脳内ライブラリアン

脳内ライブラリアン

医療、統計、哲学、育児・教育、音楽など、学んだことを深めて還元するために。

MENU

J.S.ミルと自由について②

前回に引き続き、ミルの人物像について書いていきます。今回は父親と同様にミルにとって大きな存在である、ハリエット・テーラーについてです。

 

前回記事はこちら

J.S.ミルと自由について① - 脳内ライブラリアン

 

J.S.ミルとハリエット・テーラー

24歳で出会ったハリエット・テーラー(22)はなんとすでに結婚した女性、かつ子持ちでした。にも関わらずミルは相当に彼女に惚れ込んでいたようで

「それまでに私の知ったすべての人たちに一つずつでも見いだしえたらさぞうれしく思ったろうと思われるいろいろな美質をたばにしてそなえている」(杉原四郎著『J.S.ミルと現代』より引用)

とまで述べています。実際彼女はミルの著作にもアドバイスを与え共同著作という形をとっています。

 

すでに結婚していたハリエットと周囲の反対を押し切って交際を続け、20年近い時が経って夫のテーラー氏が亡くなり、43歳(1849年)になってついにハリエットとミルは結婚しました。粘り強すぎます、、、。こうした周囲の常識に流されず、個人の自由として許される範囲(なのか微妙だが)はやりたいことを貫くこともミルの姿勢を示しているかもしれません。

 

 この1年前(1848年)には『経済学原理』を書いており、ミルの名声は徐々に広がっていきますが、1858年に南仏のアヴィニョンで旅行中にハリエットが倒れ、亡くなります。翌年1859年に53歳となったミルが書いたのが『自由論』です。

 

さらにその2年後の1861年に『功利主義』を書き上げます。加えて1869年に『女性の隷従』を書きます。ハリエットが著作に参加していることからわかるように、女性についても平等だとミルは考えており、婦人参政権の獲得に向けて運動を行っていました。そこに関して書いたのが『女性の隷従』でした。

 

ハリエットの娘である、ヘレン・テーラーがこの時にはミルの世話を行っていることも印象的なエピソードです。母親と不倫関係にあった男性という微妙な関係ですが、母の死があってからミルのもとを訪れ、身の回りの世話をするというのは母とのミルの関係やミル自身にも尊敬させる何かがあったということでしょう。

 

晩年のミルはハリエットの亡くなったアヴィニョンに仮の住まいを建てて、時々そこで過ごしていたようです。そして、1873年に最愛の妻の眠る地で生涯を終えます。

 

とてもドラマチックな人生でしたが、ところどころにミルのもつ個人の自由の重要性や平等に対する考え、教育への啓蒙的な思想がちらちらと見えるのが面白いところです。

 

次はミルのもつ思想の根本である「功利主義」についてみていきます。

 

参考文献(前回記事で内容は紹介しています):

J.S.ミルと現代 (1980年) (岩波新書)

J.S.ミルと現代 (1980年) (岩波新書)

  • 作者:杉原 四郎
  • 発売日: 1980/04/21
  • メディア: 新書
 

杉原四郎著『J.S.ミルと現代』

功利主義とは何か

功利主義とは何か

 

 ピーター・シンガー、カタジナ・デ・ラザリ=ラデク著『功利主義とは何か』

功利主義入門―はじめての倫理学 (ちくま新書)

功利主義入門―はじめての倫理学 (ちくま新書)

  • 作者:児玉 聡
  • 発売日: 2012/07/01
  • メディア: 新書
 

児玉聡著『功利主義入門』 

中村隆之著『はじめての経済思想史

標準正規分布とカイ2乗分布・ガンマ分布の関係について、整理と証明【統計検定1級対策】

統計検定をとることがキャリア的に少し意味が出てきそうになってきたので、また重要事項の整理を始めたいと思います。

 

統計検定1級の過去問で仮説検定の問題を解いていたのですが、標準正規分布とχ二乗分布、t分布、F分布という地盤がぐらぐらだ、、ということに気づいたのでまとめなおしていきます。

 

今回は標準正規分布とχ2乗分布の関連について証明を入れて考えていきます。

 

標準正規分布とカイ2乗分布の関連

定理

確率変数Zが標準正規分布に従うとするとその2乗は自由度1のカイ2乗分布に従う。

Z^2\sim\chi_1^2

さらにそれぞれ独立な確率変数Z_1, Z_2, ... ,Z_nがあるとするとその和は自由度nのカイ2乗分布に従います。

Z_1^2+Z_2^2+ ... +Z_n^2\sim\chi_n^2

 

標準正規分布の2乗がカイ2乗分布になるというのは重要で、仮説検定でもよくつかわれます。これを証明していきます。

 

証明①

まずは一つの確率変数Zの場合です。標準正規分布確率密度関数

f(z)=\frac{1}{\sqrt2\pi}exp(-\frac{z^2}{2})

となります。

 

ここで平方変換を行います。z^2=yとしてみます。

 

ちなみに平方変換は

f(y)=\frac{d}{dy}\int_{-\sqrt y}^{\sqrt y}f(z)dz\\=\{f(\sqrt y)+f(-\sqrt y)\}\frac{1}{2\sqrt y}

となりますが、f(z)は正規分布で原点を軸に左右対称となるため

\{f(\sqrt y)+f(-\sqrt y)\}\frac{1}{2\sqrt y}=f(y)・\frac{1}{\sqrt y}

となります。

 

これを最初に式に当てはめると

f(y)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}exp(-\frac{y}{2})・\frac{1}{\sqrt y}

 

\Gamma(\frac{1}{2})=\sqrt\piなので

 

f(y)=\frac{1}{\Gamma(\frac{1}{2})}\frac{1}{2}(\frac{y}{2})^{-\frac{1}{2}}exp(-\frac{y}{2})

と変形できます。

 

一般に自由度nのカイ二乗分布Ga(\frac{n}{2},2)であり、自由度1のカイ2乗分布はGa(\frac{1}{2},2)となるので、上記の式と一致します。

 

証明②

続いてZ_1^2+Z_2^2+ ... +Z_n^2\sim\chi_n^2を証明します。

 

これは要するにカイ2乗分布の和の再生性、つまり

\chi_m^2+\chi_n^2=\chi_{m+n}2

が証明できればよいです。

さらにこれは上記のようにカイ2乗分布はガンマ分布の特殊形であるため、ガンマ分布の和の再生性が証明できれば良いと言えます。

 

確率密度関数の和については主に畳み込み法とモーメント母関数を用いた方法がありますが、モーメント母関数のほうが簡単なのでそちらを使ってみます。

 

簡単のため、互いに独立なガンマ分布Ga(α,1)とGa(β,1)の和を考えてみます。この和がGa(α+β,1)になればよいと言えます。

 

まず、Ga(α,1)のモーメント母関数を導出します。やり方としてはガンマ関数をうまいこと作り出して変形していきます。

 

E[e^{tX}]=\int_{0}^{\infty}\frac{1}{\Gamma(\alpha)}x^{\alpha-1}exp(-x+tx)dx\\=\frac{1}{\Gamma(\alpha)}\int_{0}^{\infty}x^{\alpha-1}exp\{-(1-t)x\}dx

 

ここで(1-t)x=yと変換するとdx=1/(1-t)dyとなるので

 

\frac{1}{\Gamma(\alpha)}\int_{0}^{\infty}x^{\alpha-1}exp\{-(1-t)x\}dx=\\\frac{1}{(1-t)^\alpha}\frac{1}{\Gamma(\alpha)}\int_{0}^{\infty}y^{\alpha-1}exp(-y)dy\\=\\\frac{1}{(1-t)^\alpha}\frac{1}{\Gamma(\alpha)}\Gamma(\alpha)\\=\frac{1}{(1-t)^\alpha}

 

となります。

全く同様にしてGa(β,1)についても

\frac{1}{(1-t)^\beta}となることが分かります。

 

すると二つの和のモーメント母関数は

E[e^{tX+tY}]=E[e^{tX}]E[e^{tY}]=\frac{1}{(1-t)^\alpha}\frac{1}{(1-t)^\beta}\\=\frac{1}{(1-t)^{\alpha+\beta}}

 

となり、最後の式はGa(α+β,1)のガンマ分布に他ならないため、ガンマ分布の和の再生性が証明できました。

 

以上から

「ガンマ分布の和の再生性がある→カイ2乗分布の和の再生性がある」となり、証明①で示したように、「自由度1のカイ2乗分布=標準正規分布の2乗」となることを踏まえると「標準正規分布の2乗の和は自由度nのカイ2乗分布に従う」と言えます。

 

モーメント母関数や変数変換の良い練習になりますね。

 

参考文献:

現代数理統計学の基礎 (共立講座 数学の魅力)

現代数理統計学の基礎 (共立講座 数学の魅力)

 

 

J.S.ミルと自由について①

ただの素人が書く哲学者シリーズ。

前回書いたとおりジョン・スチュアート・ミルについて今回は調べてみました。 

Index

J.S.ミルというとどんなイメージでしょうか。とりあえず知っているのは「自由論」を書いていて何だか自由について重要性を主張していたこと、くらいでした。

 

また、経済学者・功利主義者として有名で、今でも残る数々の名言を残しています。

「満足した豚であるより不満足な人間である方がよい。満足した愚者であるより不満足なソクラテスである方がよい。そして愚者や豚の意見がこれと違っていても、それは彼らがこの問題を自分の立場からしか見ていないからである」(ミル『功利主義』より)

 これはまたおしゃれな言葉ですね。他にも、「他人に危害を与えない限り、個人の自由は干渉されるべきではない」という他者危害原則「思想・言論・出版の自由」もミルが強く主張した内容です。これらは私たちにもなじみ深く感じるのは、日本国憲法第13条(幸福追求権)、第21条にも同様の内容があるからかなと思います。

 

十三条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


第二十一条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

 

実際こうした自由の主張自体は当時として目新しいものではなかったようですが、その根底にある考えと主張の力強さが今も顧みられる理由のひとつです。そこで、ミルがなぜ個人の自由をここまで特別だと考えたのか、解釈してみようと思います。

 

J.S.ミルが生まれた時代は?

1806年に生まれ、1873年に亡くなっています。この頃のイギリスはヴィクトリア女王の時代で、インド・中国といった植民地をもち、黄金時代を迎えていきます。以前書いたアダム・スミスのころに工業化が進んでいますが、その後労働者階級への選挙権拡大を求めるチャーティスト運動(1837-1858年頃)や輸入規制の法律撤廃など自由主義運動が活発化してきており、さらに2大政党政治もなされています。自由主義運動の名がつく通り、ここにもミルは大きく関連してきます。

 

J.S.ミルはどんな人か

カントの人生はこれと言って書くことがないほどに、真面目~な人生でしたが、ミルについては色々逸話が多くあります。

 

ミルは1806年ロンドンに長男として生まれました。必ず触れられるのは父親であるジェームズ・ミル(1773-1836)です。現代人もビックリの教育パパです。

 

ジェームズ・ミルもJSミルと同様に学者であり、道徳哲学や経済学を学んでいました。以前に触れたアダム・スミスとも関連が少しあります。

 

medibook.hatenablog.com

 

アダム・スミスの弟子であるD・スチュアートから道徳哲学について学んでいるため、アダム・スミスの孫弟子であると言えます。ミルはさらにその父から教育を受けているのでひ孫弟子にあたるのでしょうか。

 

また、功利主義の祖である(功利主義については次回書きます)ジェレミ・ベンサムの盟友と言われており、これも子ミルに影響を大きく与えています。

 

さて、その父親の教育たるや凄まじいものがあります。学校には行かせず、父親の個人教授はなんと3歳から始まります。3歳でギリシャ語学習から始まり、8歳でラテン語、その後15歳になるまでにフランス語を習得し、数学、歴史、自然科学、経済学、倫理学の理論を叩き込まれます。

 

やばい、、、同じレベルでやろうと思ったら、うちの子は来年ギリシャ語教えないといけない、、、。

 

よくもこんなに教育受けて無事成長できたなあと思うのですが、実際父親に対しては思うところがあったようです。自叙伝の草稿にこのようなことを書いています。

 

「父は不釣り合いな結婚と烈しい性格のために、優しさと愛情の雰囲気を家庭内につくり出すことができなかった。私の少年時代に作用した道徳的な力のなかでもっとも好ましくなかったことは、愛の教育ではなくて、恐怖の教育であったことである。……私は教育はその一要素としての恐怖なしですませるとは思わないが、恐怖が主要な要素であってはならないと確信している。」(杉原四郎『J.S.ミルと現代』より引用)

 

まあ、そうだよね、、、。教育がなかなかに辛かったことをうかがわせます。

 

その後のミルは、17歳で当時インドの支配に強い力を持っていた東インド会社に就職します。これも父が東インド会社で働いていたためです。

 

自叙伝によれば、おそらくは父親からの重圧のため、20歳で「精神的な危機」に陥ったようです。そこでミルはフランスの作家マルモンテルの書いた回想録『父親の覚え書き』を読んで、涙を流し感動、精神的な危機から脱しました。なんというかすごく人間的に共感できるエピソードです。

 

そしてその後24歳で運命の女性であるハリエット・テーラー(人妻)と出会います。思った以上に長くなったので次回に分けます。

 

 

 

 

 

参考文献:

それぞれ簡単に紹介します。

J.S.ミルと現代 (1980年) (岩波新書)

J.S.ミルと現代 (1980年) (岩波新書)

  • 作者:杉原 四郎
  • 発売日: 1980/04/21
  • メディア: 新書
 

杉原四郎著『J.S.ミルと現代』

少し古い本ですが、ミルの詳細な人生・活動と同時代に生きたマルクスとの比較、当時の日本との関連性など示しています。ミルは経済学、哲学に精通しており、その活動もかなり多彩であったため、今回テーマとしている”自由”だけでなく、環境活動や女性・労働者の権利、経済についてどのような考えをしていたかがよくわかります。

功利主義とは何か

功利主義とは何か

 

 ピーター・シンガー、カタジナ・デ・ラザリ=ラデク著『功利主義とは何か』

現代を代表する功利主義者であるピーター・シンガーが書いた功利主義についての本です。様々な種類に分かれる功利主義についてや反論・疑問点をひとつずつ説明しています。功利主義というと「最大多数の最大幸福」という点で理解しやすく単純な思想のようですが、深めて考えるとどういうことになるのか、実によくわかる本です。この本自体が面白かったのでまた別でまとめる予定です。

功利主義入門―はじめての倫理学 (ちくま新書)

功利主義入門―はじめての倫理学 (ちくま新書)

  • 作者:児玉 聡
  • 発売日: 2012/07/01
  • メディア: 新書
 

児玉聡著『功利主義入門』 

かなり前に買った本ですが、いまだに時折読み返します。哲学・倫理学について考える入門書としても分かりやすく、のめりこめます。 

中村隆之著『はじめての経済思想史

以前の記事でも紹介しました。読みやすいです。 

ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方⑤ -研究の異質性-

今回で最後です。

研究毎の異質性の評価について書きます。

 

 

 

前回までの記事はこちら

ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方① -システマティックレビューとメタアナリシスの違い- - 脳内ライブラリアン

ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方② -バイアスリスクについて(risk of bias)- - 脳内ライブラリアン

ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方③ -effect size, standard mean differenceについて/固定効果モデルとランダム効果モデル- - 脳内ライブラリアン

ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方④ -フォレストプロット- - 脳内ライブラリアン

 

(2020.10.04追記)

より詳細なメタアナリシスの記事を追加しました

メタアナリシスについてより詳しく学ぶ①-fixed effects model, random effects modelと異質性

 

 目次:

 

 

研究の異質性の評価

f:id:medibook:20200627074819j:plain

前回使った表で下の部分に"Heterogeneity"というのがあると思いますが、これは果たして何でしょうか。

 

メタアナリシスでは様々なタイプの研究を評価します。そこで、それぞれの研究が均質なのかどうかが重要です。逆に均質でない(=異質性が大きい)と問題です。あまりに違うものを集めてしまうと意味がないからです。方法としてCochran's Q test(コクランのQ検定)やI^2検定などが知られています。

 

Cochran's Q test


χ二乗分布を使って、「帰無仮説:すべての研究のばらつきはたまたまである」を検定します。実際集めた研究の結果が一貫しているとしたら、「ばらつきはたまたま」であるはずなので、有意差は出ないことが望ましいといえます。よってp値は大きければよいです。上記の表ではp値が0.56と大きくなっているので問題なさそうです。

 

ただし、研究のサンプルサイズが小さいと研究の異質性を検出できない場合があるためサンプルサイズが小さいものでは過信できないと言えます。

 

I^2統計量


こちらも同様に均質性の評価する指標ですが、数値で程度を示すことが出来ます。

f:id:medibook:20200702044435p:plain

(JAMA Users' Guide to the Medical Literatureより引用)


0%に近ければ研究が均質であり、100%に近ければ研究の異質性が大きいといえます。100%に至っては図において"Why are you pooling?"とまで書かれています(笑)

 

一般に目安としては50%未満が望ましいとされています。今回のメタ解析の表では0%となっており均質性が保たれていることを示しています。

 

まとめ

meta-analysisの結果の解釈と見方について今まで説明してきました。バイアスリスクと結果の統合方法や、フォレストプロットの形、研究の異質性、それぞれの評価が必要です。これによって信用性やインパクトがどの程度であるかを推し量ることができます。

 

また触れるところがなかったですが、個々の患者さんに結果を応用する場合、もともとのprimary outcomeとされるイベントのコントロール群での発症率と介入群でのRRR(relative risk reduction: 相対リスク減少率)が必要です。

 

逆に、大勢に治療を行った場合の変化についてはこれだと分かりにくいので、ARR(absolute risk reduction: 絶対リスク減少率)や逆数をとったNNT(number needed to treat)が分かりやすいと言えます。

 

細かい統計的な計算方法については述べていませんがまたどこかでやろうかと思います。

 

(2021.06.28追記 医学論文の読み方関係の記事はこちらにまとめました) 

medibook.hatenablog.com

 

 

参考文献:

 

 

ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方④ -フォレストプロット-

引き続きメタアナリシスの読み方です。

よく使われるフォレストプロットの見方・結果の解釈について書きます。

 

以前に論文データのブログでの引用と著作権の問題について書きました。”引用”なら可能なのですが、この記事で果たして良いのか微妙なところに思えてくるので、今回は自分で描いた適当な図を載せてみます。

medibook.hatenablog.com

 

こちらが適当に描いた”メタアナリシスっぽい”図です。あるていどそれっぽくしてますが数値は適当です。

f:id:medibook:20200627074819j:plain

 このような図は結構よくあるんじゃないかなと思います。参考にしてどこをどうみるか見ていきます。

 

前回までの記事はこちら

ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方① -システマティックレビューとメタアナリシスの違い- - 脳内ライブラリアン

ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方② -バイアスリスクについて(risk of bias)- - 脳内ライブラリアン

ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方③ -effect size, standard mean differenceについて/固定効果モデルとランダム効果モデル- - 脳内ライブラリアン

(2020.10.04追記)

より詳細なメタアナリシスの記事を追加しました

メタアナリシスについてより詳しく学ぶ①-fixed effects model, random effects modelと異質性

 

 目次:

 

 

フォレストプロットの意味

 

 

f:id:medibook:20200701050918j:plain

 

まず、一番右の■と◆が並んだ図(赤線で囲んだ部分)。これをフォレストプロット(forest plot)と言います。サブグループ解析なんかでも使われるのでランダム化比較試験などでも見るかもしれません。

 

見方ですが、今回はオッズ比(odds ratio)を各研究の結果として統合したメタアナリシスという前提にしています。ちなみに他に各研究結果の指標としてハザード比(hazard ratio)、ARR(絶対リスク減少率)などが使われることがあります。

 

点線の真ん中がodds ratio 1(つまりコントロール群、介入群の差がない)としています。矢印が示す通り右側に結果が寄っていればコントロール群が優位で左側に結果が寄っていれば介入群が優位です。

 

各研究の結果の値は■の中央の位置が示します。横に伸びる線は95%信頼区間です。そして結果を統合したものが一番下の◆です。これも中央の位置が結果の値を示し、ひし形全体が95%信頼区間を示します。

 

ここでよく見ると、■の大きさがそれぞれ異なるのが分かります。■の面積は研究毎の重みづけの大きさ(weight)を示します。研究の規模が大きければ当然結果を統合する際に数値への影響が大きくなるので(前回記事参照)■が大きいものに結果は引っ張られます。

 

また、各研究のodds ratio、weightの具体的な数値は左の表をみると分かります。

f:id:medibook:20200701051814j:plain

それぞれのオッズ比と信頼区間、weightがありますね。下にある"total for overall effect"は全てを統合した結果とその有意差をみています。このメタアナリシスではひし形の端が点線に引っかかっていることからわかるように有意差(p<0.05)はなかったようです。

 

フォレストプロットの見方

数値さえ見られれば、フォレストプロットいらないんじゃないの、という気もするのですが、図は全体を俯瞰するのに役立ちます。ここでいくつかのフォレストプロットを比較してみてみます。

 

次のA、B、Cの図を比べた時にぱっと見で一番信頼がおけそうなメタアナリシスの結果はどれでしょうか。

 

f:id:medibook:20200701052012p:plain

JAMA Users' Guides to the Medical Literature 3rd editionより引用

まずCは最終的な結果の有意差がなく、AとBはいずれも結果に有意差が出ていることが分かります。

 

ただAの図は■の面積がいずれも小さく(つまり小規模研究)、結果のばらつきが左右に大きいことが分かります。結果的に統合されたものは有意となっていそうですが、これだけばらつきが大きいと信頼性は下がります。

 

それに対してBはどうかというと■の面積が大きい研究もあり、かつ結果は全体に似た傾向をもち、左に寄っていることが分かります。とすると、Bの方が結果に信頼性がありそうです。

 

このようにぱっと見でどの程度の結果の信頼性があるかが視覚的に解釈しやすいのがプロットの良いところです。

 

次回は最初の図の下の方に書いてある"heterogeneity(異質性)"について書きます。

 

(2021.06.28追記 医学論文の読み方関係の記事はこちらにまとめました) 

medibook.hatenablog.com

 

参考文献:

 

邦訳版はこちら↓

ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方③ -effect size, standard mean differenceについて/固定効果モデルとランダム効果モデル-

前回までの記事でメタ解析ではいかにして研究を集めて、バイアスリスクを評価するか、について述べました。今回からはいよいよメタアナリシスの肝である、集めた結果をどう統合するかを説明します。

 

まずは結果どうしが異なる指標の場合どうするか、ということ。次に結果の統合の方法について述べます。

 

前回までの記事はこちら

ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方① -システマティックレビューとメタアナリシスの違い- - 脳内ライブラリアン

ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方② -バイアスリスクについて(risk of bias)- - 脳内ライブラリアン

 

(2020.10.04追記)

より詳細なメタアナリシスの記事を追加しました

メタアナリシスについてより詳しく学ぶ①-fixed effects model, random effects modelと異質性

 

目次:

 

standardized mean difference / effect sizeについて

メタアナリシスを行う場合に、研究間で違う指標を使うことがあります。(例えば、認知機能の評価をするのにMMSEとMoCAとか)そうすると互いに比較や統合がしにくくなります。

 

そこで用いられるのがstandardized mean differenceです。それぞれの指標が平均同士の差である場合にstandardized mean differenceといわれますが、effect size, weighted mean differenceとかも大体一緒です。


やることとしては介入群とコントロール群の平均値の差を、標準偏差で割ります。

 

要するに偏差値の考え方と一緒


平均点30点の数学のテストでとった80点と
平均点70点の国語のテストでとった80点

 

この2つでは意味合いが全然違うので、標準偏差を使って割ることで、母集団と比べて
どのくらいの位置にいるのかを示したのが偏差値ですね。これと全く同じ話です。

 

ちなみにstandardized mean differenceの目安として


0.2→小さい 0.5→そこそこ 0.8→大きい とされています。(1=1SD分平均値の差がある、ということなので、1に近ければかなり大きいことになります)

 

固定効果モデルとランダム(変量)効果モデル

今度は結果の統合の方法です。それぞれ英語ではfixed-effects model, random-effects modelと呼ばれます。各研究の捉え方によってどちらを選ぶかが決まります。信頼区間もそれによって変わるのでどちらの方法を用いているか注意が必要です。 

①固定効果モデル

前提としてすべての研究結果に共通した真の値があると考えます。つまり試験は均質である、ということです。

 

そのため結果のばらつきはあくまで試験毎のランダムな誤差と考え、分散はそれぞれの研究内での分散のみを考慮します。基本的にサンプルサイズが大きい研究が重視される結果となります。重要なことは、信頼区間はランダム効果モデルより小さくなりやすいことです。(有意になりやすい)

 

②ランダム効果モデル

前提として、各研究は異なるもので、研究毎の異質性を考慮します。


そのため結果のばらつきは研究内容による研究間のばらつき+研究毎のランダムな誤差と考え、研究間の分散+研究内の分散を考慮します。こちらでもサンプルサイズが大きい研究が重視されますが、固定効果モデルのほうが影響は大きいです。また、こちらでは、信頼区間が固定効果モデルより大きくなりやすいです。(有意差出にくい)

 

 

 

続いては実際の結果の見方について書きます。

 

(2021.06.28追記 医学論文の読み方関係の記事はこちらにまとめました) 

medibook.hatenablog.com

 

参考文献:

これめちゃくちゃお勧めです。JAMAが出している医学論文の読み方を解説した本で、様々な手法の医学論文を網羅的に説明しています。論文読むたびに一度これを読んで、解釈にどういった注意点が必要なのかを確認しながら進めると、確実に論文を評価する能力と読むスピードが上がると思います。

 

ちなみにこちらが翻訳版です。読んでいるのは原著ですが、英語もさほど難しくないので原著でも読みやすいです。

ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方② -バイアスリスクについて(risk of bias)-

前回記事はこちら

ここまでは知っておきたいメタアナリシスの読み方① -システマティックレビューとメタアナリシスの違い- - 脳内ライブラリアン

 

引き続きメタ解析の読み方について紹介していきます。

 

目次:

 

バイアスリスク

一定の検索条件に沿って集めた論文を厳選したあとは、バイアスリスクの評価をしなければいけません。たいていの場合論文中に"risk of bias"という形で書いてあると思います。

 

例えばランダム化比較試験を集めたメタ解析で、二重盲検されていない研究があったとするとバイアスがかかるリスクが上がります。こういった評価項目(二重盲検されているorされていない)を多数用いて最終的にその研究のリスクがどれぐらいか(high or lowなど数段階での評価)を行っていきます。

 

評価項目に何を用いるかは論文中に明記してありますが、必ずコレ!と決まった方法があるわけではないです。論文によっては赤、緑、黄色などの〇が並べられた表がつくられていることがあります。これは論文ごとのリスク評価を示した表で、どの研究がどの点でバイアスの危険性があるのかを明示しています。

 

報告バイアス(reporting bias)

もうひとつ重要なのは報告バイアスです。

 

効果がなかった、あるいは有害事象が多かったstudyは報告まで挙がらないことが多い、というバイアスのことを言います。

 

研究者の立場で考えてみると分かりますが、ある治療Aと治療Bは差があるかもしれない!と思って調べてみたら「うーん、差が出なかったなあ」となった場合、「こんなの報告しても意味ないよなあ」となり報告されないことは十分に起こりえます。

 

英語版wikipediaにはさらにこれが細分化されています。

 

Reporting bias - Wikipedia

 

例えば、出版バイアスは報告バイアスのひとつで、効果が出なかったことが原因で出版されにくいバイアスのことです。wikipediaの冒頭に出版バイアス(publication bias)と混同されることがあるので気をつけろよ!と書いてあります。また結果が良くないことで出版に時間がかかる場合はtime lag biasと呼ばれます。どれも報告バイアスの一種です。

 

このバイアスのため効果があったstudyのみが報告され、集められてしまう危険性があるため、特にメタアナリシスでは注意が必要です。

 

大規模研究は結果の如何に関わらず、報告されることが多いため(お金もかかってるし)影響を受けにくいとされています。そのため、小規模研究が多数集められているようなメタアナリシスは特にこのバイアスに警戒する必要があります

 

米国であれば途中で中断された研究もFDAのレポートに載せられていることがあったりするので、研究計画の時点で報告がされていれば、ある程度防げる可能性はあります。

 

前回紹介したJAMA Users' Guides to the Medical Literatureより引用すると、このバイアスの評価の方法としては主に4つとされています。

Four Strategies to Address Reporting Bias

1. Examine whether the smaller studies show bigger effects

a. Funnel plots, visually assessed

b. Funnel plots, statistical analysis

 

2. Reconstruct evidence by restoring the picture after accounting for postulated publication bias

a. Trim and fill

 

3. Estimate the chances of publication according to the statistical significance level

 

4. Examine the evolution of effect size over time as more data appear
(JAMA Users' Guides to the Medical Literature 3rd editionより引用)

実際これらの方法も効果が確立された手段ではなく、しかも理想的には30以上の研究が必要、ということで報告バイアスの問題はメタアナリシスにおいて避けられないものではあると思われます。

 

この中から

①Funnel plot
②trim and fill method
③統計的な出版バイアスの検定
④報告が揃って来るまで時を待つ方法

 をそれぞれ見てみます。


①Funnel plot

funnnel plotとは下図のような図を指します。

f:id:medibook:20200630045228j:image

(JAMA Users' Guides to the Medical Literature 3rd editionより引用)

 

横軸にeffect size(試験の結果の大きさ、次回説明します)、縦軸に正確性(標準偏差とかばらつきを表す指標)をとって、試験を点でプロットします。
中央の点線は結果を統合して要約されたeffect sizeで、右に行くとcontrol群が有効、左に行くと介入群が有効としています。

 

すると本来上に行けば行くほど、結果が正確になるため点線に近づくはずです。逆に下に行けば行くほど、ランダム要素が強くなるので結果がばらつく。さらにこのばらつきはランダムであるため左右対称性になるはずです。

 

なので、左の図は良い例、右の図は悪い例となります。

 

ただし、これだけで何でも説明できるわけではなく、研究毎の均質性の問題で、左右対称になっていないのかもしれないので均質性はよく検討する必要があります。

②trim and fill method

①のfunnnel plotで左右対称になっていない部分の研究を想定して
数値を作り出し埋める、という方法です。研究が均質であれば、たまたま左右対称になっていない部分の研究がされていないだけ、という仮説が成り立ちそうですが、上述のように、そもそも研究が均質でないだけかもしれないので、あまり良い手段とはされていないようです。

 

③統計的に出版バイアスがあるかどうか検定する

Begg's test, Egger's testなどの方法があります。数学的に詳細な検定の方法はすみませんが、分かりません。小児科医&疫学者の先生のブログに書いてあった記事が内容として分かり易かったです。

システマティック・レビューとメタ解析について⑦ 〜出版バイアスの評価方法 2(Begg’s testとEgger’s test)〜|ドクターキッド(Dr.KID)

 

・Begg's test

Funnel plotを検定してみた感じのイメージでしょうか。治療効果と各試験の分散の相関関係を調べます。つまり、メタアナリシスで採用された研究をみたとき、分散が小さく(大規模研究)、治療効果が大きかった研究が多いようであれば、分散と治療効果の相関関係があることになってしまい望ましくないとされます。


・Egger's test

治療効果と標準偏差の逆数の回帰分析を行って関連を調べます。Begg's testと同様に治療効果と標準偏差(研究の規模)の関係性があっては良くないといえます。

 

④報告が揃って来るまで時を待つ

まあそれはそうだよね、というところですね。ある程度の研究数がなければ良いメタアナリシスはどうしてもできないので少数研究でされている場合はいくらメタアナリシスのエビデンスが強いと言えど解釈には慎重になる必要があります。

 

(2021.06.28追記 医学論文の読み方関係の記事はこちらにまとめました) 

medibook.hatenablog.com

 

参考文献:

これめちゃくちゃお勧めです。JAMAが出している医学論文の読み方を解説した本で、様々な手法の医学論文を網羅的に説明しています。論文読むたびに一度これを読んで、解釈にどういった注意点が必要なのかを確認しながら進めると、確実に論文を評価する能力と読むスピードが上がると思います。

 

ちなみにこちらが翻訳版です。読んでいるのは原著ですが、英語もさほど難しくないので原著でも読みやすいです。