続いて神経内科専門医試験に出がちな手の筋肉と神経支配について、できるだけ簡単に覚えてみようと思います。

 

ある程度知っていると上肢の脱力をきたす疾患において原因となる部位が末梢神経なのか脊髄なのか、あるいはどの神経・レベルなのかをよりうまく当たりがつけられるようになります。

 

目次:

 

事前知識

まず各神経の大まかなイメージとして感覚神経の支配域を覚えてみます。

 

手掌側はこんな感じです。

f:id:medibook:20211207052748j:plain

青色が正中神経、黄色が尺骨神経の支配域を示します。

 

環視は半分にわかれましてring finger splittingと言われています。ここで感覚の障害の有無がわかれる場合、尺骨神経あるいは正中神経の障害が疑われます。

 

続いて、手背側です。

f:id:medibook:20211207052857j:plain

ちょっと現代アートみたいな色使いになってしまいましたが、、、。

こちらは最も広い赤色が橈骨神経、青色は同様に正中神経、黄色が尺骨神経となっています。

 

それぞれの神経のなんとなくのイメージとして

正中神経→掌側広め

尺骨神経→第4-5指

橈骨神経→背側広め

という感じですが、これを活かして筋肉の支配も考えていきます。

 

原則

原則として覚えておくのは先程のイメージを使ってこんな感じです。

f:id:medibook:20211207054158j:plain

正中神経(青色)が第1−3指の屈曲(母指のみ対立も)

尺骨神経(黄色)が第4−5指の屈曲(小指のみ対立も)

橈骨神経(赤色)が全ての指の伸展

という感じです。

 

またもう一つの原則として

第2−5指の外転内転は全て尺骨神経

と覚えておきます。

 

すると一部の例外を除いてこの原則に当てはまっていきます。

 

正中神経支配の筋肉

まずは正中神経から見ていきましょう。

 

第1指の屈曲・対立に関連するものとして

・長母指屈筋

・短母指屈筋

・母指対立筋

これらは全て正中神経支配です。

 

なお、母指には二つ例外があります。

・短母指外転筋

は手掌に対して垂直方向に母指をあげるのに働く筋肉で、正中神経支配です。Th1レベルで支配されていることから頸椎症と正中神経の障害の鑑別に役立ちます。

 

また

・母指内転筋

は名前の通り母指を内転させる筋肉で、イメージに沿えば正中っぽいですが尺骨神経支配です。尺骨神経麻痺で出てくるフロマン徴候で有名なので必ずおさえておかないといけません。

 

また、第2−3指の屈曲として

・浅指屈筋

・深指屈筋(1,2)

・虫様筋(1,2)

も正中神経支配です。

 

ここで例外として浅指屈筋は2−3指の関連のみならず全体に正中神経が関連します。

 

尺骨神経支配の筋肉

原則に沿えば、第4−5指の屈曲と第2−5指の外転内転に関連します。

 

よって、第4−5指の屈曲として

・深指屈筋(3,4)

・虫様筋(3,4)

が挙げられます。

 

また第5指の屈曲・対立に関わる

・小指屈筋

・小指対立筋

・小指外転筋

も尺骨神経支配です。

 

先程述べたように浅指屈筋は例外で、全て正中神経でした。

 

 

また第2−5指の内転外転に関わる

・掌側骨間筋

・背側骨間筋

はいずれも尺骨神経支配になります。

 

先ほど述べたように、あとは例外として短母指内転筋が尺骨神経支配でした。

 

後骨間神経支配の筋肉

ざっくりいえば伸筋の類は全て橈骨神経系の支配となります。なお、手の筋肉に関しては、橈骨神経が分枝した後の後骨間神経の支配となります。

 

第2−5指に関わるものとして

・示指伸筋

・小指伸筋

・指伸筋

があります。

 

第1指に関わるものとしては

・長母指外転筋

・長母指伸筋

・短母指伸筋

があります。

 

なお、髄節についてはまだ諸説あるものが多いので細かいところは議論の的のようですが、今回参考にした園生先生の書籍*1をみると大まかには正中神経支配の手の筋肉はTh1主体、尺骨神経、橈骨神経支配はC8主体ということになるようです。前腕の筋肉を加えるともう少し話は変わってきます。

 

まとめ

手の筋肉においては

正中神経が第1−3指の屈曲(母指のみ対立も)

尺骨神経が第4−5指の屈曲(小指のみ対立も)

橈骨神経が全ての指の伸展

さらに尺骨神経は第2−5指の外転・内転

を担う。

 

例外は浅指屈筋(正中神経)と母指内転筋(尺骨神経)となります。

 

参考文献:

*1『MMT・筋電図ガイドブック』

全ての筋肉のMMTおよび筋電図の取り方が載っています。各筋に対する臨床的な重要事項も詳細に書かれていますのでオススメです。

*2『イラストでわかる神経症候』

ちょっと古い翻訳書ですが、イラストが明快で、よく臨床的にも問われる神経症候が綺麗にまとめてあります。