脳内ライブラリアン

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医療、統計、哲学、育児・教育、音楽など、学んだことを深めて還元するために。

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ワイブル分布の期待値と分散【統計検定1級対策】

別記事で代表的な確率分布についてまとめていますが、文量が増えそうなのでワイブル分布の平均と分散の計算はここでまとめてみます。

 

そういえばワイブル分布については今までほとんど問題も解いたことなかったですし、馴染みがあまりありませんでした。

 

ワイブル分布の式は『現代数理統計学の基礎』に倣ってf(x)=abx^{b-1}exp(-ax^b)としておきます。

期待値の導出

定義通りに計算します。

\int_0^\infty xabx^{b-1}exp(-ax^b)dx\\=\int_0^\infty abx^bexp(-ax^b)dx

ここでax^b=tとして置換します。すると

\int_0^\infty(\frac{t}{a})^{\frac{1}{b}}exp(-t)dt\\=a^{-\frac{1}{b}}\Gamma(\frac{1}{b}+1)

となります。

 

分散の導出

これも二次のモーメントからゴリゴリ計算します。

\int_0^\infty x^2abx^{b-1}exp(-ax^b)dx\\=\int_0^\infty abx^bexp(-ax^b)dx\\=\int_0^\infty(\frac{t}{a})^{\frac{2}{b}})exp(-t)dt\\=a^{-\frac{2}{b}}\Gamma(\frac{2}{b}+1)

 

これをみるとワイブル分布のn次モーメントは

a^{-\frac{n}{b}}\Gamma(\frac{n}{b}+1)

という単純な形で推測できることが分かります。

 

よって分散は

V(X)=E[X^2]-(E[X])^2\\=a^{-\frac{2}{b}}\Gamma(\frac{2}{b}+1)-a^{-\frac{1}{b}}\Gamma^2(\frac{1}{b}+1)\}\\=a^{-\frac{2}{b}}\{\Gamma(\frac{2}{b}+1)-\Gamma^2(\frac{1}{b}+1)\}\}

となります。

代表的な確率分布を覚えやすいようにまとめてみる①-離散型-【統計検定1級対策】

明けましておめでとうございます。

 

さて、今年も統計の勉強記事からあげていきます。

 

統計検定1級において確率分布は基本事項として問題を解く際に前提知識として必要なことも多いですが、その特徴自体が問題として問われることもあります。

 

しかしながら、しょっちゅう統計の問題解いているわけでないと、すぐ忘れてしまうんですね。大学受験時代の記憶力はもはや保たれていないようです(汗

 

というわけで、統計検定1級で出てくる代表的な確率分布をすぐ思い出せる&覚えやすくするために簡易にまとめてみます。自分の備忘録的な意味合いが強いです。細かい説明はないので、ある程度基本は知ってるけど試験のためなどで確率分布を覚えたい方、ご利用ください。今回は離散型についてです。

 

 

 

図にしてまとめる

f:id:medibook:20210102084456j:plain

確率母関数がわかれば、期待値や分散の導出は楽なので、ひとまずそれだけ書いてます。確率母関数が容易でないものは、期待値・分散の導出方法を書いてます。多項分布についてはあまり触れてませんが、、、。

 

ちなみに確率母関数は簡単に言えば、微分して1を代入することで下記の式の期待値を簡単に出すことができる道具みたいなもんです。

G_X(s)=E[s^x]\\G'_X(1)=E[X]\\G''_X(1)=E[X(X-1)]

 

各分布の式と確率母関数・期待値・分散

①一様分布

P(X=x|N)=\frac{1}{N}

 

E[X]=\frac{N+1}{2}

V(X)=\frac{(N+1)(N-1)}{12}

*べき乗和の式で1、2次のモーメントは簡単に計算できる

 

②ベルヌーイ分布

P(X=x|p)=p(x=1)  or  1-p(x=0)

確率母関数は G_X(s)=ps+1-p

 

E[X]=p

V(X)=p(1-p)

 

③二項分布

P(X=x|n,p)=_nC_xp^x(1-p)^{n-x}

確率母関数は G_X(s)=(ps+1-p)^n

*導出には2項定理を用いると良い

(a+b)^n=\sum_{x=0}^n{_nC_x}a^xb^{n-x} 

 

E[X]=np

V(X)=np(1-p)

*ベルヌーイ分布と比べるといずれもよく似ている 

 

Bin(m, p)+Bin(n, p)=Bin(m+n, p)

分布の再生性がある

 

ポアソン分布

P(X=x|\lambda)=\frac{\lambda^x}{x!}e^{-\lambda}

確率母関数は G_X(s)=e^{(s-1)\lambda}

 

E[X]=\lambda

V(X)=\lambda

*平均も分散も実は二項分布と一緒(pが限りなく小さいので1ーp→1となっている)

 

Po(\lambda_1)+Po(\lambda_2)=Po(\lambda_1+\lambda_2)

分布の再生性がある

 

⑤幾何分布

P(X=x|p)=p(1-p)^x

確率母関数は G_X(s)=\frac{p}{1-(1-p)s}

*導出には初項p、比を(1ーp)sとする等比数列の和になることを利用する

 

E[X]=\frac{1-p}{p}

V(X)=\frac{1-p}{p^2}

*無記憶性が特徴、連続型では指数分布に相当する

 

⑥負の二項分布

P(X=x|p)=_{x+r-1}C_xp^r(1-p)^x

確率母関数は G_X(s)=\frac{p^r}{\{1-(1-p)s\}^r}

*幾何分布の母関数をr乗したものとなっている

 

E[X]=\frac{r(1-p)}{p}

V(X)=\frac{r(1-p)}{p^2}

*ベルヌーイ分布と二項分布の変化と全く同様となっている

*連続型ではガンマ分布に相当する

 

⑦多項分布

P(X=x|p,n,K)=\frac{n!}{x_1!・・・x_K!}p_1^{x_1}・・・p_K^{x_K}

 

E[X_i]=np_i (i=1,2,...,K)

V(X_i)=np_i(1-p_i)

*導出は*1を参考

 

⑧超幾何分布

P(X=x|N,M,n)=\frac{_MC_x・_{N-M}C{n-x}}{_NC_n}

*他の分布に比べてぼっち感がありますが、フィッシャーの直接確率検定やログランク検定にも関わるので大事です

 

E[X]=\frac{nM}{N}

V(X)=\frac{nM}{N}(1-\frac{M}{N})\frac{N-n}{N-1}

*導出過程がテクニカルで大変です、概略については過去に記事書きました 

medibook.hatenablog.com

 

参考文献:

 

 

2020年を振り返って

さて、2020年も残すところ、あと2日ですね。

 

ブログの更新に真面目に取り組み出して、1年経ちました。この1年のことを振り返ってみようと思います。

 

統計を独学で勉強し出して1年半経った

ふと統計検定1級を受けることを思い立って、はや1年半以上経ちました。ようやく数理統計で学んでいることと、応用である医療統計が少し結びつき始めたように思います。

 

多分昨年くらいの医療統計レベルはこんなもんでした。

・RCTだからきっと信頼のおける結果なのだろう

・メタアナリシスだからきっと信頼のおける結果なのだろう

・大手ジャーナルだからきっと信頼のおける結果なのだろう

 

こんなことを信じてましたが、全然そんなことはありませんでした。

 

primary endpoint以外の結果が堂々と強調されていたり、そもそもprimary endpointが全然真っ当なものでなかったり(ソフトとハードがぐちゃぐちゃとか)、脱落者がたくさんいたり、その解釈がきっちり書かれてなかったり、、、COI(利益相反)の効果の恐ろしさがよく分かったように思います。

 

この辺の解釈に役立ったのはなんといってもこのブログでおすすめし続けている"JAMA User's Guide"でした。何度言っても言い足りないくらいおすすめです。研修医にも勧めてます。英語版は大変かもしれないですが、翻訳は翻訳で文章的にどうしても読みにくい部分があるので、英語版おすすめです。とはいえ事前に新谷先生の本とか能登洋先生の本とか日本語の医療統計の本を読んでおいた方が挫折しにくいかもしれないです(汗

 

 

批判的な目を養うと同時に、自分でも臨床研究まがいにデータ解析をしたりしてみて、いかに結果を正しく出すことが大変かも少しずつ分かってきたような気がします。

 

ブログでまだ紹介していませんが、科学哲学の本を何冊か買って読書中です。それを見ていると「科学的に正しい」ということの難しさを感じます。ある時代にはまるで定説のように見られていたことも、どれだけ覆されてきたことか。戸田山先生の本が導入には良かったと思います。

 

 

2020年は新型コロナウイルスのニュースに明け暮れていましたが、「科学的に正しい」とは言えないことが流布されることが、いかに多かったか。大阪府の某知事のうがい薬の件しかり、一次情報を少し辿ると「事実」とは言い難いことが「事実」のように広がっていました。

 

“専門家“と呼ばれる人たちも、言い方は悪いですが本当にピンキリで、何が正しいのかは情報を辿って理由や根拠を自分の頭で再度考え直す重要性を感じました。情報の伝わりやすさは以前に比べ明らかに発達してますが、その分切り捨てられて表面のみで伝わる情報があまりに多すぎます。

 

そうは言っても自分も同様に、感染初期のパニックな時期にはまともな判断能力があったとは言えないので、今後の教訓としたいですね。

 

第二子が生まれたこと

私生活では娘が生まれたことが嬉しい変化でしたね。賑やかで大変になりますが、一人目の時に比べたら、この変化はまだだいぶん楽な気がします(笑

 

妹の誕生によって長男の反抗期が増強されまして、やることなすこと、とにかく拒否。挙句に妹をおもちゃで殴ってみたり、、、。一日中面倒見ている奥さんの負担も大きかったかなと思ってます。いつも本当にお疲れ様、、、。

 

でもニコニコしてくれる可愛い赤ちゃんと、機嫌が良ければお調子者な長男の行動には笑顔をもらえて楽しかったです。今年も辛い状況の患者さんや治療に難渋した患者さんが多くいらっしゃったので、家での気分を少しでも切り替えていかないと気持ち的には大変でした。

 

来年に向けて

今年は試験中止となってしまった統計検定1級を来年こそは受験して合格したいと思います。あとは結局通らずじまいの論文を来年こそはアクセプト目指したいです。

 

ブログの記事は学びたい内容をなんでも詰め込みすぎて、ごちゃごちゃしたカオスなものになってますが、アクセス数の多い医療統計や数理統計の記事と(基本的に人気のない)哲学の記事も引き続きぼちぼちあげていこうと思います。

 

このような弱小ブログに来てくださった皆様、そしてコメントやはてなスター、ブックマークをしてくださった方々、どうもありがとうございました。来年度もよろしくお願いいたします。

マルティン・ハイデガーの『存在と時間』に入門してみる⑤

ハイデガーの『存在と時間』について、内容をさらに進めていきます。今回は本来的/非本来的存在・頽落についてとそれを構成する気分・了解・語りについてです。

 

目次:

 

前回までの記事はこちら↓

マルティン・ハイデガーの『存在と時間』に入門してみる④ - 脳内ライブラリアン

マルティン・ハイデガーの『存在と時間』に入門してみる③ - 脳内ライブラリアン

マルティン・ハイデガーの『存在と時間』に入門してみる② - 脳内ライブラリアン

マルティン・ハイデガーの『存在と時間』に入門してみる① - 脳内ライブラリアン

 

内存在の構成を詳しくみていく

これまでのところ現存在とその環境世界を中心に、存在とは何かを説明してきましたが、ハイデガーはさらに詳しく人間の存在の仕方(=内存在と呼ぶ)を見ていきます。

 

今まで見てきたように現存在は事物に対する配慮的気遣いと他人に対する顧慮的気遣いによる関係性を周りと構築していました。いずれも気遣いと呼ばれるものであり、この気遣いが存在の根本的な契機になっているとしています。

 

内存在のあり方について繰り返しハイデガーが強調するのは今までによく言われたきたような、「主観・客観の視点」から離れることです。この辺はクドいぐらいに述べられます。

 

内=存在とは、「世界」の客体的存在によってひきおこされ、あるいは少なくとも起発された、客体的主観の性状ではないということ、むしろ内=存在とは、この存在者そのものの本質的なありさまであるということであった。(*1 p.287)

 

さらには主観と客観の中間という考え方すらも、主観と客観を暗黙的に想定してしまうのでやめてくれ、と言っています。

 

この中間がそこに中間として「存在」しているふたつの存在者について、暗黙のうちに、存在論的な見積もりを立ててしまうからである。(*1 p.288)

 

こうした主観・客観とは離れた形で構成される気遣いと内存在が、どのように構築されているのかをさらに深めたところで描出されるのが、気分・了解・語りの3要素です。

 

「気分・了解・語り」とは

①気分

まずハイデガーは気分というものを気遣いの根源的な契機として挙げます。ここでいう気分とは普段感じるような「楽しい」「なんとなく落ち着かない」「不安」「怖い」などなどよく言われるような「気持ち」と同じ意味の言葉です。

 

こうした気持ちによって物や人への関わり方が変わるというのは確かに納得できることかと思います。気分が良ければある人にも寛容になれたり、良い目で見ることもできたりしますが、自分がすごく塞ぎ込んでいる時や落ち込んでいる時はどんな物や人も良い方向に考えられなくなったりします。

 

知識や意志によってこの気分を制したりすることもできるだろうとハイデガーは述べますが、そうであっても、その意志よりも気分が先に出現してくるという意味で、気分の方がより根源的な物だと述べます。確かに、嫌なことがあったら気分を変えようと気晴らしに向かったりしますが、嫌なことがあった時点で感じた不快な気分というのはすでに感じてしまっているわけです。気分よりもさらに「なぜその気分を感じるのか」を遡って考えることはできず、ここが根源を遡る上での底板になるのでしょう。

 

また、気分はどうにも変えられないことから、これを被投性と呼び、人間の認識や意志では変えようのないものとしています。そうは言っても、自分の行動で気分は変えられるんじゃないかと思いますが、実はそうではありません。

 

例えば、落ち込んでいる時に、友達と遊んだり、テレビや映画、ネットを見たり、気晴らしによって気分を変えようとします。これは、元々あった気分から回避する目的で別の気分を持ってくるわけです。元々最初に、意志では変えられない気分があるからこそ、回避しようとするわけなので、結局スタート地点はどうにもならないところから始まっています。

 

「何かを認識することで気分が生まれる」のではなく、この“気分“の方を根源に据えたところが、それまでの直近の哲学と異なるハイデガーのポイントとなります。

 

②了解

続いて、この気分と表裏一体の関係で語られるのが「了解」です。「了解」というのは、「気分」から「了解」していくのですが、これもまたわかりづらい話なので、例を作ってみます。

 

例えば、ふと朝「何となく頭が重いなあ」と思ったとします。そうすると「体調が悪いのかな」とか「天気が悪いせいかな」とか「今日の仕事が憂鬱だからかな」と色々な可能性があると思います。ある気分から広がる可能性を知っていることを「了解」といいます。

 

これはいろんな可能性を思い浮かべるのわけではなく、下図のような感じであらかじめ自分の中で作られているものです。*2の例を借りれば、「鳥」を見た時に「飛ぶ」「餌を食べる」「木に止まる」など様々な可能性をひっくるめた上で「鳥」を見るとき、「鳥」の存在を了解している、と言えます。実際にそのような様態をしていなくても、自分が「鳥だ」としてみる時点で先程挙げたような様々な可能性を鳥の中にみるわけです。

 

こうした可能性が広がっていくことをハイデガー企投と名付けています。企投というと「投げる」ような雰囲気があって能動的かのように聞こえますが、そもそも了解の時点でその可能性はほとんどあらかじめ思い描かれてしまっているもので、自分が決めていくものと言うわけではありません。*2によれば、ハイデガーはその活動の後期になると、この被投・企投といった単語を放棄しており、必ずしも適切なニュアンスではなかったようです。

 

③語り

気分、了解と合わせて内存在の根源となっているのは「語り」です。了解において下図される様々な可能性は、意義となり、言葉として言い表されます。例えば先ほどの例で言えば「飛ぶ」「餌を食べる」「木に止まる」と言った可能性をひっくるめたものを鳥と言い表しています。初めに言葉があって当てはめられるのではなく、了解による意義全体に言葉が当てはめられるわけです。

 

こうして言葉は了解の意義全体を切り取って、開かれる場となります。このことから「気分」「了解」と並んで同じくらいに根源的な意味を「語り」がもつということになります。言語の本質についてハイデガーは以下のように述べています。

 

「言語の本質はむしろ、言語のなかで人間がそもそもはじめて存在者へと乗り出すことのうちにあり」、「言語のうちで存在の根源的露見と示現(Offenbarung)が起こる」(*2より引用)

 

もう少しわかりやすい表現では次のようにも述べています。

 

「人間が言語をもつのではなく、言語が人間を『もつ』」(*2より引用)

 

また、共現存在との語りの場合も同様に、「了解」が前提となっており、「了解」を分かち合った状態で、話をしていきます。例えば日常の会話ではその話題の中心となっているものを、述べずに会話することがあります。宿題がでた翌日に友人と会話したとしましょう。すると

「(宿題は)もうやった?」

「やったよ」

というように、話題の中心が省略されることはよくあります。これはお互いに「了解」を分かち合っているからこそできることです。

 

本来性と非本来性

ハイデガーは以上3つの中の了解に触れるところで、世界の側から自己を了解することを非本来的な存在のあり方、自己の側から自己を了解することを本来的な存在のあり方と呼んでいます。

 

すなわち、了解が主として世界の開示態に身をおき、すなわち現存在がさしあたってたいてい自分の世界の方から自己を了解するという可能性がある。その反対に、了解が主としておのれの存在の主旨に身を投じ、すなわち現存在が自己自身として実存するという可能性がある。言いかえれば、了解は(後者のように)本来的な、すなわちおのれの自己そのものから発源する了解であるか、それとも(前者のように)非本来的な了解である。(*2『存在と時間』第三一節、p.316)

 

世界の方から決められた自己というのは、前回の記事で説明した「ひと」のような存在の仕方です。標準性を求め、平均化・均等化された存在です。そこで了解は世界の方から決められてしまいます。ハイデガーはこうした存在の仕方を非本来的と呼び、そうした状態を頽落と呼んでいます。

 

他方、自分自身が自分の在り方を決めるような存在の仕方を本来的なあり方としています。絶えず自分の存在を決めていく意味で大変な重荷であり、たいていの人は日常的にはそのようなあり方をしていないとしています。

 

注意しなければいけないのは、「本来的」「非本来的」なあり方というのは道徳的に「良い」「悪い」に対応する概念ではないという点です(どうしてもそう見えますけど)。ハイデガーはこの点を繰り返し強調し、「歴史が進んだら本来的になっていく」のように進歩する可能性も否定します。そういうものではなく、あくまでそれぞれ世界内存在のあり方の一つであると説明します。

 

「空談」「好奇心」「曖昧さ」とは

非本来的な・日常的な存在のあり方は前回の記事で書いた「ひと(世人)」というあり方でした。その「ひと」がとるような状態の例として「空談」「好奇心」「曖昧さ」の三つが出されます。

 

①空談

「空談」は上で述べたように話題に関する「了解」がないまま、うわべだけの情報をやり取りしちえるような会話を指します。平均的な理解をもとに、分かったようなつもりで、話を広げていきますが、実際は本当に理解はしていません。哲学書の解説のみを読んで、分かったようなつもりになり、その話を説明するようなもの(この記事のことかもしれない、、、汗)もそうだと言えるでしょう。また科学的な事柄も同様で、〜の薬が〜の疾患に良いという情報をよく調べもせずに鵜呑みにして、他の人や患者さんに話していく、というのも空談の例になるかと思います。

 

②好奇心

「好奇心」は何かの目的がなく、ただ見たいものを見ることが目的になってしまっている状態のことを指します。本来の「了解」は自分の周りの世界に関わる可能性をめがけていくようなもの(企投)でしたが、それを失っている状態です。ネットのニュースサイトの記事なんかを見ると顕著なように思います。ただ不安や奇抜さ、怒りやエロなどをかき立てるような見出しで、好奇心を起こさせ、ひたすら見るけれど、自分の世界と関連性を見出せないものにあふれています。

 

③曖昧さ

「曖昧さ」はこうした「了解」が欠如した状態において、自分が本当に何が分かっていて、何が分かっていないか、よくわからなくなってしまい、「本来的なもの」を見失ってしまっていることを指します。

 

こうした内容は大衆社会批判ととても相性が良いのですが、繰り返しますと、あくまでハイデガーは道徳的な基準ではないと述べており、平均的・日常的なあり方はむしろこっちだとしています。存在の構造を明らかにするのが目的であって、道徳を語りたいわけではないということなのでしょう。

 

ただ、個人的には、よく批判されているように、この本来性・非本来性の区別が明確にされるものなのかというと必ずしもそうではないと思います。ただの好奇心で見ていたものが、いつの間にか自分の本来的なあり方に関わっていくこともあるように思いますし、空談のようなコミュニケーションも他人との関わりでは大事なことも多いと思います。1か0で区切れるようなものではないように思いますね。

 

参考文献:

*1『存在と時間』 

今回は二八節〜三八節あたりでした。

*2『ハイデガー存在と時間」入門』

TEDの動画で英語学習⑦-James Zucker: How do you know you exist

www.ted.com

 

聞き取りにくかった単語/解説

demolishing all his preconceived notions and opinions 信じられていた意見や概念を全て解体する

diabolical 悪魔の、極悪非道な

deceiver 詐欺師

dupe からかう、騙す 

wearily 疲れ切って

 

demolishは解体する、という意味の単語です。アメリカのコーパスで調べてみると、news関連で使われることが多く、関連性の強い単語としてPalestinian, Israeliといった単語が出てくるのはアメリカのニュースらしいなと思います。

 

dupeは間抜け、騙されやすい人といった意味の名詞にもなる単語です。動詞として受動態で使われることも多そうです。口語に近いのでblogでよく使われている表現ですね。has been duped by the media、be duped into believingなどの表現がコーパスでは目立ちます。〜と信じるように騙されている、という意味合いでしょうか。

 

感想

3分でわかるルネ・デカルトの「我思う、故に我あり」という動画でした。この言葉のみがどうしても有名ですが、デカルトの哲学はこれが到達点ではなく、この言葉を元に一歩も二歩も踏み込んでいって神の存在証明について考えていくところが面白いところのようです。デカルトの思想をまとめた本としてはこちらが幅広くかつ簡単にまとまっていてわかりやすかったです。

 

 

不安をあおるだけの新型コロナウイルスのニュースにウンザリしている話

今日のニュースでこんな記事が。

 

変異のコロナ 世界で影響拡大 専門家「国内入る前提で対策を」 | 新型コロナウイルス | NHKニュース

感染力7割増し、欧州各国でもコロナ変異株 英国から [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル

 

 

内容を読んでいくと、「スパイクたんぱく質」と呼ばれるヒトの細胞の受容体にくっつくたんぱく質が変異したウイルス株が多く確認されているよ、というお話のよう。一般的な医学で学ぶ知識としてウイルスは感染・増殖の過程で変異をするものなので、それだけであれば、「そんなこと今もどこかで起こり続けているでしょう」でおしまいかなと思うんです。

 

改めてNHKニュースの見出しを見てみると

 

「変異のコロナ 世界で影響拡大」

 

まるで、変異したコロナが世界で猛威を振るい始めているかのようにみえます。”影響”というのは、イギリスで発見された変異株を警戒して周辺国がイギリスからの移動を封鎖しているということのようです。

 

変異した株による感染の重症度が示されているわけでは決してありません。同様に変異株が確認された国が大幅に感染者を増やしているわけでもありません。

 

イギリスを代表する医学雑誌BMJにもニュース記事としてまとめられていました。

Covid-19: New coronavirus variant is identified in UK | The BMJ

 

「感染力が強いのか?」という質問に対して

“This variant is strongly associated with where we are seeing increasing rates of covid-19. It’s a correlation, but we can’t say it is causation. But there is striking growth in this variant, which is why we are worried, and it needs urgent follow-up and investigation.”(上記より引用)

 

「感染者数の増加と相関はあるが、増加の原因とはいえない。変異株の急激な増加があるので、それを懸念しており、早急にフォローアップと調査が必要だ。」とあります。そして、重症度との関係は示唆されていません。

 

 

 

続いて、朝日新聞デジタルの見出し。

 

「感染力7割増し、欧州各国でもコロナ変異株」

 

なかなかのパワーワードです。

 

ここでふと「感染力7割増しなんてどうやって分かるんだ?」という疑問が生まれます。

 

変異株の感染者数を追っていく?全部の症例について変異かどうかを調べていく?

 

明らかに無理そうです。記事には冒頭に「感染力が従来より最大7割強いとされる」と当然の事実のように書いてあります。誰が言ったかと思えばイギリスのジョンソン首相でした。NHKの方の動画をみると確かにそのように言っています。

 

元のネタはBBCニュースのようなので、そちらのページに飛んでみました。

New coronavirus variant: What do we know? - BBC News

 

プレゼンテーションの中で「70%増し」というのを医師が述べていたようです。youtubeにプレゼン動画ありましたが、すみませんがそこまでは見る気力がありませんでした。

During the talk he said: "It is really too early to tell… but from what we see so far it is growing very quickly, it is growing faster than [a previous variant] ever grew, but it is important to keep an eye on this."

There is no "nailed on" figure for how much more infectious the variant may be. Scientists, whose work is not yet public, have told me figures both much higher and much lower than 70%.(上記より引用)
上の文を読むと、つまり、その数値を示すような肝心の図表はないわけで、まとめた内容・研究も公表されていない。だけど70%という吟味できない数値だけが独り歩きする。一国の首相が中身が公表されていないような数値を全国民に伝えて、さらなる不安と混迷に導いてどうするのだろうと思います。
 

コロナの利用可能性ヒューリスティックは高められ続けている

人はたいてい何かが発生する確率を考えるとき、身近な事例を通じて判断します。行動経済学の用語でこれは利用可能性ヒューリスティックと呼ばれます。
 
例えば飛行機事故や飛行機を使ったテロのあとには、大々的なニュースをみて、飛行機に乗った際の事故の確率が過大に評価されます。飛行機の利用が減少し、そのぶん自動車の利用率が増加したりします。
 
ただ問題なのは、実際は飛行機よりも自動車のほうが事故で死亡する確率のほうが高いということ。
 
まして多くの人が飛行機をやめて車を使うことでなおさら事故の確率が上がってしまうことがあります。確率や頻度は直観では人はうまく判断できないわけです。
 
新型コロナのニュースの現状はこの利用可能性ヒューリスティックの作用を高め続けています。直観的なコロナの死亡率や感染確率は高まり続けていることでしょう。もうすぐ1年になるにも関わらず、まったく報道が変わる気配がないことに本当にうんざりします。
 
例えばこうした数を全面に出す見出しは、見飽きるほど毎日出されます。

東京 新型コロナ 1人死亡 392人感染確認 月曜日の発表では最多 | 新型コロナ 国内感染者数 | NHKニュース

 

検査数に応じて変化するような感染者数が重要ではないこと(もちろん意味がない数値ではないですけど)、死亡者数や重症者数を交えた数値のほうがはるかに意味があることは、いい加減分かると思うんです。

 
そして、この謎の「月曜日の発表では最多」という文言。いちいち曜日ごとに最多ということに何か意味があるのでしょうか。ウイルスは曜日で活動を変えているんでしょうか。
 
検査数などの問題で土日との違いがどうこうは分かる気もしますが、それでも曜日ごとの数値を比べて「最多」と言いたがる意味は分かりません。
 
「最多」がなければ「感染者数~人以上が~日連続は初めて」など手を変え品を変え、何かと新記録を樹立させたがります。今や純粋な数値は調べればすぐに出てきますので、数値を知りたいならそれを見れば良く、明らかに不安を煽るだけの解釈をいれた見出しは、精神的に悪影響でしかありません。
 
こうしたコロナの利用可能性ヒューリスティックで問題なのは、先ほどの飛行機と車の例と同様に、もう一つの問題である「失業」、「倒産」、さらに「自殺者増加」という実際には膨らみつつある問題(というかすでに膨らんでいる)をマスクしてしまうことです。
 
以前の記事でも書きましたが、人が死ぬのは病気そのものではないことも多いわけです。

medibook.hatenablog.com

 

皆がこうしたニュースの見出しを真に受けているわけではないと思いたいですが、もうそろそろ必要以上に過敏になるのはやめて、自粛による生活への影響を本気で考えてほしいと思います。
 
指定感染症も1年延長となりましたが、これも本当に生活の影響を多大に受けている人のことを思うと、どうかと思いますけどね、、、。保健所の負担もかかり続けています。

厚労省、新型コロナの指定感染症を1年延長へ 感染症法の改正検討 - 毎日新聞

 

ネット上での賛同を求めるサイト"change.org"で指定感染症レベルを下げるキャンペーンがありましたので、興味ある方は調べてみてもらえるといいかなと思います。賛同する方はぜひ意思表明を。

キャンペーン · 経済活動に関わる全ての人: 新型コロナの指定感染症レベルを下げてください! · Change.org

 

現代数理統計学の基礎 7章 問6

7章問6は分散の異なる二つの正規分布における尤度比検定とその棄却域の問題です。

 

1問目は分散の比をλとして、単純仮説の尤度比検定を求めていきます。

 

まず帰無仮説下において、\sigma^2_Y=\lambda\sigma^2_Xとなります。

 

ここでの最尤推定量を求めていくと、対数尤度関数を微分して

\frac{\partial}{\partial\sigma^2_X}logL=-\frac{m+n}{2\sigma^2_X}+\frac{\sum x_i^2}{2\sigma^4_X}+\frac{\sum y_i^2}{2\lambda_0\sigma^4_Y}

となります。

 

=0として、変形すると最尤推定\hat\sigma^2

\hat\sigma^2=\frac{1}{m+n}(\sum x_i^2+\frac{\sum y_i^2}{\lambda_0})

で求まります。

 

続いて対立仮説における最尤推定量は

\hat\sigma_X^2=\frac{\sum x_i^2}{n}, \hat\sigma_Y^2=\frac{\sum y_i^2}{m}

となります。(公式の回答はmとnが逆になってます。多分誤植。)

 

今回検定にかかる統計量はλなので、\hat\lambda\hat\sigma_X^2=\hat\sigma_Y^2とおいておきます。

 

すると尤度比を計算していくと(結構書くのが面倒なので端折りますが)

(\frac{n+m\frac{\hat\lambda}{\lambda_0}}{n+m})^{-\frac{n+m}{2}}(\frac{\hat\lambda}{\lambda_0})^{\frac{m}{2}}

になります。

 

expの中身は計算すると綺麗に0になるのが分かりますので、このようなスッキリした形に落ち着きます。

 

−2logをつければカイ二乗分布に従うようになるので

(m+n)log\frac{n+m\frac{\hat\lambda}{\lambda_0}}{n+m}-mlog\frac{\hat\lambda}{\lambda_0}\sim\chi^2_{1,\alpha}

 

が答えとなります。

 

続いて(2)ですが、\hat\lambdaがF統計量に従うことを利用します。\lambda_0は定数であるため、\frac{\hat\lambda}{\lambda_0}\sim F_{n,m}となります。

 

尤度比検定の結果から定数c1、c2を用いて、棄却域は

\frac{F}{\lambda_0}\lt c_1, \frac{F}{\lambda_0}\gt c_2と言えるので

先程のF統計量を用いれば

\frac{\hat\lambda}{\lambda_0}\lt F_{n,m,1-\frac{\alpha}{2}}, \frac{\hat\lambda}{\lambda_0}\gt F_{n,m,\frac{\alpha}{2}}

となります。