脳内ライブラリアン

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Paroxymal Sympathetic Hypersensitivity

今回は頭部外傷、低酸素脳症蘇生後脳症脳卒中後で

交感神経症状(高体温、発汗、頻脈、頻呼吸)が強力に現れる

症候群についてのreview articleをまとめました。

 


そもそもそんな症候群を認識したことがなかったのですが

確かに脳梗塞後で特にかなり広範な脳梗塞の場合に(大抵脳ヘルニアで亡くなってますが)

感染源のわからない異常な高熱など交感神経症状が出ることはありました。

 


有効な治療は確立されていないようですが、特徴や有効な可能性のある

治療は知っておいたほうが良いように思います。

 


2017年のLancet neurologyからの文献です。

Geert Meyfroidt, Ian J Baguley, David K Menon et al 

Paroxysmal sympathetic hyperactivity: the storm after acute brain injury

Lancet Neurol 2017; 16: 721–29

 


◇概念

 


刺激に対して高体温、発汗、発作性の頻脈、頻呼吸、肢位の異常を示す状態。

 


全体の80%が頭部外傷後に起き、他に脳卒中低酸素脳症など重度の脳障害で起きるとされている。

 


dysautonomia, autonomic storms, sympathetic storms, autonomic sizures, hypothalamic stormsなど多彩な表現がされており、用語の統一がなく、認識があまりされていなかった。

 


2010年の論文(Perkes I, Baguley IJ, Nott MT, Menon DK. A review of paroxysmal sympathetic hyperactivity after acquired brain injury. Ann Neurol 2010; 68: 126–35)で"Paroxymal Sympathetic Hyperactivity"という用語が提唱された。

 


さらに2014年専門家のグループによりコンセンサスがとられた。

 

 

 

◇定義と診断基準

 


〇定義

 


2014年のコンセンサスで得られた定義は

"重度の脳の障害を受けた患者で、発作性かつ一過性の交感神経症状(頻脈、高血圧、頻呼吸、高体温、発汗)と運動・肢位の異常を伴う症候群"

 

 

 

〇診断基準

 


この論文で示されている診断基準としてPSH Assessment Measureがある。

 


大きく分けて「重症度」と「診断のそれらしさ」、2つのコンパートメントに分けられる。

 


「重症度」(Clinical feature scale)として、上記の定義に当てはまる症状をスコアリングしている。

脈拍、呼吸回数、収縮期血圧、体温、発汗、エピソード中の姿勢異常 の各3点×6項目

 


0点であればなし、1-6点は軽度、7-12点は中等度、13点以上が重度と判断される。

 


「診断のそれらしさ」(Diagnosis likelihood tool)として

・先行する頭部の障害

・上記の症状が同時に起きること

・上記の症状、エピソードが発作性に起きること

・普通の刺激に対して、交感神経が過剰に反応すること

・エピソード内で副交感神経症状が出ていないこと

・3日以上上記の症状が連続して持続すること

・頭部の障害から2週間以上上記の症状が持続すること

・1日に2回以上のエピソードがあること

・症状に対する他の原因がないこと

・他の鑑別診断に対する治療を行っても症状が変わらず持続すること

・交感神経症状を抑制する薬剤が投与されていること

の各1点×11項目

 


両方を総合したスコアが8点未満でunlikely, 8-16点でpossible, 17点以上でprobableとなる。

 

 

 

 


〇発症時期と期間

 


初期からリハビリなどを行っていく回復期までの段階でどこでも起きることがある。

 


急性期は鎮静をかけているため気づきにくい場合があり、徐々に中止していく段階で

分かることがある。

 


2週間~数か月持続することもあり、後遺症としてdystoniaや痙性が残ることもある。

 

 

 

◇疫学

 


2010年に出された上述のreview articleでは349例のPSHを調査。

80%がTBI, 10%がanoxic, 5%がstrokeによるもので、残りの5%が水頭症、腫瘍、低血糖、感染、原因不明に分類された。

 


有病率には変化があり1998-2005年と2006-2010年の期間で比較したstudyでは

低下傾向がみられている。

 


小児例でも報告があるが割愛。

 

 

 

◇outcome

 


PSHに至るような患者ではそもそも脳の障害が重度であるためPSH単独での

予後への影響を判断するのが困難。

 


各種studyでも入院期間、ICUの入室期間、リハビリセンターの入院期間、人工呼吸器の装着期間など長い場合とそうでない場合でばらつきがある。

 


理由として①GCSやFunctional Independence Measureを指標として用いているが、神経学的な状態の違いをそれだけで十分に評価できないこと、②PSHの持続期間によっても影響が大きく変わること(多くのstudyはあるなしのみで比較されている)が挙げられる。

 

 

 

 


◇治療

 


大きく分けて3つの治療方針がある

①発作を誘発するトリガーを抑える

②交感神経の過剰を抑える

③PSHによる他の臓器への影響を抑え、全身管理を行う

 


Case studyもしくはsmall case seriesくらいしかないので

エビデンスの高い治療はない

 


Local customに従った治療が多い

 


よく用いられるのは

オピオイド、β blocker、α2 agonist、ベンゾジアゼピン、静脈麻酔薬、抗てんかん薬、ダントロレン

 


他、治療薬についての考察としては

・薬剤によって効果と発作予防/発作中に使うかがそれぞれ異なる

・βblockerはnon selectiveかつBBBを通過できるためpropranolol がよく用いられる

・③の全身管理のうちリハビリによる拘縮予防や栄養療法も重要である

   発作中は明らかにカロリー消費が増える

   ICU症例では25-29%も体重が減ったとの報告もあり